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青森産馬の快挙と「第3の馬生」

  • 2016年07月16日(土) 12時00分


 今月13日に大井競馬場で行われたジャパンダートダービーを制したキョウエイギア(牡3歳、父ディープスカイ、栗東・矢作芳人厩舎)は、青森県階上(はしかみ)町にあるワールドファーム場長・村上幹夫さんの生産馬である。青森県で生産された馬によるGI制覇は、2004年川崎記念のエスプリシーズ(八戸市・大橋牧場生産)以来、12年ぶりの快挙だ。

 青森は古くからの馬産地として知られ、今も、北海道外で行われる最大規模の1歳馬市場である八戸市場は活況を呈している。2001年のJRA最優秀2歳牝馬タムロチェリーや、重賞3勝馬イナズマタカオー、同2勝馬マイネレーツェルなどもこのセリの出身だ。

 バブル経済真っ盛りの1990年に総額2億円以上を売り上げたころには及ばずとも、7月5日に行われた今年は6530万円を売上げ、2000年以降では最高となる61.9%の売却率をマークした。11日と12日に総額150億円近くを売り上げたセレクトセール同様、「第3次競馬ブーム」が近いのではないかと思わせてくれる勢いがある。

 私は、最年少ダービージョッキー・前田長吉の取材で、青森県、特に長吉の故郷である八戸市を訪れることが多くなった。長吉の兄の孫である前田貞直さんが、今年、長吉の墓碑を新たにつくり、拙著の引用文も刻まれている。それを見せてもらうため、今月23日から25日までの相馬野馬追が終わったあと、その足で八戸に行こうと思っている。

 キョウエイギアを管理する矢作調教師は、前立腺がんを患い、来週にも手術を受ける意向であることを公表した。私と4つしか学年が違わない、ほぼ同世代。知性派として知られ、高い発信力で競馬人気を力強く支えているホースマンのひとりだ。一日も早い回復を祈りながら、またお話しできる日を楽しみに待ちたい。

 手綱をとった戸崎圭太騎手は、これが中央・地方を合わせて今年の109勝目。中央だけでも104勝を挙げており、武豊騎手しか達成していない年間200勝に届きそうなペースだ。

 腕がいいのは言わずもがなだし、誰に対しても礼儀正しく、しかも男前だ。JRAに移籍したばかりだった2013年春にインタビューしたとき年齢の話になり、「今の自分は、豊さんが200勝したころと同じぐらいですか?」と言っていた。武騎手が初めて200勝を突破したのは03年だから34歳のとき(35歳になる学年)。その後、35歳だった04年、36歳だった05年と3年連続200勝超えをやってのけた。

 戸崎騎手は33歳になる年にJRAに移籍し、今年36歳になった。

 まさにドンピシャ。岡部幸雄さんがシンボリルドルフで無敗のまま三冠を制したのも36歳のときだったから、一流騎手がキャリアのピークを迎えるころなのだろう。

 騎手の話題といえば、国内の女性騎手最多となる626勝を挙げた宮下瞳元騎手が騎手試験に合格し、現役に復帰することになった。11年8月に引退してから5年のブランクがあるわけだが、まだ39歳。もうひと花もふた花も咲かせてほしい。

 最後に、SNSなどですぐに情報が拡散される時代、いずれ広まってしまうので、ここで書くべきだろう。

 スマイルジャックが、種牡馬から乗馬になることになった。

 その後も種付けの申し込みがなかったため、繋養されていたアロースタッドから別の牧場に移り、競走馬、種牡馬につづく「第3の馬生」を歩むための準備をする。

 アロースタッドでは、本稿を書いている15日、金曜日から種牡馬が一般公開されている。そこにスマイルがいなければ、訪ねて来た人がツイッターなどで情報を発信し、この稿が世に出る前に日本中に伝わっている可能性もある。

 残念だが、2頭とはいえ、しっかり血がつながれたことを大きくとらえたい。丈夫で、気持ちが前向きで、早くから力を出し、何年にもわたって活躍しつづけた父のような競走馬になってくれることを、浦河の三好牧場の長女と鵡川の上水牧場の次女に望みたい。

 いや、残念、などと言うべきではない。スマイルは、多くの人間たちと関わり、何らかの役割を果たすという、サラブレッドにしかできない「仕事」をやりつづけることができるのだから。

 スマイルジャックは、ほかの何者でもないスマイルジャックとして、これからも人々に必要とされ、愛される。

 また会いに行くことができたら、この稿に書きたいと思う。

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作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊競馬ブック、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。netkeiba.com初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ダービーパラドックス』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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