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自身の原点に立ち返る“卒業”エピソード

  • 2016年04月12日(火) 18時00分
小牧太

今回は遅ればせながら“卒業”をテーマに“太論”を展開


早いもので、春の空に葉桜が舞う季節となりましたが、今回は遅ればせながら“卒業”をテーマに思い出話を展開。“卒業”と聞いて真っ先に思い出す曲から始まった回顧禄は、騎手・小牧太の原点にまで及び──。貴重なエピソードをたくさん明かしてくれました。
(取材・文/不破由妃子)


あの半年間が“小牧太”を育てたんちゃうかな

──今回は卒業シーズンにちなんで、「カラオケ好きな小牧さんの好きな卒業ソングを教えてください!」という質問をピックアップしてみました。

小牧 いつの間にカラオケ好きになってんの? そうでもないのに(苦笑)。卒業ソングではないけど、卒業という言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、『スクールウォーズ』の主題歌やね。

──えっ? 麻倉未稀さんの『ヒーロー』ですか?

小牧 そうそう。なんでかっていうとね、競馬学校の卒業式で会場から出ていくときに、その曲を流してもらってん。それが今でも忘れられん。ボロボロ泣いてねぇ。イソップ……なにしてんやろ(笑)。

──イソップ(笑)。若い読者は何のことやらわからないと思いますが(苦笑)。

小牧 そうかぁ。なんせめっちゃハマっとったからね。伏見っていう地名も『スクールウォーズ』で覚えたんやけど、今、その伏見で飲んでると不思議な気持ちになるわ。

──わかる気がします。中学校の卒業式には何か思い出はありませんか? たとえば…女の子に告白されたりとか!

小牧 ない(笑)。好きな子はいたけど、友達に取られたわ。でも、僕のことをずーっと好きだって言ってくれてる女の子がいて、その子とは競馬学校に行ってからも手紙のやり取りをしてたなぁ。でも、いつの日か僕が返事を出さんようになってん。そうしたら、嫌気が差したんか、またまた振られたわ(笑)。

──青春ですねぇ〜(笑)。小牧さんのなかで、“卒業”といって真っ先に思い浮かぶのは小学校や中学校ではなくて、やはり競馬学校なんですね。

小牧 そうやね。競馬学校の卒業式では泣いたけど、中学校の卒業式では泣いてない。まったく知らない世界に行くということで頭がいっぱいやったから。前にも話したかもしれんけど、宮崎空港から飛行機で旅立ったときは泣いたわ。飛行機の窓から、親父とおふくろと弟が見えてね。おふくろと弟が泣きながら手を振ってるもんやから、僕も窓に張り付いてボロボロ泣いて。飛行機が飛び立つ前から「もう帰りたい!」と思ったわ。

──その情景が目に浮かぶようです。

小牧 競馬学校の入学に間に合わなくて、そこから半年間、曾和先生のお宅でお世話になったんやけど、その半年間が小牧太を育てたんちゃうかな。それはもう辛かったから。

──来る日も来る日も裸馬に乗せられて…という日々ですね。

小牧 そう。今でこそ感謝してるけど、先生も先生の奥さんも厳しかったし、ホンマに辛かった。あとは十数馬房の寝藁作業をひたすらしてね。中学校を卒業したばっかりの小牧少年は、毎日毎日、泣きながら寝藁を上げとった。今思うと、可哀想やったなぁ。

──帰ろうとは思わなかったんですか?

小牧 そりゃあ思ったよ。でもできんかった。期待を一身に背負って出てきたわけやから、頑張らなしゃあないと思ってたんやろうね。厩務員さんたちが口をそろえて「こんなに一生懸命な子はおらん」て言ってたくらい、とにかく頑張ったし、休まんかった。押し切りで手をザックリ切ったときも、先生に言ったら怒られると思って、テープでぐるぐる巻きにして隠してね。馬の薬を付けて自分で治したんやけど、今でも傷が残ってるわ。

──ホントだ! しかも、すごく深くて長い傷ですね。

小牧 そうやろ? 小牧少年、偉かったよ(笑)。その頃の映像があれば、見せたいくらいやわ。

──そんな辛い日々を、なぜ耐えられたんですか?

小牧 ここで生きていくしかないと思ったから。とにかく期待を背負って田舎から出てきたから、宮崎に帰って別の仕事に就くなんて考えもせんかった。だって、デビューしたときなんて、競馬場まで中学校の校長先生が来たくらいやで。そういう期待を裏切ったらアカンと、ずーっと思ってたから。だから、最初の半年間は一番つらかった時期であると同時に、一番いい経験をした時期やね。

小牧太

最初の半年間は一番つらかった時期であると同時に、一番いい経験をした時期やね



──なるほど。でも、それこそ中学を卒業したばかりだったわけですから、逃げ出してしまう子もたくさんいると思います。でも、そこで踏ん張れたからこそ、今の“小牧太”があるんですものね。

小牧 今となっては両親のおかげかもしれんね。なんせ苦労したから、自然と忍耐力が鍛えられた。卒業ソングから、すっかり思い出話になってしまったなぁ。

──“騎手・小牧太”の原点に迫る大事なエピソードですから。

小牧 そうやね。たまにはこうやって思い出すことも必要やね。
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太論 / 小牧太
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1967年9月7日、鹿児島県生まれ。1985年に公営・園田競馬でデビュー。名伯楽・曾和直榮調教師の元で腕を磨き、10度の兵庫リーディングと2度の全国リーディングを獲得。2004年にJRAに移籍。2008年には桜花賞をレジネッタで制し悲願のGI制覇を遂げた。その後もローズキングダムとのコンビで朝日杯FSを制するなど、今や大舞台には欠かせないジョッキーとして活躍中。

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