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【池添謙一×藤岡佑介】第1回『大舞台で大事なのは“ハッキリしたレースプラン”』

  • 2016年07月06日(水) 18時01分
with 佑

▲今月のゲストは池添騎手。「なぜ池添騎手はこんなにもGIに強いのか?」その訳に迫ります!


今月は池添謙一騎手が登場。佑介騎手にとって6期上の先輩ですが、先輩後輩の垣根を越えてとても仲の良いふたり。この対談のメインテーマは、大舞台で抜群の勝負強さを見せる“池添騎手のメンタル”です。36歳にして中央GIを22勝。これは武豊騎手(70勝)、蛯名騎手(26勝)、横山典騎手(25勝)、岩田騎手(24勝)につぐ、現役5番目の数字(2016年7月6日現在)。なぜこんなにもGIに強いのか。まずはオークスを制した、春GIの振り返りからスタートです。(構成:不破由妃子)


GIはジョッキーに掛かる比率が高い


佑介 この春のGIは、8レースに騎乗して連対率50%、複勝率62.5%。GIだけの数字ですから、これはもうハンパない(笑)。

池添 でも、勝てたのはひとつだけだから…。今年のメンツだったら、最低2つは勝ちたかった。

佑介 シーズンが始まる前から、「この春は、短距離も中距離も牡馬も牝馬も、いい馬が揃った」って話してましたもんね。

池添 うん。だから、「大事なシーズンやな」って自分でも思っていたし、周りにもそう言ってたんだけどね。ひとつ勝てたのは本当にうれしかったけど、桜花賞は2センチ差やったし…。

佑介 天皇賞(春)も4センチ差(苦笑)。でも、どのレースもその馬に合ったいい競馬だったと思います。ロードクエストもそうだし、カレンミロティックも“これしかない!”っていう競馬だったし。池添さんが取ったポジションは、先行しようと思っていたジョッキーにとって、一番取りたいポジションでしたからね。

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▲最後は4センチ差でキタサンブラックが勝利するも、“これしかない!”という競馬に佑介騎手も唸る


池添 天皇賞(春)は佑介(サウンズオブアース)のほうが人気してたし、むしろここは佑介が勝ち負けだと思って、密かに応援してたんやけど。

佑介 もちろん僕も、そのつもりで乗りました。でも、3コーナー手前で手応えがあやしくなってしまって…。カレンは2周目の下りの時点で、めっちゃ手応えが良かったですからね。ポジショニングだけが敗因ではないけど、やっぱりあの位置がほしかった。

池添 確かにキタサンの後ろは息を抜けるし、結果、楽になるからね。でも、あの位置を取れたのは枠順も大きいよ。本当は逃げることも考えていたんだけど、スタートがちょっと遅かったし、キタサンも主張してきたから、結果的にあの位置になったけど。

佑介 でも、池添さんは、GIでプラン通りに乗ってくることが多いですよね。僕が乗っていないGIのときは、前の日に「明日はどう乗るんですか?」とか聞いたりするじゃないですか。僕の印象だと、だいたいそのときに話してくれたプラン通りに乗っているような気がします。前走がああだったから、今度はこう乗るというような、プランがハッキリしている。大きいレースに向かうときって、大事なことかもしれませんね。

池添 うん、そうかもしれない。でも、シンハライトのオークスは、もう少し前で競馬をする予定やった。ただ、石坂先生からの指示も「内」だったし、あの枠(2枠3番)が当たった時点で僕もそのつもりだったから、そこはブレずに内を選んで。最後に迷惑を掛けてしまったのは本当に申し訳なかったけど、ひとつ勝ててホッとしたよ。

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▲後方からメンバー最速の脚で鋭く差し切り、シンハライトをオークス馬に導いた(撮影:下野雄規)


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佑介 あれで外を回していたら、絶対に届いていませんからね。それにしても、直線に向いた時点で、“シンハライトはもうちょっと厳しいかな”という手応えだったので、みんな一度、視線を前に移したんですよ。そこからの逆転劇でしたから。やっぱりすごいなと思いました。そういえば、高橋亮調教師も一緒にレースを見ていたんですが、「あいつはホンマにしぶといなぁ」って言ってましたよ(笑)。

池添 “しぶとい”っていう表現がいいのか悪いのかわからないけど、亮くんにはいつもそう言われる。褒められているのかなんなのか(笑)。

佑介 ちなみに、皐月賞のロードクエストもプラン通りですか? 外枠(7枠14番)でしたが、内に行こうと決めて乗っているように見えました。

池添 うん、オーナーと調教師と3人で話をして、内に行こうと決めてた。あの日はとにかく内が良くて、皐月賞まではほとんどレースで内の馬がきてたからね。でも、あのペース(1000m通過58秒4のハイペース)になってしまったから、皐月賞だけ外の決着になってしまって。だから、プラン通りに乗れたからといって、いい結果につながるとは限らない。

佑介 確かにそうですけど、GIで思い描いた通りに乗ること自体が難しいことですよ。

池添 条件戦でも同じだけどね。ただ、GIはお任せがほとんどだけど、条件戦は調教師からの指示が多いから、逆に難しい場合も。

佑介 しかも、条件戦のほうがいろいろと読みづらいですよね。GIとなると、各馬についての情報量が多いぶん、プランも立てやすいというか。

池添 それもそうだし、条件戦のほうが馬の能力差が大きいでしょ? GIは、そこまで勝ち上がってきた強い馬たちのなかで一番を決めるレースやから、ディープインパクトやオルフェーヴルみたいな馬は別として、能力が拮抗しているケースが多い。だから、条件戦の人馬の比率が「馬8騎手2」だとするならば、GIでは「馬7騎手3」、下手すれば「馬6騎手4」まで騎手の比率が上がってくるケースもある。

佑介 池添さん、いつも言ってますよね。GIでは、ジョッキーに掛かる比率が高くなるって。

池添 うん。そうなると、“ブレない”ことがひとつの武器になってくるのかなって思う。GIではとくに、ポジション争いが激しくなるからね。でも、この春はチャンスのある馬を勝たせることができなかったし、騎乗停止もあったしで、反省することのほうが多いよ。ああすれば良かった、こうすれば良かったという後悔が、常に頭のなかに残ってた。

佑介 とくに桜花賞と天皇賞(春)は、数センチ差ですからね。

池添 そうそう。あと0.5秒、仕掛けを待っていれば…とか、あと0.5秒、早く鞭を持ち替えていれば…とか、どうしても考えてしまう。ロードのNHKマイルC2着やパンドラのヴィクトリアマイル3着のように、あそこまで差が付いてしまうと仕方がないなと思えるところもあるんだけど、桜花賞と天皇賞は、本当に一完歩の差。だからこそ、どうすればよかったのか…という思いがずっと残ってしまうね。

(文中敬称略、次回へつづく)

▼池添騎手の勝負強さの秘密をちょっとだけ紹介!次回もお楽しみに
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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