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アキヒロ、頑張れ

  • 2016年09月10日(土) 12時00分


 この秋、フランスでの飛躍が期待されるディープインパクト産駒というと、今月、9月11日の第65回ニエル賞をステップに、10月2日の第95回凱旋門賞を目指すマカヒキが、まず思い浮かぶ。

 そこにもう一頭、楽しみな馬が現れた。

 フランスを代表する伯楽アンドレ・ファーブルが管理する、2歳牡馬のAkihiro(アキヒロ)である。

 アキヒロは、先月、8月9日にフランスのドーヴィル競馬場で行われた2歳新馬戦(芝1500m)で、1位入線したネゲヴ(牡、父ソーユーシンク)に進路を妨害され、同馬に短頭差届かぬ2位で入線したが、審議の結果、繰り上がりで1着となった。

 そして2戦目、今月8日にシャンティーで行われたG3のシェーヌ賞(芝1600m)を優勝。重賞初勝利を挙げた。

 その勝ちっぷりが鮮やかだった。マキシム・ギュイヨン騎手を背に、6頭立てという少頭数の後方2、3番手につけた。直線で外に進路をとると、父を彷彿させる「飛ぶ」ような末脚で前を抜き去り、最後は流すようにフィニッシュした。

 アキヒロのオーナーは、GIを14勝した名牝ゴルディコヴァなどのオーナーブリーダーとして知られるヴェルトハイマー兄弟。同オーナーが所有する繁殖牝馬のバーマを日本に送ってディープインパクトを交配し、2014年2月21日にノーザンファームで生まれたのがアキヒロだ。日本流に言うと、アキヒロの生産者はノーザンファームで、繁殖牝馬所有者がヴェルトハイマー兄弟、ということになるのかもしれないが、欧米に合わせた言い方をすると、ヴェルトハイマー兄弟がオーナーブリーダーである。

 母バーマは、現役時代に準重賞のPrix Charles Laffitteを勝ったほか、G3のPrix d'Aumaleで2着になっている。4代母のゴールドリヴァーは1981年の凱旋門賞などを制した名牝である。

 アキヒロは、生まれた瞬間、種牡馬への道が約束された超良血と言える。

 サンデーサイレンス、ディープインパクトともに、種牡馬となった産駒は、一部が輸出されたりシャトルに出るなどしたが、一流どころのほぼすべてが日本に残り、日本だけで発展したきた。

 種付料が3000万円となると、賞金の高い日本で走らなければペイすることが難しいので、競走馬として走らせることだけを考えると、国内専用となって当然だ。しかし、このところ、ヨーロッパの良血牝馬を持ってきてディープをつけ、産駒を種牡馬や繁殖牝馬にするため、またヨーロッパに持ち帰る……という動きがちょくちょく見られるようになっており、それは今後さらに活発になるだろう。

 日本でサンデー系の血が飽和状態と言われているように、ヨーロッパではサドラーズウェルズとデインヒルの血が濃くなったため、新たな血を流し込みたいと思うオーナーやブリーダーが増えている。そうした風潮が、セレクトセールの世界的な注目度を高めているのは周知の事実だ。

 アキヒロの話に戻るが、ヴェルトハイマー兄弟のレーシングマネージャーによると、年内にまた走るかどうかは未定で、あくまでもレース後の馬の状態とファーブル師の判断によるが、凱旋門賞が行われる10月2日、同じシャンティーで行われるGIのジャン・リュック・ラガルデール賞に出るかもしれない、とのこと。ただし、そのコメントには、3歳になってからの将来もあるので無理はさせたくない、といった含みがあったことも付記しておく。

 先月の新馬戦を終えた時点で、大きな不利を受けながら盛り返した内容から世代屈指との評価を得ていた同馬が、スカッとした勝利で、その力が本物であることを証明した。

 もし、10月2日の「アークデー」に2頭のディープ産駒が出走してきたら、日本のファンにはたまらない週末になるだろう。

 ところで――。

 アキヒロが活躍して私がこんなに喜んでいるのは、この馬がディープ産駒だということに加え、私の名前もアキヒロだからである。自分で言わないと誰も気づいてくれないというパターンが多いので、念のため書いておきたい。

 もちろん、オーナーブリーダーのヴェルトハイマー兄弟とは面識がないので、私とは別のアキヒロさんからとったことは間違いない。

 80年代にアラブ最強馬として君臨したアキヒロホマレ(1985-2014)の名は、オーナーのお孫さんからとったらしい。アキヒロホマレが85年生まれということは、私よりもずっと若いアキヒロさんだと思われる。

 アキヒロ、頑張れ。

 そう口にすると、私も頑張ろうという気になる。そりゃそうだという気もするが、ともかく、世界中のアキヒロのひとりとして、頑張ろう。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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