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売上アップの次の一手

  • 2016年12月30日(金) 18時00分


◆将来を見据えて適正に使っていきたい

 東京大賞典当日の大井競馬場には午後2時前に着いたのだが、「人が多いなあ」と感じた。最終的に大井競馬場の入場人員は34,601人で前年比101.5%。昨年とほとんど変わらなかったのだが、かつて3号スタンドだった場所が『ウマイルスクエア』というスペースに変わり、人の流れが変わったことで人が多いと感じただけだったのかもしれない。

 驚いたのが東京大賞典の売上げだ。37億3269万5200円は、昨年の東京大賞典で記録した地方競馬における1レースあたりの売得金額レコード27億4963万900円から、なんと10億円近くの大幅アップでのレコード更新となった。また1日あたりの売得金額61億9493万3590円(SPAT4LOTO売上げ含む)も、今年のJBC開催(川崎)で記録した地方競馬における1日あたりのレコード48億7402万2850円から13億円余りの大幅アップとなった。

 今年は全国の地方競馬で、“売上げアップ”“売上げレコード更新”というリリースを何度も目にした。

 実際に今年1月〜11月の地方競馬開催成績を見ると、すべての主催者で1日平均の売上げが前年比でアップ。もっともアップ率が小さいのが大井なのだが(これは売上げの絶対額が大きいからと思われる)、それでも105.1%。前年比で120%超となっている主催者もあり(門別、名古屋、高知)、地方全体では114.3%となっている。

 高知競馬では12月25日の売上げがついに4億円を突破した。近年でもっとも売上げが落ち込んでいた2008年度には1日平均の売上げが約4千万円ということがあり、それを思えば1日4億円というのは、にわかには信じがたい金額。ちなみに今年1月〜11月の高知競馬の1日平均は2億870万円余り。この8年でじつに5倍もの売上げになった。この数字は、岩手の2億393万円余りをすでに上回り、大都市圏である名古屋の2億3809万円余りにも迫っている。

 高知競馬は、これによって12月18日の開催から賞金も大幅アップ。最下級条件の1着賞金がそれまで14万円だったものが、その開催からは20万円となった。もっとも落ち込んだ時期には9万円ということもあったので、当時からは倍増以上となっている。

 これほど地方競馬の売上げが伸びている要因は何か。もちろんJRA-IPATによる地方競馬ネット投票での売上げが最大の要因であろう。雑談レベルで聞いた話だが、JRA-IPATの地方競馬ネット投票の今年の売上げは、昨年の約1.5倍にもなっているとのこと。

 しかしそれだけが要因でないことは、地方競馬ネット投票での発売がない、ばんえい競馬の売上げも伸びていることでわかる。

 ばんえい競馬では、2007年度に帯広一市での単独開催になって以降、2011年度には1日平均で約6700万円まで売上げが落ち込んだ。しかしその後は、売上げ全体に占めるネット投票の割合の上昇とともに売上げ額も年々アップ。2016年度はいよいよ1億円超えが期待できるところまで回復している。そんななか、12月29日には、帯広単独開催となって以降では初めての1日2億円超えを記録した。

 要因は何だろう。昭和から平成に時代が変わる頃のような競馬ブームが来ているふうでもない。一般社会も競馬もネット中心の時代になって、新たに若者が競馬に参加しやすくなったということはあるかもしれない。さらにこれについて書くと長くなるので一言で済ませるが、キズナが勝った第80回日本ダービーが行われた2013年からのJRAの広報戦略が当たって、競馬に参加する人が増えたような気もする。それは2017年のJRAイメージキャラクターとして若い人気俳優4名を起用したことにも表れていると思う。

 それにしてもこれほど競馬の売上げがアップし続けているのはちょっと怖い。バブル経済崩壊後に、地方競馬では年々10%ずつ売上げが下がり続けた時代も怖かったが、今はもちろんそれとは逆の意味でだ。

 売上げが上ったぶんは、必ずまた下る時期が来るであろう将来を見据えて適正に使っていきたい。青天井に思えたバブル期には、過剰な設備投資をしたり、黒字になったぶんをほとんどすべて地方自治体の予算として拠出してしまうなど、競馬開催費としてプールしておくことをせず、下降に転じたときに持ちこたえられず廃止となった主催者もいくつかあった。

 高知競馬のように賞金が不当なほどに下がってしまったところは、賞金や手当などを適正な金額まで上げるということはまず必要だろう。

 同じように賞金が下がってしまったばんえい競馬でも、賞金額や手当などの回復は必要だが、それ以上に生産者対策が急務となっている。馬券が好調に売れるようになっても、生産頭数が減り続けているために、2年後、3年後には、競走馬としての重種馬の供給不足が懸念されている。

 また地方競馬では多くの競馬場のスタンドが昭和の時代に造られたもの。耐震強度の問題が指摘され、改築や改修に多額の予算が必要という話もいくつかの競馬場で聞いている。

 売上げが好調な時期こそ、その予算をどう使っていくか。競馬主催者だけでなく、生産なども含めた競馬界全体で将来への見通しを考えていくべきだろう。

 さて私事になりますが、いつの間にか10年を超えて続いている、この『地方競馬に吠える』を一旦休ませていただくことになりました。この春頃までにまとまって原稿を書かなくてはいけないプロジェクトが発生したため、自分から申し出てのことです。編集部からは「ぜひ復活してください」とのありがたいお言葉をいただいているので、おそらく数ヶ月ののちには復活すると思われます。なお、『交流重賞展望』『交流重賞回顧』については引き続きとなりますので、2017年もよろしくお願いします。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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