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名古屋競馬場、移転計画

  • 2016年12月21日(水) 18時00分


ナイター参入で売り上げ増は見込めるか

 中日新聞が12月19日午後に「名古屋競馬場が弥富トレセンへ移転する」計画を伝えた。市内港区にある現競馬場が老朽化していることと、移転後は、土地を2026年に県内を中心に開催予定の「アジア競技大会の選手村」として活用する予定であること、さらに弥富トレセンへの移転によってナイター開催が可能になる利点も挙げている。計画によれば、2017年度から移転工事に着手する予定とのことだ。

 新競馬場は、トレセンの既存の馬場(1100m、ただし競馬場化に伴い1200mに延長する計画とも伝えられる)や厩舎を生かし、後は観戦用のスタンドやパドック、駐車場などを整備するだけで済む。もともと弥富トレセンは敷地面積が77haもあり、計画によればその一部17haを売却して94億円の移転、新競馬場建設の財源に充てる予定という。

 77haと言えば、東京競馬場とほぼ同じ面積である。地方競馬場としては十二分な広さであり、一部分を売却してもさほど影響はなさそうだ。

 2012年まで赤字体質から脱却できなかった名古屋競馬が、息を吹き返したのは、2013年のこと。この年、中央のI-PATによる地方競馬の馬券発売網の拡大と、地方競馬の施設で中央の馬券を発売する「相互発売体制」が確立し、名古屋競馬もこの年を境に黒字を計上するまで業績が改善してきた。その額が2015年度には13億円に達したという。

 さらに今年も順調に売り上げを伸ばしてきており、1月〜11月末で102日間を開催し、総額243億円、1日平均約2億3800万円の売り上げである。総額では24.4%、1日平均でも23.2%の伸び率となっている。

 こうした背景が移転計画を後押しした形である。トレセンの競馬場化に関しては、ホッカイドウ競馬の門別競馬場がすでに実践例として知られている。門別競馬場の二つのスタンドは、全国的に見てもおそらく最小規模で、収容能力は約1300人だそうだが、普段は本場の入場人員が400〜500人程度なのでこれでも間に合っている。

ナイター開催の門別競馬場

ナイター開催の門別競馬場


門別競馬場のレース風景

門別競馬場のレース風景


北海道SC当日の場内の様子

北海道SC当日の場内の様子

 名古屋競馬とて、近年は本場の入場人員が伸び悩んでおり、今年1月〜11月末までのデータでは、1日平均1489人である。当然のことながら、他の地方競馬と同様に、場外発売比率が高く、90%を超えている。

 その辺を見越して、愛知県競馬組合は場外発売、とりわけネットでの比率が大きくなってきていることに鑑み、本場での集客よりも、ナイター開催による売り上げ増を狙っての移転計画なのであろう。年度末の組合議会で可決される見通しのようで、来年は一気に移転に向けた動きが始まりそうだ。

 とはいえ、懸念材料がないわけではない。まずひとつは、弥富トレセンが公共の交通機関(JR、名鉄、近鉄)の最寄り駅からひじょうに離れていること。新競馬場に行くには、自家用車かバスにならざるを得ないが、現在の名古屋競馬場が、あおなみ線の最寄り駅から徒歩3分の場所に立地していることと比較すると、かなり不便な印象が強い。

 また、競馬そのものに関しては、今年11月1日時点での在厩馬が、わずか488頭にとどまっており、弥富トレセンの総馬房数1160に比べて、著しく少ないことも気になる。名古屋は笠松と交互に開催を行っており、お互いに人馬を融通しあってレースを消化しているが、両方を合わせても在厩馬は950頭である。それで、昨年度(2015年4月〜2016年3月)を例にとると2場で年間208日間を開催する。(参考までに記すと南関4場は、合計264日開催で、在厩馬は2500頭を超えている)

 明らかに駒不足の感は否めず、さらなる頭数確保が求められるところだ。ただ、それには、まず賞金と出走手当の増額が不可欠で、名古屋競馬の場合、下級条件戦では1着賞金が17万円でしかなく、2着以下5着までを合わせた賞金割合も140%方式である。

 新競馬場への移転計画は、ひじょうに喜ばしいことではあるが、肝心の中身をより充実させなければ、単にナイター化によって売り上げ増が見込めるだろうという見通しは、やや甘いような気がする。

 南関4場のうちの3場、曜日限定ながら園田、そして4月〜11月には門別と、すでにいくつもの競合相手がナイターを実施している。名古屋競馬のナイター参入により、より競争が激化し、限られたパイを奪い合うことになるだろう。そこを勝ち抜くには、レースの中身を充実させなければならないことは言うまでもない。名古屋競馬の総馬房数に対する在厩馬数は率にすると約42%であり、これは全国の地方競馬の中でも最低水準にあることを敢えて記しておく。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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