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「柔軟に柔らかく愛情を注ぎながら仕事をすること」橋口弘次郎調教師にインタビュー

  • 2016年03月08日(火) 18時00分
競馬の職人

橋口弘次郎調教師と



橋口弘次郎調教師「時間に余裕ができると思うので嫁さん孝行しますよ(笑)」

 春ですねー! 新人騎手も調教師も開業され賑やかに盛り上がってきました。

 中でも菜七子さんフィーバーはすごいですね。僕のデビュー時も同期に増沢由貴子さん、田村真来さん、そして細江純子さんと女子3人、競馬界をにぎわしたことを思い出しました。あの時もすごかったですよ。人数は菜七子さんの3倍、女子3人ですからね。女子は強い!!

 やっぱり女子は、華やかでいいですねー! 競馬界だけではなくプロ野球OP戦開幕に合わせ始球式にも引っ張りだこだそうですよ。

 今週は桜花賞・皐月賞のトライアルレースが行われ3歳馬の層の厚さを見せつけられたレース内容でした。どの馬が勝ってもおかしくない壮絶なたたき合いの中、1歩抜け出したのがマカヒキ。リオンディーズとエアスピネルがかかり気味の中最後方からマカヒキが飛んできたって感じのレースぶり。3強対決を制し無敗の3連勝。感服です!

 3強とサトノダイヤモンドやハートレーなど他路線組との対決はどこまで続くのか・・・今年の競馬は馬からも人からも目が離せませんね。瞬きしてるひまないよー! しっかりライブ観戦で楽しみましょう!

 さて僕のコラムは惜しまれつつ競馬会を引退された橋口調教師の必話パート2
※3月6日の夕方ばったり、橋口先生にお会いしました。

常石 先生 お出かけですか?

橋口 TVばっかり見ていたので疲れました。ちょっと運動しなくてはね、散歩してきます。

常石 慎介先生開業おめでとうございます。早々に勝たれましたね。開業最初の週に3勝はすごいですね。おめでとうございます。

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6日のポラリスSを制したグレイスフルリープ



橋口 ありがとう。スタッフがみんなよくやってくれるから感謝ですよ。

★ここからは、先々週に取材した続きです。

常石 先生からの引継ぎで運営できるのでスタッフも慎介先生も仕事がしやすいでしょうね。

橋口 そうだね。2人が定年待たずに退職し、別の2人が他の厩舎へ移りましたが他のスタッフは残ってくれましたね。ありがたいことです。

常石 先生との信頼関係の強さだと思います。改めてお疲れ様でした。991勝というすごい数字を残された思いはどうですか?

橋口 いつの間にかこんな大きな数字になるくらい勝たせてもらいました。35年間はあっという間だったよ。時代背景がよかったですね。これからは厳しくなると思います。英語も話せないといけない時代になってくると思って、息子には外国の大学へ行かせました。18年間も連続で重賞も勝たせていただきましたがどんなレースにも思い入れはあります。開業当時は10馬房もらったけど馬は1頭もいなかったんだよ。1からというより0からの始まりでしたね。

常石 えー、馬は1頭もいなかったんですか? そこから重賞96勝もされたのはすごいことですね。ずっとダービーにこだわってきたのも信念ですね。

橋口 大きな目標を持って自分を追い込んでいくというのは大事だと思いますね。うれしかったダービーはやっぱりワンアンドオンリーで勝った時。悔しかったダービーはダンスインザダークのですね。ダービーにツルマルミマタオーで初参戦をしたときは、ワンアンドオンリー担当の甲斐君のお父さん、正文さんが担当だったよ。この時は競馬史上最多入場者数19万を超える人が来場して競馬場がどよめいた感じだったね。ツルマルミマタオーは4着に敗れたけれどよく走ってくれたよ。競馬人生をたっぷり楽しむことができたのもスタッフのおかげです。馬主さんにも大事にしていただきました。幸せでした。

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一番うれしかったダービーと語るワンアンドオンリーの表彰式(撮影:下野 雄規)



常石 991勝という大きな数字につながる調教の秘訣は何ですか?

橋口 坂路調教を早くからやったことで瞬発力の強い馬になりましたね。馬の持つ力を見つけ出すことが大事だから愛情をいっぱいに注いで大切に扱ってジックリ付き合うこと。馬の状態もそうですが人間に対してもオーバーワークにならない様、頭に入れて馬を見ていく。一生懸命にするなと口癖のように言ってきました。一生懸命にやると疲れるからどこかで息を抜く。ここまですればよいという線引きをしない。オーバーワークになるとパンクしてしまいますからね。柔軟に柔らかく愛情を注ぎながら仕事をすることを心がけてきました。

常石 いつもニコニコし穏やかな先生の表情に出会うと僕もほっとしました。いっぱいいろんなことを教えていただきました。もっともっと教えてくださいね。これからは何かしたいことあるんですか?

橋口 馬と付き合って48年です。時間に余裕ができると思うので嫁さん孝行しますよ(笑)。馬券も買えるようになりますね。

常石 先生は野球では巨人ファンとお聞きしましたが他にスポーツはされるんですか?

橋口 バドミントンは強かったんだよ。

常石 初耳です。ずっとされていたんですか?

橋口 学生時代にね。あれはハードなスポーツで見かけより体力がいるんだよ。手首の柔軟と瞬発力が大事だから騎手にもつながると思う。それと脚の踏ん張りが必要だね。

常石 僕は今、障害者乗馬にチャレンジしているんですが左麻痺があるので脚で踏ん張ることができないんです。左手で持つ手綱も馬の背中においてしまうので馬は合図と間違ってしまい混乱するんです。左手を強くしなさい、と乗馬の先生に言われているんです。自宅にラケットがあるので今度バドミントンやってみます。

橋口 ラケットをもって手首を8の字に回すんですよ。ときどきは瞬間的に足を1歩前へ出し気合を入れるといいよ。リズムも大事だね。馬の反動もリズムだよ。そのリズムがきちんととれないと馬の反動と自分の動きが合わなくなって馬が動かなくなってしまう。レース中にかかるって言うことは、リズムが合わなくてちぐはぐになってしまうことです。

常石 僕の乗り方がそうなっているんです。左足の麻痺のために体全体の重心が右寄りになってしまうので反対駆け脚が出ないんです。

橋口 それは麻痺に関係なく鞍はまりが悪いだけ。きっちりはまって乗ると重心がずれない。自分の乗り心地のいい場所を見つけなくてはいけないね。重心がずれないことが大事だよ。そこから脚をどう使うかでしょう。上手い騎手は、馬の重心と人間の重心が1本になっている。これこそが人馬一体だよ。

常石 よくわかります。きっちりはまったときはすごく乗り易かったです。意識をして乗ります。

橋口 そうだね。騎手だったんだから思い出すよ。

常石 慎介先生の開業にアドバイスされましたか?

橋口 特に何も言いません。息子なりにいろいろ考えてやっていると思うので任せます。どんな仕事振りか?それを見るのも楽しみです。

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馬房でのワンアンドオンリー



常石 僕のアドバイスもよろしくお願いします(笑)。趣味に時間が増えますね。奥様と一緒にお出かけください。今日は、長い時間ありがとうございました。また競馬場でお会いできるのが楽しみです。

***

 いつも優しくにこやかに話をしてくださる先生なので厩舎にはおじゃまムシと言われるほど訪問させていただきました。上手く聞けないときでもずっと待ってくださるのでいいコラムを書くことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。慎介先生にもお世話になっちゃおっと(笑)。迷惑かけますが今後ともよろしくお願いします。

 松田博資厩舎にもお邪魔させていただき名セリフでお話ししていただきました。最後にお聞きしたかったのですが「もうええやろ、しゃべらんでも。馬のこと見といてくれたら」と最高の決め言葉でおわりました。どうしても感謝の気持ちを伝えたかったので28日の最後の競馬の日にお手紙を持っていきました。ありがとうございました。つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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