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【田辺裕信×藤岡佑介】第1回『優勝請負人の騎乗論 人気馬とそれ以外の馬の乗り方の差』

  • 2016年10月05日(水) 18時01分
with 佑

▲今月のゲストは田辺裕信騎手。明るいキャラとは裏腹に、騎乗に関しては緻密な計算が…!?


コーナー初の関東騎手が登場。ゲストは“優勝請負人”田辺裕信騎手です。記憶に新しいのが今年の安田記念。8番人気のロゴタイプで鮮やかな逃げ切り勝ち。同馬にとって皐月賞以来、3年ぶりの勝利となりました。今年デビュー15年目、以前から騎乗技術を高く評価されていた田辺騎手に転機が訪れたのが2011年でした。前年の倍を上回る勝ち星を挙げて一気にブレイク。今や関係者・ファンからの信頼厚い田辺騎手と、熱い『騎乗論』を交わします。(構成:不破由妃子)


人気のない馬に乗るほうが面白い


佑介 田辺先輩、今日はよろしくお願いします。今までジョッキーと対談したことってあります?

田辺 あるよ……いや、ないかな。あ、(丸山)元気としたことがあったかな。この佑介の対談企画は、てっきり関西圏の人間だけかと思ってたよ。

佑介 そんなことはないですよ。これまでは関西のジョッキーが中心でしたけど、これからは関東の方にもどんどん声を掛けていくつもりです。で、まずは田辺先輩と…と思って。

田辺 そうそう、何で最初が俺なんだよ(笑)。

佑介 騎乗論のような深い話がもっと聞きたいというリクエストがけっこうあるみたいで。そういう深い話をしてみたいのは誰かなと考えたときに、真っ先に田辺先輩の顔が浮かんだんです。

田辺 えー! 競馬の真面目な話をするのー!?

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▲田辺「えー! 競馬の真面目な話をするのー!?」


佑介 そうですよ(笑)! なぜ田辺先輩だったかというと、これまであまり競馬の話をさせてもらったことがないからです。田辺先輩と一緒になるのは飲みの席がほとんどだし、そもそも田辺先輩が競馬の真面目な話をしているのを見たことがない(笑)。

田辺 確かに、俺に限らず、競馬の話ってあんまりしないよね。調整ルームであんなにジョッキーが集まっていても、競馬の話をしている人ってあまり見かけたことがないもん。

佑介 でも、田辺先輩のここまでの道のりや騎乗スタイルを見ていると、絶対にいろいろと考えているはずだし、同じジョッキーとしてすごく興味があります。なかでも一番お聞きしたかったのが、人気馬とそれ以外の馬の乗り方についてです。僕はレースの組み立てからして違ってくると思っているんですが、田辺先輩はどうなのかなって。

田辺 人気馬だと、どうしても無難に乗らざるを得ないケースが多いよね。自分がこう乗りたいと思っても、指示が出ることのほうが多いし。もちろん、勝てる可能性は人気馬のほうが高いわけだけど、俺は人気のない馬に乗るほうが面白いな。 

佑介 わかります。人気馬はやれることが少ないですもんね。

田辺 こういう言い方はあれだけど、自分で「負け面」を良くする乗り方をしているな…と思うことがある。本当はそれじゃあダメなんだけどね。

佑介 なぜこの話を田辺先輩としたかったかというと、田辺先輩は途中までローカルを中心に乗っていて、あるときそこで勝ち星がドン! と伸びて、急激に人気馬に騎乗する機会が増えたじゃないですか。それまではどちらかというと、ちょっと足りない馬をいかに勝たせるかっていう組み立てが多かったと思うんですけど。

田辺 そうそう。内を縫っていかに上の着順に持ってくるかとか、そういうレースが多かった。人気していないぶん、リスクが少なかったし、たとえドン詰まっても「仕方がないね」で済むケースが多い。自分のなかにも「ダメ元」という余裕があったしね。でも、それを人気馬でやるとなると……。

佑介 リスクが大きすぎる。

田辺 うん。ここは絶対に落とせないとか、そういうレースが出てくるからね。あとは今、新聞の情報量が多いでしょ? ジョッキーは本当に新聞をよく見ているから、俺が「この馬はこんなに人気する馬じゃないんだけどな…」と思っていても、人気=走ると思ってプレッシャーをかけてくる。そうなると、内でジッとしているという競馬がやりづらくなる。

佑介 そうですよね。自分のなかには「ちょっと足りないかも…」という気持ちがあるから、内にこだわったりして足りないところを補う騎乗がしたいのに、実際にそういう競馬をすると、下手に人気しているぶん余計にプレッシャーがきつくなって、出るに出られなくなる…とか。

田辺 だからね、正直、自分が乗る馬にはあんまり人気してほしくない(笑)。

佑介 ですよね。僕も人気がないほうが乗りやすいですもん。さっきも言いましたけど、とくに田辺先輩は急激に人気馬に乗る機会が増えたから、余計に感じるんじゃないですか?

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▲佑介「自分が乗る馬は人気してほしくないですよね。僕もそのほうが乗りやすいです」


田辺 うん、それはあるね。

佑介 確か、いきなり80勝以上した年があったんですよね。

田辺 そうそう。震災があって、結局、通常の冬の小倉開催が4月の半ばあたりまで続いた年(2011年)。俺ね、その前の年の12月に初めてエージェントを付けたの。

佑介 そうそう、すごく遅かったんですよね。

田辺 それまでは、自分のなかでエージェント制度は邪道だと思ってたから。自分で厩舎に顔を出して、自分で乗り鞍を集めて競馬をして…っていうコミュニケーションの取り方が当たり前だと思ってた。だって、エージェントが集めてきた馬に乗るということは、調教師の顔も厩務員の顔も馬の背中も全然知らないまま、いきなり競馬というケースもあるわけでしょ? で、結果が良くても悪くてもそれっきり…みたいな。それはどうなのかなぁと思っていたんだけど。

佑介 だけど?

田辺 時代には逆らえませんでした(笑)。実際、エージェントを付けたことで、すごく勝ち星が伸びたからね。

佑介 でも、いくらエージェントが馬を集めてきたところで、結果を出さなければ先につながらない。その点、田辺先輩は、目に見えて結果を出した。あの年の小倉では、めっちゃ勝ってた印象が今でも残ってますからね。ゴルトブリッツで初めて重賞を勝ったのも(2011年4月24日・アンタレスS)、あの時期ですよね?

with 佑

▲デビュー10年目で手にした初重賞勝利 (C)netkeiba.com


田辺 そうそう、関西の厩舎からも徐々に走る馬を頼まれるようになって。

佑介 そのきっかけを作ったのは、前の年のアドマイヤマジン(2010年6月19日・安達太良S1着)じゃないですか? 確か、初めて松田博資厩舎の馬に乗って、いきなり結果を出したレースだったような。

田辺 うん、あれは大きかった。俺ね、それまで松田先生の顔を知らなかったくらいだからね(苦笑)。でもあの一戦をきっかけに、騎乗依頼をもらうようになった。そうやって走る馬がポンと回ってきたときに、結果を出せるか出せないか。それがいかに大事なことか、身を持って知ったよ。今、思うように結果を出せずにもがいている若い子も、そういうチャンスをモノにして目立つことができれば、絶対にその先につながっていくと思うよ。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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