“不屈の新人” 森裕太朗騎手(2)『あきらめるわけにはいかないという思い』

2016年04月20日(水) 18時00分

騎手になるために栗東に引っ越した森ジョッキー。念願の競馬学校に入学しますが、そこから、苦難の連続だったそうです。一度決めたらあきらめない不屈の精神、そして持ち前のど根性で、それらを乗り越えたそうです！
(取材・文/大薮喬介)

「騎手になりたい」という気持ちだけだったら、あきらめていた

――努力のかいがあって、晴れて競馬学校に合格されたわけですが、その時の心境はいかがでしたか？

森　競馬学校に入れたからといって、絶対にジョッキーになれるわけではないですし、さらに上手い同期がいるわけですから、より気を引き締めなければと思っていました。案の定というか、入学したての頃は順位が一番下で、やっぱり苦労しましたね(苦笑)。

――それを乗り越えて、今ジョッキーになられたんですから、スゴいですよね。競馬学校で一番苦労されたことは何ですか？

森　2年目にトレセン実習があるんですが、その時にケガをしたことですね。栗東トレセンには内に1周400m、外に1周500mの角馬場というところがあるんです。1月中旬くらいに400mの角馬場で乗っていたら、馬が引っ掛かってしまって、外ラチを飛び越えてしまって…。そのまま、400mと500mの間にある溝にガッツリ落ちてしまったんです。それで大腿骨と骨盤を骨折して、完治するのに4か月かかってしまいました。医者からは治りが早いほうだと言われたんですけど、何もできないうえに、同期とはどんどん差が開いていくので、もう悔しくて悔しくて。何よりも留年する可能性があったので、親に申し訳なくて、泣きながら謝ったのを覚えています。僕にとっては地獄の4か月でしたね。

――4年間、競馬学校にいたというのはそれが原因だったんですか。

森　実は、この時のケガだけが理由ではないんです。トレセンに復帰して少し経ってから、また同じ400mの角馬場で人馬転をしてしまって、今度は背骨の圧迫骨折…、それがトドメでしたね。症状としては普通に歩けることができて、少し息苦しいなというくらいだったんですが、医者から「骨が下がって神経に触れてしまったら、下半身が動けなくなる」と言われて、2か月ほど安静にしておかなければならなくなったんです。体は動くのに動いてはダメで、さすがにこの時は精神的にきつかったですね。

――2度も大きなケガをして、ジョッキーになることをあきらめようとは思わなかったんですか？

森　親にここまでやってもらったのに、あきらめるわけにはいかないという思いがすごく強かったんです。正直、「騎手になりたい」という気持ちだけだったら、あきらめていたかもしれないですね。

――2度目にケガをした時、ご両親から「やめたほうがいい」とは言われなかったんですか？

森　母からは「もうやめたら？」と言われました。父は自分が勧めたこともあってか、僕に対して「申し訳ない」という気持ちが大きかったみたいです。ただ、ケガは自分が招いたことですし、両親のせいではないのですから。しかも、その後もいろいろあったんですよ。背骨の骨折が治って、やっと競馬学校に復帰できたと思ったら、右肩の筋断裂をしてしまって、また家に戻って。そこから復帰しても、今度は背骨の骨折の影響で筋肉が固くなってしまって、思うように体が動かなくなって、また家に戻るはめに…。だから、結局、1年間ほとんど馬に乗っていない状態だったんですよね。

――それでもジョッキーになることをあきらめなかったんですね。まだ若いのに、すごい精神力ですね。

森　さすがに4度目の時は、自分の運のなさにジョッキーになることをあきらめたほうがいいんじゃないかと思いましたね。でも、あと1年頑張ればジョッキーになれると思って、踏ん張りました。まぁ、あっけらかんとした性格でもあるので、最終的にはそこまで深く考えなかったのも、よかったのかもしれません(笑)。時間が経てばケガは治りますし、また頑張ればいいかって。後々あきらめたことを後悔するよりは、続けたほうがいいだろうと思いました。もうダメだと言われるまで、頑張ってやろうと。

――ちょうどその頃、一緒に入学した同期生がジョッキーとしてデビューしたわけですよね。

森　順調なら僕もあそこにいたんだろうなと思いましたし、励みにはなりましたね。留年は1年の時に1回、2年の時に1回しかできなくて、3年の時はもう留年できないんです。だから、絶対にジョッキーになるんだという強い気持ちを持って頑張りました。

――その不屈の精神で、模擬レースでシリーズ優勝されたんですよね。

森　はい。9回レースがあるんですけど、僕は最初の4回は乗っていないんです。5戦して3勝できたのは自信になりましたね。