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【池添謙一×藤岡佑介】第3回『口での合図でビューン!オルフェーヴルの最強馬伝説』

  • 2016年07月20日(水) 18時01分
with 佑

▲今週は池添騎手だけが知る、オルフェーヴルの“怪物エピソード”が満載!


「池添騎手は大舞台に強い」―そのイメージを確固たるものにした存在こそオルフェーヴル。前回「ダービー以降はずっとプレッシャーのピークやった」と本音を明かした池添騎手でしたが、三冠達成、2度の有馬記念制覇など、競馬史に輝く活躍を残しました。今回、オルフェの異次元の強さを改めて語ってもらったのですが、実は、池添騎手と佑介騎手には、オルフェにまつわる共通点がありまして! (構成:不破由妃子)


(前回のつづき)

ラストランの有馬記念「あれもね、仕掛けてないんだよ」


池添 そういえば、佑介はフランスでオルフェーヴルの調教に乗ってるんだよね。

佑介 貴重な経験をさせてもらいました。

池添 正直、羨ましかったわ。でも、あのとき「どうやった? めっちゃよかったやろ?」って聞いたら、いまいち佑介の反応が悪くて。調教は何度も乗っていたけど、馬場で追い切ったことはなかったから、その違いなのかなぁと思ったり。

佑介 休み明けの1本目の追い切りだったから、ちょっと重かったんですよ。スピードに乗ってからは"やっぱスゲエな!"って思ったけど、めっちゃ乗り味がいいとか、よくいう背中が柔らかいとか、そういう感じではなかったんですよね。まぁ、僕はレースでは乗っていないから、オルフェーヴルのほんの一面を見たに過ぎないんですけど。

池添 でも、あの背中を経験している日本人ジョッキーは、俺と佑介しかいない。正直、佑介にも乗ってほしくなかったわ(笑)。

佑介 当時も池添さんにそう言われた覚えがあります(笑)。とはいえ、やっぱり積んでいるエンジンが違うなと思いましたよ。とにかく加速力が半端なかった。

池添 3歳の後半からは、口で合図を送るだけでビューン! て動いた。

佑介 音だけで、っていうことですか?

池添 そうそう。舌を2回鳴らすとスイッチが入る感じ。3歳の有馬記念のとき、3コーナー過ぎから動いていったやろ? あれは舌の音だけで反応して、ビューンと上がっていった。その時点ではまだ手は動いていなくて、直線に向いて手を動かしたところでもう一段階ギアが入るっていうのかな。そういう風に動けるように調教から教え込んでいったからね。3歳の春の時点では、そういう反応の仕方はできなかったけど。

佑介 確かに3歳の前半は、ドタドタというか、バラバラ走っている感じでしたよね。だから当時は、瞬発力に長けたタイプではないのかなと思って見ていました。

池添 うん、秋になってからだね。夏を越したらトモがパンパンになって、口で合図をするだけで動くようになった。

佑介 ほかの馬と絶対的な能力値が違う場合、1頭だけビューンと上がっていけるのはわかるんです。ただ、それは未勝利とか500万での話で。みんなが高いレベルで競い合っているGIでそれができるということは、もう1頭だけ次元が違ったとしか言いようがない。最後の有馬記念の圧勝は、もちろん感動もしたんですけど、フランスで乗ったあとだったので、「ああ、オルフェーヴルならこうなるよな」と、どこか納得して見てましたよ。

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▲「フランスで乗った後だったので、最後の有馬は“オルフェならこうなるよな”と」


池添 あれもね、仕掛けてないんだよ。みんなの手が動き始めたときも、ずーっと引っ張ったままだったから。合図を送ったのは4コーナーを回り切ってから。

佑介 そこから一気に突き放しましたもんね。調教とはいえ、あの馬に乗せてもらってから走る馬に対する基準が変わりましたよ。トップスピードに入っているのに、まだ奥行きがあるというか、そこからもう一段階いけそうな馬がいいのかなって。オルフェーヴルは、すごい勢いで加速しているのに全然しんどくなさそうで、サーッと動いてましたからね。

池添 まさにエンジンが違う感じだったからね。そのぶんこっちは大変だったけど(苦笑)。

佑介 そういえば、オルフェーヴルって顔が大きいですよね?

池添 そうそう! 顔がめっちゃデカかった。真正面から見るといい顔してるんだけど、横から見ると明らかに顔がデカい(笑)。

佑介 ですよね。頭が重くて、そのぶん推進力が半端なくて、顔が大きいんだなって思わせる走り方でしたもん。だから、この馬を押さえるのは大変だろうなぁと思いましたよ。抜くところがないから、とにかく耐えるしかないみたいな。

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▲オルフェ、噂の横顔……池添騎手の小顔ぶりも相まって、確かに顔が大きく見える?(C)netkeiba.com


池添 ゲートのなかで大きく息を吸って、開いた瞬間から息を止めて、あとはひたすら耐えた。いつもいつも腕がパンパンやったわ。

佑介 オルフェーヴル以降は、走る馬の基準が相当高くなったんじゃないですか?

池添 うん。満足できるレベルが必然的に高くなるよね。オルフェーヴルに出会うまでは、背中が柔らかい馬は全部走ると思っていて、「この馬、来年のダービー馬ですよ」とか、簡単に言ってたけど(笑)。

佑介 わかります(笑)。

池添 オルフェーヴル以降は、さすがに簡単には言えなくなったよ。でも、去年の今頃、函館でシンハライトに乗ったとき、「こんなに柔らかくてフットワークのいい馬は久しぶりやな」と思った。柔らかい馬って緩い馬が多いけど、シンハライトは当時から緩さがなくてね。乗ってすぐに、「これは絶対に走る!」と思ったよ。

佑介 これだけ走る馬に乗っている池添さんの評価は、さすがに重みがありますよね。

池添 久しぶりに「走る!」と思ったシンハライトが実際にGIを勝ってくれたからね。改めて、自分の感覚は間違ってなかったんだなって思えた春だったな。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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