スマートフォン版へ

欧州障害シーズンのハイライト、ワールドハードル&チェルトナムゴールドC展望

  • 2016年03月09日(水) 12時00分


ハードル3マイル部門の最高峰G1ワールドハードルの1番人気は“死角のない本命馬”シッスルクラック

 ヨーロッパにおける障害シーズンのハイライト「チェルトナム・フェスティヴァル(3月15日〜18日)」の展望を、先週に引き続いてお届けしたい。

 フェスティヴァル3日目のメイン競走として行われる、ハードル3マイル部門の最高峰G1ワールドハードル(芝23F213y)で、ブックメーカー各社が2倍前後のオッズを掲げて横並びで1番人気に推しているのがシッスルクラック(セン8、父ケイフタラ)である。

 ナショナルハントフラットで3戦1勝の成績を残した後、15年1月にハードルに転身。シーズン末までに6戦し、エイントリーのG1セフトンノーヴィスハードル(芝24F149y)を含む3勝を挙げ、この路線の新興勢力として脚光を浴びることになった。今季初戦となったニューバリーのG2ロングディスタンスハードル(芝24F52y)を6馬身差で快勝すると、続くアスコットのG1ロングウォークハードル(芝24F79y)を8馬身差で連勝。前走は、ワールドハードルと同コース・同距離のG2クリーヴハードル(芝23F213y)に駒を進め、ここも12馬身差で圧勝と、英国におけるこの路線の王道を圧倒的強さで勝ち進んできた。今季ここまでの競馬を見る限り、死角のない本命馬と言えそうである。

 各社が4〜5倍のオッズを掲げて2番人気に推すのが、初日のG1チャンピオンハードルの本命馬として先週のこのコラムでご紹介した、牝馬のアニーパワー(牝8、父シロッコ)である。詳しい戦績は先週のコラムをご参照願いたい。

 馬主のリッチ・リッシー氏(名義は妻のスザンナ・リッシーさん)、管理するW・マリンズ師は、フェスティヴァル初日のG1チャンピオンハードル、同じく初日G1メアズハードル、3日目のG1ワールドハードルのどこにアニーパワーを向かわせるのか、8日現在ではまだ、はっきりした指針を明らかにしていない。

 続いて6.0倍〜7.5倍のオッズで3番手評価なのが、アルファデゾボー(セン6、サドラーメイカー)だ。

 ポイントトゥポイント競走で1戦1勝の成績を残した後、昨シーズンからハードル路線に転じた同馬。初年度は6戦1勝、2着4回という、勝ち切れない歯がゆさを覚える成績で、最終戦となったパンチェスタウンのG1チャンピオンノーヴィスハードル(芝20F)でも2着となってシーズンを終えている。

 今季も、初戦のG1ハットンズグレイスハードル(芝20F)2着、続くG1愛クリスマスハードル(芝24F)2着と、強敵相手に惜しい競馬が続いた後、1月21日にゴウランパーで行われた、G2ガルモイハードル(芝24F)を11馬身差で快勝。善戦マンの名をようやく返上して、待望の重賞初制覇を手にしている。

 オッズ6〜8倍で、アルファデゾボーとほぼ同等の評価を得ているのが、これも牝馬のヴルームヴルームマグ(牝7、父ヴォワドゥノール)だ。

 仏国産馬で、祖国で6戦2勝の成績を残した後、14/15年シーズンから愛国の名門W・マリンズ厩舎に在籍しているヴルームヴルームマグ。同シーズンはハードルではなくスティープルチェイスを5戦し、フェアリーハウスのG3メアズチェイス(芝20F)など4つの重賞を含む5連勝をマーク。今季初戦のG3TAモリスメモリアルメアズチェイス(芝20F)を楽勝した後、突如としてハードルに戻り、1年9か月振りのハードル戦となったクロンメルの一般戦(芝16F110y)を快勝。前走、1月23日にアスコットで行われたG2ウォーフィールドメアズハードル(芝23F118y)でも勝利を収め、マリンズ厩舎移籍と同時にスタートさせた連勝を“8”に伸ばしている。ヴルームヴルームマグは、アニーパワーと同厩なだけでなく、所有者もアニーパワーと同じスザンヌ・リッシーさんだ。陣営はこの馬も、初日のG1メアズハードル、3日目のG1ワールドハ−ドル、同じく3日目のG1ライアンエアハードル(芝20F166y)の3競走に登録し、どこを使うかを思案している。

 オッズ7〜9倍で差のない5番手評価となっているのが、前年に続くこのレース連覇を狙うコールハーデン(セン7、父ウェスターナー)である。ナショナルハントフラットで2戦2勝の成績を残した後、13/14年シーズンからハードルを飛び始めたコールハーデン。2シーズン目の初戦となったウェザビーのG2ウェストヨークシャーハードル(芝25F110y)で重賞初制覇。そしてG1初制覇となったのが、同シーズンのG1ワールドハードルだった。その後、エイントリーのG1リヴァプールハードル(芝24F149y)で2着となって、昨シーズンを終えている。

 ディフェンディングチャンピオンにも関わらず、5番手評価に甘んじているのは、今季初戦となったニューバリーのG2ロングディスタンスハードルがシッスルクラックの3着、前走チェルトナムのG2レルキールハードル(芝20F56y)も勝ち馬から20馬身遅れの3着と、やや物足りない競馬が続いているためである。

ワールドハードルとは異なり近年にない混戦のチェルトナムゴールドC

 シッスルクラックという軸馬がいるG1ワールドハードルとは異なり、5〜7倍のオッズに5頭がひしめく近年にない混戦となっているのが、4日目のメイン競走として行われるスティープルチェイス3マイル路線の最高峰G1チェルトナムゴールドC(芝26F70y)である。そんな中、ブックメーカー各社が5倍前後のオッズを掲げて1番人気に推しているのが、ドンコサック(セン9、父ショロコフ)だ。

 ナショナルハントフラットで4戦3勝、ハードルで4戦1勝の成績を残した後、13/14年シーズンからスティープルチェイス路線を歩んでいる同馬。転身後3戦目のG1ドリンモアノーヴィスチェイス(芝20F)で重賞初制覇を果たし、早くからチェイサーとしての高い資質を見せたがが、本格化したのは2シーズン目だった。初戦から重賞街道を歩み、3連勝目となったパンチェスタウンのG1ジョンダーカンメモリアル・パンチェスタウンチェイス(芝20F)でG1初制覇。続くG2キンロックブレイチェイス(芝20F)を44馬身差という記録的大差で制した後、昨年のチェルトナム・フェスティヴァルではG1ライアンエアチェイス(芝21F)に駒を進め、3着に敗れ連勝が止まったが、続くエイントリーのG1メリングチェイス(芝19F200y)、パンチェスタウンのG1パンチェスタウンゴールドC(芝25F)をいずれも楽勝。この路線の最前線に躍り出て、昨シーズンを終えている。

 今季初戦となったパンチェスタウンのG3スターチェイス(芝23F),続くダウンロイヤルのG1チャンピオンチェイス(芝24F)を連勝した後、ケンプトンのG1キングジョージ6世チェイス(芝24F)で生涯3度目となる落馬を経験したが、前走サーレスのG2キンロックブレイチェイスではきっちりと勝利を収めての参戦となっている。実績的には確かに最右翼だが、一方で、14年がG1RSAチェイス(芝24F80y)に出走して落馬し、15年が前述したようにG1ライアンエアチェイスに出走して3着と、チェルトナム・フェスティヴァルとはあまり相性が良くないのが懸念材料である。

 多くのブックメーカーがオッズ5倍でドンコサックと横並びの1番人気に推し、そうでない社は5.5倍で2番人気に支持しているのが、先週のこのコラムで、2日目のメイン競走であるG1クイーンマザーチャンピオンチェイスの2番人気馬としてご紹介したヴォートゥール(セン7、ロバンデシャン)だ。そしてこのヴォートゥールもまた、馬主がスザンナ・リッシーさんで、管理するのがウィリアム・マリンズ師という、アニーパワーやヴルームヴルームマグと同じ陣営が擁する馬である。

 この馬に関しては先週の金曜日に、馬主の夫であるリッチ・リッシー氏が、「チェルトナム・フェスティヴァルを走るのであれば、使うレースは最終日のゴールドCになる」と明言している。

 ハードルで7戦し、チェルトナム・フェスティヴァルのG1シュプリームノーヴィスハードル(芝16F87y)をはじめとして3つのG1を含む5勝を挙げた後、14/15年シーズンからスティープルチェイスを飛び始めたヴォートゥール。転向初年度の最終戦となったのが、チェルトナム・フェスティヴァルのG1ゴールデンミラーノーヴィスチェイス(芝19F198y)で、このレースを15馬身差で制して、スティープルチェイスのG1初制覇を果たした。

 今季初戦となったアスコットのG2ザ1965チェイス(芝21F8y)で、スティープルチェイスでは3つ目、ハードル時代を含めると7つ目の重賞制覇を果たした後、前走ケンプトンのG1キングジョージ6世チェイス(24F)はキューカードの2着だった。

 ヴォートゥールはドンコサックとは対照的に、チェルトナムではここまで2戦2勝と、高いコース適性を示している。

 続いて、ブックメーカー各社が5.5〜6.5倍のオッズを掲げ、ほぼ横並びで3番手評価としているのが、ジャカダム(セン7、父サンデサン)とキューカード(セン10、父キングズシアター)の2頭である。

 ハードルで6戦2勝の成績を残した後、13/14年シーズンからスティープルチェイスに転じたジャカダム。転向2戦目にレパーズタウンのG2キリニーノーヴィスチェイス(芝21F)を制し重賞初制覇を果たしたが、続いて駒を進めたチェルトナム・フェスティヴァルのG1ゴールデンミラーノーヴィスチェイスでは、生涯2度目となる落馬を経験している。

 14/15年シーズンは、2戦目となったゴウランパークのハンデ戦(芝25F)を8馬身差で制してシーズンの初白星を挙げると、勢いに乗ってチェルトナム・フェスティヴァルのG1ゴールドCに挑戦。オッズ11倍の6番人気だったが、勝ち馬コニーグリーから1.1/2馬身差の2着に健闘している。

 昨シーズンの最終戦となったのが、パンチェスタウンのG1パンチェスタウンゴールドCで、ジャカダムはここでもドンコサックの2着に好走。この路線のトップグループを形成する1頭として認知されることになった。

 そして、今季初戦となったG1ジョンダーカンメモリアル・パンチェスタウンチェイス(芝20F)を12馬身差で快勝して、待望のG1初制覇を達成。ところが前走、1月30日にチェルトナムで行われたG2コッツウォルドチェイス(芝25F56y)では、生涯3度目の落馬に終わっている。すなわち、昨年のこのレースの2着馬ではあるものの、チェルトナムでは3戦して2度落馬しているのがジャカダムで、飛越を無難にこなせるかどうかが鍵となっている。

 チェルトナム・フェスティヴァルは3年ぶり5度目の登場となるのが、古豪のキューカードだ。前回の参戦は13年で、この時はG1ライアンエアチェイス(芝21F)に出走し、見事に勝利を収めている。

 13年11月にヘイドックのG1ランカシャーチェイス(芝24F24y)を制し、この路線3度目のG1制覇を果たした後、6連敗を経験。既にピークは過ぎたという見方もあったのだが、今シーズンになって復活。初戦のG2チャーリーホールチェイス(芝24F45y)を制してほぼ2年ぶりの勝ち星を挙げると、続くヘイドックのG1ランカシャーチェイスも快勝。前走ケンプトンのG1キングジョージ6世チェイスでは、3世代若いヴォートールとの競り合いを制して勝利を収め、5度目のG1制覇を果たしている。10歳馬がゴールドCを勝てば、1998年のクールドーン以来18年ぶりのことになる。

 そして、各ブックメーカー各社が5.5〜7倍のオッズを掲げ、3〜5番人気に挙げているのがドンポリ(セン7、父ポリグロート)であるハードルで6戦3勝、2着3回の成績を残した後、昨シーズンからステープスチェイスに転身した同馬。2戦目にレパーズタウンのG1トパーズノーヴィスチェイス(芝24F)を制してG1初制覇を飾ると、続いて駒を進めたのが昨年のチェルトナム・フェスティヴァルを舞台としたG1RSAチェイス(芝24F80y)で、ここも8馬身差で勝利を収めている。

 続くパンチェスタウンのG1チャンピオンノーヴィスチェイス(芝25F)で5着に敗れ、スティープチェイスにおける初黒星を喫して昨シ―ズンを終了。

 今季初戦となったエイントリーの準重賞(芝24F210y)で、昨年のG3グランドナショナル(芝34F74y)勝ち馬メニークラウズ(セン9、父クラウディングス)を2着に退けて勝利を収めると、前走レパーズタウンのG1レクサスチェイス(芝24F)を制し、3度目のG1制覇を果たしている。

 勝ち馬はまず間違いなく、上位グループを形成する5頭から出るであろうが、5頭の中で誰が抜け出してくるのか、予想者泣かせの難解な一戦となっている。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング