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【田辺裕信×藤岡佑介】第3回『関東の騎手界 なぜ戸崎騎手の一強状態なのか』

  • 2016年10月19日(水) 18時01分
with 佑

▲「関西だから若手が育つっていう単純な話じゃない」戸崎騎手とベテラン中心の関東でブレイクを果たすには


デビューから10年経って大きく飛躍した田辺騎手。関東の若手の中から“第二の田辺騎手”は生まれるのか? 田辺騎手が魅力を感じている騎手は何人もいる一方で、なかなか目立ってこないという現実もあります。ベテランの勢いがいまだに強い関東の騎手界に対して、田辺騎手が抱いている思いとは。(構成:不破由妃子)


(前回のつづき)

若手から中堅どころにも巧いジョッキーはたくさんいる


佑介 さっき数字の話になりましたけど、関東は今、戸崎さんの一強状態。なかなか若い子が上がってこない印象がありますけど、そのあたりはどう思いますか?

田辺 巧い子はたくさんいるんだよ。ただ、やっぱり馬が揃わない。もう若手ではないけど、津村とか石橋脩とか、本当に巧いと思うんだけどなぁ。

佑介 関東と関西では、厩舎側の起用の仕方にも違いがありますよね。

田辺 ああ、調教師が若手を乗せないとかそういうこと? まぁ乗せてはいるけど…、さっきも言ったように、勝ち負けになる馬がなかなか回ってこないっていうのはあるよね。あくまで俺の印象だけど、関西の場合、たとえば短距離の逃げ・先行馬なら少しでも軽いジョッキーを乗せたほうが粘れるんじゃないか…っていうことで減量ジョッキーを起用することが多いような気がするけど、関東はそういう起用の仕方は少ない。

佑介 そういうのって、昔からの流れが続いている感じですよね。

田辺 うん。だから、関西のほうが若手が育ちやすい環境ではあるけど、そのぶん、その流れのなかでちゃんと地盤を築かないと、すぐに切られてしまうでしょ?

佑介 その通りです。

田辺 でも、関東の場合、数は乗れなくても、その後も面倒をみてくれる調教師が多いような気がする。減量が取れて、ちょっと厳しい状況になっても見捨てないというか。あ、関西の調教師が冷たいって言ってるんじゃないよ(苦笑)。

佑介 わかってます(笑)。

田辺 だからまぁ良し悪しだよね。関西は若手が育つ、関東は育たないっていう単純な話じゃない。与えられた環境は動かないわけだから、あとはもう自分でどう打破するかだよね。ただ、さっきも言ったように、若手から中堅どころにも巧いジョッキーはたくさんいる。だから、チャンスがきたら、一気に流れに乗れる可能性はあると思う。

佑介 “その時”がくるまで腐らないことが大事ということですね。

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▲佑介「“その時”がくるまで腐らないことが大事ということですね」


田辺 うん、そう。それとは逆で、勢いに乗っていても、「そんなに巧いかなぁ」と思うジョッキーもいる。そういうジョッキーは、ちょっとした躓きで一気に落ちてしまうかもしれない。となれば、そこに隙が生まれるわけで。

佑介 今、勢いに乗っている関東の若手といえば、石川裕紀人。彼は本当に巧いなぁと思って、注目して見てます。

田辺 裕紀人はいろんな意味ですごいよ。乗り方もブレないし。

佑介 それにしても、今、関東リーディングは、1位が戸崎さん、2位が内田さん、3位が田辺先輩で4位が蛯名さん。ベテラン勢が強いですよね。

田辺 蛯名さんにしても内田さんにしても、モチベーションがすごく高いもん。それはね、みんな見習わなきゃいけないところだと思う。逆に戸崎さんは、ものすごいプレッシャーだと思うよ。やっぱり追う側は楽で、追われる側は本当にキツイと思うから。

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▲田辺「ベテランのモチベーションの高さは見習わないと。逆に追われる側のプレッシャーは本当にキツイと思う」


佑介 でも、戸崎さんはいつも飄々としてますよね。追われる立場でありながら、自然体でいられるのがすごいなって。

田辺 いやいや、戸崎さんにしても戸崎さんのエージェントにしても、けっこうキツイと思うよ。俺はね、ここ数年ですごく勝たせてもらえるようになったけど、年間30勝、40勝の頃は、正直「このままでいいや」とずっと思ってた。

佑介 わかります。そういう心境に陥りますよね。

田辺 今思えば良くないことなんだけど、現実的に生活は何も困らないし、周りからも必要以上に求められないから楽だったんだよね、きっと。そういう時期があったからこそ、モチベーションを保ち続けている蛯名さんとか内田さんは本当にすごいなって。“若い奴には負けられない!”っていう執念がすごいもん。そういう気持ちがなくなってしまったら、闘志の火も一気に消えてしまうんだろうけどね。

佑介 蛯名さんも内田さんも、当分、闘志の火は消えませんよ。消してやろうと思ってフーッと息を吹きかけたら、きっともっとメラメラ燃えますよ。

田辺 そうかも(笑)。同じベテランでもノリさんはまたちょっとタイプが違って、「若い奴には負けない」という闘志より、自分の乗り方をとことん極めていくタイプ。どちらも高いモチベーションが必要だから、本当にすごいよね。

佑介 そういえばこの前、久々にノリさんと話したとき、「お前らさ、平日の昼間って何やってんの?」って聞かれて。「けっこうやることありますよ」って言ったら、「俺さぁ、本当にやることねぇんだよなぁ」とか言って(笑)。「ノリさん、海外に乗りに行くのはどうですか?」って言ったら、「……いやぁ〜(苦笑)」って笑ってましたけど。僕ね、四位さんにも言ったことがあるんです。「日本にもこれだけ乗れるジョッキーがいるということをもっと世界に知ってもらうためには、ノリさんとか四位さんが行くしかないですよ」って。

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▲佑介「ノリさんには、笑ってごまかされましたけど(笑)」(撮影:高橋正和)


田辺 うんうん、ノリさんと四位さんには、ぜひ行ってほしいよね。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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