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前哨戦としては100点満点であったニエル賞回顧

  • 2016年09月14日(水) 12時00分


レース後のルメール騎手「これから本番まで、どんどん良くなるはず」

 11日(日曜日)にシャンティイで行われたG2ニエル賞(芝2400m)の回顧をお届けしたい。

 第一次登録の段階では27頭の登録馬があったが、最終的にはわずか5頭立てとなった。

 春に英愛ダービー連覇を果たして登録馬の中では実績最上位だったハーザンド(牡3、父シーザスターズ)は、前日にアイルランドのレパーズタウンで行われたG1愛チャンピオンS(芝10F)に出走。G1英ダービー(芝12F10y)2着馬ユーエスアーミーレンジャー(牡3、父ガリレオ)と、G1愛ダービー(芝12F)3着馬ステラーマス(牡3、父シーザスターズ)の2頭は、前日にアイルランドのレパーズタウンで行われたG3エンタープライズS(芝12F)に廻り、G1仏ダービー(芝2100m)2着馬ザラク(牡3、父ドゥバウィ)は、同日にシャンティイで行われたG1ムーランドロンシャン賞(芝1600m)に廻った。

 そして、G1英ダービー3着、G1愛ダービー2着のアイダホ(牡3、父ガリレオ)は、前日にドンカスターで行われたG1セントレジャー(芝14F132y)に矛先を向けた。更にG1独ダービー(芝2400m)2着馬サヴォワールヴィヴレ(牡3、父アドラーフルーク)、G1英ダービー4着馬ウィングスオヴディザイヤ(牡3、父ピヴォタル)、G1愛ダービー4着馬レッドヴァードン(牡3、父レモンドロップキッド)の3頭はこの週の出走を見送ったため、ニエル賞の出走馬には春の3歳クラシックで上位に来た馬が1頭もいなくなってしまったのである。

 そうなると、日本から参戦したダービー馬マカヒキ(牡3、父ディープインパクト)が、オッズ1.4倍という被った1番人気に推されたのも無理はなかった。

 相手馬の中で、唯一クラシック級の力量を持つ可能性があったのが、イギリスから遠征したミッドターム(牡3、父ガリレオ)だった。

 G1ナッソーS(芝9F192y)を3連覇したのに加えて、G1BCフィリ−&メアターフ(芝10F)、G1ヴェルメイユ賞(芝2400m)、G1ヨークシャーオークス(芝12F)を制した、G1・6勝の名牝ミッデイの初仔となるのがミッドタームだ。2歳10月にニューバリーのメイドン(芝8F)でデビュー勝ちして2歳シーズンを終えると、今季初戦となったサンダウンのG3クラシックトライアルS(芝10F7y)も快勝。この段階で、英ダービーの前売り1番人気に推すブックメーカーも現れたのが、ミッドタームだった。ところが、3戦目となったG2ダンテS(芝10F88y)で5着に敗れると、レース後に骨盤を傷めていることが判明。ダービー出走を断念し、治療に専念することになった。春にそれだけ期待された馬が、4か月の休養を挟んでニエル賞で戦線に復帰していたのである。仏国におけるオッズは9倍の4番人気という低評価だったが、ひょっとするとこの世代でも有数の能力を持っている可能性のあるこの馬が、マカヒキにとって唯一、警戒を要する相手と思われた。

 逃げたのはそのミッドタームで、2番手に距離2400mの準重賞を2連勝しての参戦だったドーハドリーム(牡3、父シャマーダル、5.2倍の2番人気)。パドックから落ち着いていたマカヒキは、これまで経験したことのないスローペースにも戸惑うことなく、きっちりと折り合って3番手を追走。4番手に前走LRクラレフォンテン大賞(芝2400m)を勝っての参戦だったダラバッド(牡3、父ダンシリ、6.9倍の3番人気)で、5番手にここまで準重賞3着が最良の成績だったカルゾフ(牡3、父ゾファニー、28倍の5番人気)という隊列になった。

 5頭が縦一列の隊列が変わらぬまま、馬群は直線へ。マカヒキの鞍上クリストフ・ルメールがおもむろに追撃態勢に入ったのは、残り300m付近で、そこから前の2頭を捉えにかかったマカヒキが、残り100mを切ったあたりで先頭に立って優勝。首差2着がミッドタームで、更に短頭差遅れた3着がドーハドリーム。そこから10馬身ちぎれた4着がダラバッドで、更に1.1/2馬身遅れた5着がカルゾフだった。

 手綱をとったクリストフ・ルメール騎手は、レース後、「今日のマカヒキは70%から80%。これから本番まで、どんどん良くなるはず」とコメント。トライアルらしい競馬をし、なおかつ勝利を手にしたという点で、前哨戦としては100点満点であったように思う。

 言うまでもなく、凱旋門賞で顔を合わせる敵は、この日とは比較にならぬほど強大だ。

 そして、この日は楽に3番手を追走したマカヒキだが、有力馬の1頭であるポストポーンド(牡5、父ドゥバウィ)の陣営あたりがラビットを使ってくることが予想される凱旋門賞でも、この日のように好位をとることができるか。後ろからの競馬になった場合、この日よりは遥かに多頭数となる馬群を上手に捌けるか、そして、道悪になった場合でも、この日のような脚が使えるか。

 気がかりなことを言い出せば切りがないが、しかし、この日のマカヒキの競馬は、日本人ホースマンにとっての悲願達成に向けて、長足の一歩となったことは間違いなさそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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