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【池添謙一×藤岡佑介】第2回『GIのプレッシャーには真っ向からぶつかる』

  • 2016年07月13日(水) 18時01分

「池添謙一騎手がなぜ大舞台に強いのか?」を探っていくこの対談。前回、一つ目の秘密は『ブレないハッキリしたレースプラン』だとわかりました。今回斬り込むのは、ズバリ『プレッシャーとの向き合い方』。アスリートにとっては避けて通れないテーマですが、なかでも池添騎手のメンタルは、同じジョッキーの佑介騎手からしても驚きだそうで…! (構成:不破由妃子)


(前回のつづき)

「誰よりも自分が巧いと思って乗る」


佑介 この春もたくさんいい競馬がありましたが、池添さんらしさが出たレースといえば、やっぱり去年のジャパンCでしょう。めっちゃ面白いレースでした。

池添 ジャパンCは最後まで冷静に乗れたね。天皇賞(秋)と同じ枠が当たって、その天皇賞は外を回って負けたから、今度は絶対に内を取っていこうって決めてた。

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▲ラストインパクトをクビ差退けての勝利(撮影:下野雄規)


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佑介 道中もみんながほしかったポジションを死守し切りましたよね。

池添 うん。ラブリーデイの後ろを取れたからね。だから、ゴールドシップが早めに動き出したときも、一切慌てることはなかった。直線も、右ステッキを使いながら前を見てたんやけど、将雅がステッキを右から左に持ち替えた瞬間、僕はステッキを使うことをやめた。

佑介 ああ、左ステッキだと外に戻ってくる可能性があるから?

池添 そうそう。まだ並びかけてもいなかったし、そのまま僕が右ステッキを使っていたら進路がふさがる可能性があったから、並ぶまではステッキを使わず、将雅が外に戻ってきたときにすぐに対処できるよう、瞬時にハンドライドに切り替えて。

佑介 それって、コンマ何秒の判断ですよね。

池添 そうだね。あの場面は、熱く追いながらもすごく冷静に乗れたと思う。

佑介 それだけ集中していたということですよね。オルフェーヴルの有馬記念からショウナンパンドラでジャパンCを勝つまで、GIでチャンスのある馬がちょっと途絶えたじゃないですか。やっぱり、あのジャパンCをきっかけに、流れが変わったところはありますか?

池添 うん、もう全然流れが変わったよ。僕自身は何も変わっていないけど、周りの見る目が変わったように思う。「やっぱり謙一は大きいところを勝つよな」って、改めて思ってくれた人もいたみたいで。エージェントも、「さすがです。僕、もっと頑張ります」って言ってくれてね。ま、僕からすれば「今からか!」って感じやったけど(笑)。

佑介 その流れからの春、そしてオークスですもんね。GIでの1番人気もオルフェ以来でしたが、久々に味わう感覚はどうでした?

池添 メンバー的に絶対に勝たなければいけないと思ったから、それがプレッシャーでもあったけど、輪乗りのときに「このプレッシャーの感覚、やっぱりたまらんなぁ」とゾクゾクした。ジョッキーはこの感覚を味わってこそやなぁって改めて思ったよ。

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▲「GIでの1番人気、そのプレッシャーの感覚にゾクゾクした」


佑介 すごい(笑)。経験を積んでこそたどり着ける境地かも。確かに、その感覚は20代の頃には味わえなかったものですよね。池添さんを見ていてもわかります。

池添 オルフェーヴルで大きな経験をさせてもらったからね。オルフェで感じた以上のプレッシャーは今後ないと思うし、たとえ凱旋門賞に人気馬で挑戦することがあっても、オルフェで味わった緊張感を超えることはないと思う。

佑介 オルフェーヴルとの全コンビのなかで、緊張感でいうとどのレースがピークでした?

池添 ダービー以降、GIIも含めて全部。だって、負けたらアカンわけやから。今、振り返ってみても、大阪杯の日とか一日がすっごく長かったし、終わった後の疲労感はGIと一緒やった。

佑介 そうだったんですね。ダービーの後も菊花賞の後も一緒に食事をさせてもらって、ダービーのときは喜びがめっちゃ伝わってきたんですけど、菊花賞のときは、嬉しいというより、ホッとした感じでしたよね。だから、てっきりダービーのほうが緊張感が高かったのかなと思っていました。その反動で、喜びが爆発したのかなって。

池添 もちろん、ダービーの1番人気もなかなか経験できることではないし、ましてや二冠がかかっていたから、それはもう緊張したよ。ただ、二冠と三冠のプレッシャーはまた違って、絶対に負けられないぶん、ダービー以降はずっとプレッシャーのピークやった。

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▲計り知れないプレッシャーをはねのけ、三冠の偉業を達成(C)netkeiba.com


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佑介 それを乗り越えたんですものねぇ。普通、GIで1番人気になるかもしれないときって、緊張していない振りをしたりしてプレッシャーから逃げようとすると思うんですけど、池添さんはむしろ自分を追い込んで、プレッシャーと真っ向からぶつかってきましたよね。オルフェに出会う前からそうだと思います。それを乗り越えてきたというのは本当に大きな武器だと思うし、池添さんが大きいレースで力を発揮できるのもわかる気がします。

池添 でも、今でも未勝利の1番人気でめっちゃ緊張してんで(笑)。確か三冠を獲ったあと、佑介に「未勝利とか500万の1番人気も緊張する」っていう話をしたら、「あのプレッシャーを乗り越えた人がおかしいでしょ」って言われて。あ、それもそうやなと思った覚えがあるわ。

佑介 そんなこともありましたね(笑)。以前、メンタルトレーナーのような人に、プレッシャーとの向き合い方について聞いたことがあるんです。いわく、「緊張したなかでの成功例はそれがそのまま自信となって、同じ立場にもう一度立たされたときに乗り越える糧になる」と。その話を聞いたとき、真っ先に池添さんのことが頭に浮かんだんですよ。ああ、池添さんはそうやって強くなったんだなって。

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▲「池添さんはそうやって強くなったんだなって。大きいレースで力を発揮できるのもわかります」


池添 ものすごく極端に言えば、「俺、このレースに負けたら終わりや」と思って臨むからね。「負けたらもう二度とこの馬に乗れない」という思いを自分に植え付けて、ひとりでずっとトレーニングルームにこもったり。

佑介 池添さんは、レースに向けての取材でも、普通に「負けられない」という言葉を使いますよね。それは決して取材用のリップサービスではなく、僕たちと話をするときも同じように言う。「負けられない」という一言は、何より自分を追い込む言葉だと思うんですけど、池添さんは前からそうですよね。

池添 それはもう性格じゃない? 僕はとにかく、誰よりも自分が巧いと思ってGIに乗る。以前、康太に「お前、GIに乗るとき、自分が一番巧いと思って乗ってるか?」って聞いたら、「いえ、僕はそんなふうに思って乗っていません」って言うから、「なんで思わへんの?」って言ったの。もちろん、実際は僕より巧い人なんてたくさんいるかもしれないけど、そう思って乗らないと馬にも失礼だし、その時点で気持ちで負けていると思うから。あとは、“絶対に負けへん!”っていう気持ちを誰よりも強く持って乗っているつもり。それは大事なことかなと思う。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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