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あっぱれ末脚に賭けた9歳馬、ドリームバレンチノ/東京盃・大井

  • 2016年09月23日(金) 18時00分

撮影:高橋正和



9歳でのグレード勝利には恐れ入る


 単勝1.8倍の1番人気に支持されたダノンレジェンドは内枠に入ったことが心配されたが、その不運がすべて出てしまったようなレースだった。

 出遅れというほどではないものの、相変わらずスタートはよくない。それでも二の脚が速いので好位につけることはできるのだが、ひとつ外の枠がコーリンベリーなのは不運だった。

 コーリンベリーも譲らずハナをとりたい。ダノンレジェンドにしてみれば2番という枠順ゆえ、一旦引いてしまえば外から次々に来られ馬群に揉まれることになり、最悪の形になってしまう。2頭が互いに譲らずという展開になった結果、前半は12.3- 10.5- 11.3というラップで3F通過が34秒1というハイペース。

 一般的に日本のダートでは湿ったほうがスピードが出る。しかし水が浮くほどになると逆に時計がかかるようになることがある。条件戦の勝ちタイムを見ても、この日はスピードがあまり出ない馬場になっていたようで、それを考えれば34秒1という数字以上に前は厳しいペースだった。

 これでは共倒れもあるなあ、と思ってレースを見ていたのだが、バッタリ止まってしまったのは、コーリンベリーからプレッシャーを受け続けたダノンレジェンドのほうだった。

 仮に2頭の枠順が逆であれば、コーリンベリーを先に行かせ、ダノンレジェンドはその外の2番手でもいい。またダノンレジェンドが2番枠でも、コーリンベリーがずっと離れた外のほうであれば、コーリンベリーを一気に前に行かせたあとに、その外に持ち出すということができたかもしれない。ダノンレジェンドにとっては、単に内枠に入ったというだけでなく、すぐ外の隣の枠がコーリンベリーだったことが、想像していた以上に厳しいレースになってしまった。それが、勝ち馬から0秒8差がついての5着という結果だ。

 60kgを背負ったクラスターCでは驚くべき強さを見せたダノンレジェンドだったが、同時にもろさも併せ持ったタイプの馬であることが、あらためて示されてしまった。

 そして前が競り合ってのハイペースで見事に直線一気を決めたのが、ドリームバレンチノだった。▲をつけた予想で「ダノンレジェンドに2馬身差だった昨年のような走りを見せてもおかしくはない。」と書いたが、それ以上のレースになった。

 スタート後は後方3番手。徐々に位置取りを上げ、4コーナーを回るところでもまだ中団。そこで岩田騎手は大外に進路をとった。たしかにこの日の馬場は内より外のほうが伸びていたようだった。直線を向くと岩田騎手は右ムチに持ち替え、すでに馬群のいちばん外にいるのだが、さらに外へ外へと進路を取った。ほとんどの馬が馬場の三分どころより内を通っているのに対して、ドリームバレンチノだけは馬場のど真ん中を突き抜けた。岩田騎手はそこが一番伸びると見ていたのだろう。直線の長い大井では後方から直線一気を決める馬もたまにいるが、それにしてもこれほどの大外から差し切ったというのもめずらしいのではないか。

 ドリームバレンチノにとっては、2年前のJBCスプリント(盛岡)以来、じつに1年11カ月ぶりの勝利。何度も書いているように、ダート短距離路線では唯一のGI・JpnIであるJBCスプリントを勝ってしまうと、その後は斤量を背負わされることになり、厳しいレースが強いられる。しかしJpnIIでは相対的に別定重量が緩和されることで、好勝負の可能性も出てくる。過去には2012年にJBCスプリントを制したタイセイレジェンドが同じパターンで、JBCを勝ったあとに挙げた勝利が東京盃だけで引退している。

 それにしても9歳でのグレード勝利には恐れ入る。加用正調教師、岩田騎手のコンビでは、リミットレスビッドがやはり9歳で、さきたま杯(当時はJpnIII)を同じ58kgを背負って勝ったことがあった。

 2着争いはドリームバレンチノから2馬身差で3頭が横一線。コーリンベリーはこの厳しい展開でよく2着に粘ったものと思う。ここまで全8勝のうち、3歳時の昇竜S(中京)以外はすべて右回り。名古屋のかきつばた記念も勝っているとはいえ、右回りでコーナー2つだけというコースが合っているのだろう。

 そして大健闘といってもいい好走を見せたのが、コーリンベリーからアタマ差で3着に入ったプラチナグロース。中央500万から昨年春に川崎に移籍。徐々にクラスを上げ、特に1200mのみを使われるようになった昨年秋以降に力をつけた。今回は先行争い4頭を前に見る位置を進み、4コーナーではダノンレジェンドの内に1頭ぶんだけ空いたスペースにもぐり込んでうまく立ち回った。時計がかかる馬場だったことも幸運だった。

 中央勢ではもっとも人気がなかったキクノストームも、あわや2着はあったかという4着。4コーナーではドリームバレンチノよりさらにうしろの位置で、ドリームバレンチノが通ったあとを伸びてきた。上り最速のドリームバレンチノからコンマ2秒だけ遅い36秒6という上がりをマークしての健闘。オープン勝ちの大和S、初重賞勝ちのカペラSが重馬場だったように、渋った馬場はこの馬に味方したかもしれない。

 舞台が川崎1400mに変わるJBCスプリントが難しくなった。今回は敗因がはっきりしているだけに、再びダノンレジェンドが1番人気に支持されるのだろうか。ゴール前200mのところからスタートする川崎1400mは1コーナーの入口までそれほど距離がなく、先行争いが激しくなりやすい。二の脚は速くても、スタートダッシュがあまりよくないダノンレジェンドには向いているとは言い難いコース。自身の枠順だけでなく、前に行きたい馬との相対的な内外の枠順も気になるところ。

 最後に、地方馬でもっとも期待されたルックスザットキルは13着に沈んだ。1分11秒台後半の決着なら対応も可能だったかもしれないが、ハイペースの先行争いにからんでいってはいかにも厳しかった。5着に粘った東京スプリントは、ダートグレードとしては奇跡的に超スローな流れ。逃げ切り完勝だったアフター5スター賞も前半35秒0という楽なペースだった。1200mでも息が入るくらいのペースになって、流れに乗らないと現状では厳しい。プラチナグロースと同じように馬群の二段目を進めばそこそこの着順には来ただろうが、地元代表として勝ちに行っての結果だけに仕方ない。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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