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距離克服でダート牝馬戦線に名乗り、ワンミリオンス/TCK女王盃・大井

  • 2017年01月26日(木) 18時00分

撮影:高橋 正和



内を突いた戸崎騎手の好騎乗


 ホワイトフーガは、どうにも難しい馬のようだ。持てる能力を発揮できれば、現役牝馬のダートでは圧倒的に強いが、その力を発揮できる条件を予想するのが難しい。TCK女王盃はすでに昨年制しているレースであり、昨年より2kg重い58kgを背負うとはいえ、その斤量もスパーキングレディーCで克服している。それゆえ単勝1.7倍という支持を受けたが、結果は3着。年齢を重ねて抑えがきかないようなことはほとんどなくなったが、頭が高いゆえか、力んで走っているように見える。

 勝ったワンミリオンスの走破タイム1分54秒1は、このレースが1800mで行われるようになった2004年以降、2008年(勝ち馬:ラピッドオレンジ)と同じでもっとも遅いタイムだが、パサパサに乾いていた馬場と、最近全体的に時計がかかるようになっていることを考えればそれほど遅いタイムでもない。1000m通過が61秒9というのは、牝馬のダートグレードでは平均的なペース。ホワイトフーガは5番手の外で向正面中間までは勝ち馬と併走していた。直線は3頭での叩き合いとなって、1、2着馬の斤量が55kgに対してホワイトフーガは58kg。その斤量差に加え、勝ち馬との約1馬身差は4コーナーで通ったところの差もあっただろう。同じ大井1800mでは、1000m通過が60秒を切るハイペースだった2015年のJBCレディスクラシックでのホワイトフーガの上り3Fは38秒7で、一転1000m通過が64秒2というスローになった昨年のTCK女王盃では37秒0。それらと比較すると平均ペースで流れた今回のホワイトフーガ自身の上り39秒0(レースの上りも同じ39秒0)は物足りないようにも思えるが、2015年のJBCが当時は3歳ゆえの53kg、昨年のTCK女王盃が56kgだったことを考えると、今回も58kgを背負ったなりに能力は発揮している。

 58kgでも断然人気に支持されたのは、同じ58kgを背負って完勝だった昨年のスパーキングレディーC、そして昨年のJBCレディスクラシックで見せた圧倒的な強さからだろう。その2戦の舞台は川崎。どうやらホワイトフーガは、左回りの川崎でこそ圧倒的な強さを発揮するが、右回りの大井ではそのパフォーマンスがやや落ちるということがいえそうだ。ただパフォーマンスは落ちても、牝馬同士であればそもそもの能力差から、条件や展開さえ味方すれば大井でも十分に勝ち負けにはなる。

 勝ったのは、1000万条件から準オープンと連勝してきたワンミリオンス。予想でも書いたとおり、これまでダートでは1400mしか経験しておらず、陣営もほぼそのことのみが不安材料だったようだが、1800mでも見事にこなして見せた。大井の長い直線で追い比べから抜け出したということでは、この馬の持ち味を存分に発揮した。それに加え、4コーナーで勢いをなくした先行2頭をうまくさばいて、追い比べとなった2頭よりも内を突いたというあたりは、戸崎騎手の好騎乗だった。3コーナーあたりから内で併走していたタイニーダンサーは、その先行2頭が下がってきた4コーナーで前が詰まるような形になっていた。ワンミリオンスがタイニーダンサーと内外逆だったら、ひょっとすると3頭での競り合いにまで持ち込んでも勝てていなかったかもしれない。

 ワンミリオンスはこのあともダートグレード路線をということで、もしエンプレス杯となれば、さらなる距離延長に加え、川崎の2100mは流れもまったく変わるので、そのあたりがあらためての課題となってきそうだ。ちなみにホワイトフーガの次走はフェブラリーSだそうで、そうなるとワンミリオンスにとっては、川崎で圧倒的なパフォーマンスを発揮する(と思われる)強敵は不在となる可能性が高い。

 あわやというレースを見せたのが大井のリンダリンダ。いつもは中団から直線勝負というタイプで、2走前のクイーン賞が4着に入ったものの前との差を詰められず、前走東京シンデレラマイルが5番手あたりから伸びたものの先に抜け出したトーセンセラヴィにクビ差及ばずというレースだったが、今回3番手の積極策は荒山調教師からの指示だったとのこと。それがうまくハマったこともあるが、昨年3歳夏を休養したあとの成長も著しい。無理せずじっくり仕上げていく荒山流の仕上げもうまくいっていたのだろう。地方ではもっとも期待されていたトーセンセラヴィは向正面競走中止で残念なことになったが、仮にトーセンセラヴィが無事だったとしても、クビ差だった東京シンデレラマイルから今回で力関係は逆転していたのではないか。

 まったく残念だったのが最下位に沈んだマイティティー。前走船橋のクイーン賞は実績のない左回りが敗因かとも考えられた。今回は最内枠ゆえ逃げることになったのだろうが、3コーナー過ぎからの失速の仕方がクイーン賞と同じようだった。1000万、準オープンと連勝してきたときの能力は発揮していない。あと要因として考えられるのは、地方のダートが合わない、ということだろうか。

 なお馬運車で運ばれたトーセンセラヴィは経過観察中とのこと。現役復帰は難しいと思うが、母のトーセンジョウオーは中央から船橋移籍後も牝馬のダートグレードを3勝した活躍馬、なんとか繁殖としてその血を残してほしい。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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