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馬に乗って浜辺を走る!一宮乗馬センターの魅力

  • 2016年08月02日(火) 18時00分
中村陽子さん

九十久里浜一宮乗馬センター代表の中村陽子さんにインタビュー



16歳になるが元気なエイシンチャンプ

 今回は九十久里浜一宮乗馬センターの代表・中村陽子さんにインタビュー。女性経営者としての奮闘をお聞きしました。

赤見:まずは一宮乗馬センターの特色を教えて下さい。

中村:場所が九十久里浜ですから、馬と一緒に海に行けるというのが一番の特色ですね。乗馬クラブとして通ってくれる会員さんと、観光乗馬として初心者の方が馬と触れ合う場という両方の側面で経営しています。

赤見:初めて馬に触れるお客さんはどんな反応ですか?

中村:まずは引き馬で、子どもから大人まで体験できるんですけど、初めての方は近寄ってみてまず大きさに驚きます。乗ったら最初は「うわっ」と声が出る方が多いですね。これまで体験したことのない揺れ方をしますから。でもたいがいの方はすぐに慣れて、楽しそうに馬たちと触れ合っていますよ。

赤見:馬の背に乗って浜辺を走るのは本当に気持ちいいですが、馬たちはすぐに慣れるものですか?

中村:やっぱり整備された馬場とは違って、馬は最初は怖がりますね。広いし、水だし、波打ち際は色が変わっているから怖がって近寄らないんです。走りやすい所や走りづらい所もあるし。それに、1頭ならばまだしも2頭並走になると、競走馬時代の闘争心に火がついてペースが上がりやすいんです。それを徐々に馴らして行って、浜辺でも落ち着いていられるように調教していきます。

赤見:エイシンチャンプは今でもかなり元気そうですね。

中村:今年で16歳になりますが本当に元気ですよ。人気者なので毎週がんばってくれています。繊細なところがあって、乗り下りする時などは図太い馬とはちょっと違いますね。誇り高いので、他の馬たちを脅しまくってますよ(笑)。そういう面は多少気を使いますが、そのくらいじゃないと大きいところは勝てないのかもしれません。今でもエイシンチャンプに会いに来てくれる方がいらっしゃいますし、GIを勝つってすごいことだなと思います。

エイシンチャンプ

2002年の朝日杯FSを勝ったGI馬エイシンチャンプ



赤見:競走馬からの乗馬転用というのは、実際に発表されている数字よりかなり少ないと思うのですが、やはり難しいですか?

中村:基本的に大人しい馬を中心に紹介していただいているので、うちの場合はそれほど難しいという感覚はないです。ただし、観光乗馬で初心者の方が安心して扱えるようになるまでには、馬にもよりますが数年掛かりますよ。今うちでお仕事をしている馬たちは、10歳中盤から後半の馬たち、10歳前半の馬たち、10歳未満の馬たちという風に分けられるんですけど、精鋭部隊は10歳中盤から後半の馬たちなんです。例えば7、8歳で競馬を引退してうちに来て、調教しながら少しずつ仕事をしていくわけですけど、安定して誰でも扱えるようになるには3〜5年掛かるし、会員さんからもご指名がもらえて人気馬になるには10年近くの年月が必要ですね。

赤見:その待ち時間というのはあまりお金を生まないわけで、長くないですか?

中村:今、余生を過ごしている馬たちが、現在の精鋭部隊になっているエイシンチャンプたちを育てるお金を稼いでくれて、今はチャンプたちががんばってくれているので若い子を育てられるんです。そうやって、少しずつ世代交代をしながら経営を続けているという感じです。

赤見:この乗馬クラブでは、乗馬としての役目をまっとうした馬たちが余生を送っているんですね。お金を生まなくなった馬たちをそのまま置いておくというのは、難しい決断ですがとても素晴らしいことだと感じます。

中村:ある程度の年齢まで来るとそういう時期に入って来ますよね。経済的に言えば、お仕事ができなくなれば余生を過ごす別の場所へ移動するという流れが多い世界ですから、わたしもこの乗馬クラブを継いでから何回か、4頭くらいかな、手放すことがあったんですよ。その時に馬が馬運車に乗りたがらないんですよね。やっぱり自分がもうここには戻れないっていうことがわかるんでしょうか。そんなことがあって、まぁ経済的には甘いことも言ってられないんですけど、出来る限りは最後まで見送りたいと思うようになりました。

赤見:今余生を過ごしているのは何頭ですか?

中村:今は2頭になったんですけど、それまではもうちょっといてけっこう大変でした。30歳のオンワードマスターなんかは元気いっぱいで持て余すくらいなんですけど(笑)、立ち上がれなくなった時に本当に難しいですね。犬や猫のように抱っこしたりはできないので、立てなくなってから、最後をどうするかっていうのが課題です。

赤見:馬の介護となると、体力的にも相当ですよね。

中村:そうなんです。何頭か送って来ましたけど、その部分は難しいですね。だいたいの馬たちが、最後は足腰か内臓に来てしまうんですけど、立てなくなるとどうにもならなくて。うちは船橋の獣医さんにお願いしているんですけど、夜中に来てもらうこともあるし、年末年始の時もあったりして。申し訳ないですけど、こればっかりは生き物なので仕方ないです。何頭か送った後、どうなんだろうって考えさせられたこともあります。馬たちはどう感じているのか、私たちの方が満足しているような感覚があって。でもやっぱり、送るのは淋しいけれど、自分のところから最後を送れるというのはとても大きいことだと思っています。

赤見:中村さんはお休みはあるんですか?

中村:乗馬クラブ自体は水曜日がお休みです。でも朝晩のご飯や水を替えたりする仕事もあるし、生き物相手ですから一日休むということはないですね。実家が東京なので、たまに帰る時にはスタッフにお願いするくらいです。

赤見:どういう経緯で乗馬クラブを経営することになったんですか?

中村:学生時代に最初はアルバイトでここに来るようになって、卒業してから正式に働くようになりました。その時に東京の実家からでは遠いので、先代の社長から「(クラブハウスの)上に来れば?」って言われて。それで住むようになったんです。今考えると、自分でも思い切ったなと思いますね。田舎だから夜になると暗いし、馬しかいないし。若かったからできたんだと思います。その後先代の社長が亡くなって、いろいろな経緯があってわたしが継ぐことになりました。ここに来て22年になります。

赤見:経営する上で難しいことはありますか?

中村:いろいろな乗馬クラブがある中で、例えばもう少し営利目的でもやれないことはないのかもしれないけど、昔からのお客さんもいるのであまり営利すぎても「変わってしまった」ってなるじゃないですか。そのバランスが難しいです。がんばってくれた馬たちの余生も過ごさせてあげたいし、若い馬たちを育てたいと思えばどうしてもコストが必要ですから。ただ、ここは昔ながらのアットホームな雰囲気が売りなので、このまま続けて行ければいいなと思っています。お客さんたちも余生を過ごしている馬に会いに来てくれたりするので、いてくれるだけでクラブに貢献してくれているんですよね。

浜辺

馬と一緒に海に行ける乗馬クラブ・一宮乗馬センター



赤見:馬たちの頭数を揃えておくというのも難しいことだと感じるのですが。

中村:引退した競走馬はその時期によって流通が変わったりしますからね。一時期、震災の時には馬の流れが完全にストップしましたから。欲しいなという時にいなかったり、厩舎がいっぱいの時に声が掛かったり、確かに難しいです。うちは地元のお祭りで神様役の馬を頼まれていて、それが黒い馬なんですよ。性格的に大人しくて体がよくて黒い馬、という条件ですから探すのに苦労しました。今は何頭か黒い馬がいるんですけど。

赤見:色で欲しいっていうのは難しいですよね。

中村:何年もかけてお願いしておかないと、急には無理ですよね。サラブラッドの流通って不思議で、人と人との繋がりしかないんですよ。昔からの信用が大事で、パッと「馬欲しいんです」って言っても買えないし譲ってもらえないんです。それはそうですよね。だって、1、2年よくても命があるものですから、10年20年のスパンで考えないと。可愛いからその時は助けたい、うちに入れたいと思っても、責任があるから一瞬の感情だけでは動けない。その時は助かったように見えても、先々面倒見れないと可愛そうなのは馬ですから。

赤見:中村さんにとって、乗馬クラブを続けるモチベーションは何ですか?

中村:馬たちはもちろん魅力ですけど、周りに人が集まって来るからより魅力を感じているのかもしれないです。馬は生き物ですからどうしても一定じゃないし、いいときもあればよくない時もあります。お客さんも波はありますけど、温かい方々が集まってくれるお蔭で本当に助けられていますね。毎日がんばって働いている方が遊びにいらして、馬を見ているだけ、写真を撮ったりするだけでいいっていう方もいるんです。馬に乗るのはハードルが高くても、馬と触れ合うだけで癒されるので、気軽に遊びに来ていただけたら嬉しいです。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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