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グレード未勝利馬の勝利は13年ぶり/川崎記念・川崎

  • 2017年02月02日(木) 18時00分

撮影:高橋 正和




サウンドトゥルーは能力を発揮できず


 なんとも難しい川崎記念だった。中央6頭はGI(GにはJpnも含む、以下同)2勝のサウンドトゥルーを筆頭に、一番下は前走が準オープン勝ちという2頭まで。その格どおりの順で人気となったが、5、6番人気、いわば格下の2頭が馬券にからむ結果となった。

 勝ったのは5番人気のオールブラッシュ。見事な逃げ切り勝ちだったが、勝因はいくつか考えられる。

 まずはルメール騎手のペース配分だ。まるで川崎の2100mのコースを知り尽くしているかのように見事だった。ルメール騎手は、2007年のヴァーミリアン、2009年のカネヒキリと川崎記念を過去に2勝しているのを含め、今回で6度目の騎乗。そのほか昨年のJBCクラシック(ノンコノユメ・4着)、さらに前日の佐々木竹見Cジョッキーズグランプリでも2100m戦に騎乗するなど、コースを手の内に入れていたと言ってもいいだろう。まずはレースのラップタイムを示しておく。

7.3 - 11.1 - 12.4 - 13.6 - 12.8 - 13.1 - 14.1 - 12.0 - 12.9 - 13.1 - 12.2

 枠順からしてケイティブレイブが逃げるかと思われたが、オールブラッシュがそのひとつ外の枠からハナを取りきった。川崎2100mではスタンド前でペースが落ち着くのが常で、13秒6とペースが落ちたところでミツバが仕掛けてきたが、オールブラッシュはそれを行かせず単独先頭をキープした。そしてコーナーのきつい1、2コーナーは当然ペースが落ちることになるが、向正面に入ってすぐにペースアップしている。それが残り800mからの12秒0のところ。川崎の1500mや1600mでは向正面に入ったところからペースアップすることはほとんどないが、2100mでゆったり流れたときは向正面に入った途端にペースアップということがよくある。逃げ馬が後続勢になし崩し的に脚を使わせようという作戦だ。2着争いの中では当然末脚が際立っていたサウンドトゥルーの上り3Fが38秒2で、逃げ切ったオールブラッシュも同じく38秒2。それでは差が詰まるはずもなく、それが3馬身という差になった。

 もうひとつは父ウォーエンブレム。GI勝利までは至らなかったものの、地方の2000m以上で活躍したシビルウォーも父がウォーエンブレムで、オールブラッシュも同じように活躍の舞台は地方の長距離という可能性は考えられる。勝負服が同じなのはたまたまだろうが。

 末脚不発という形で2着に敗れたサウンドトゥルーだが、その脚質ゆえ展開に左右されることは仕方ないが、それにしても今回は実績面でかなり開きがあったメンバーでの2着はやはり残念だったと言わざるをえない。

 ひとつ疑問なのは、絶好のスタートを切りながら、なぜすぐに後方3番手まで位置取りを下げてしまったのかということ。東京大賞典は、たしかにスローペースだったとはいえ、今回よりはるかにレベルの高いメンバーの中で、先行集団の5番手につけていた。今回はまるで決めつけていたかのように位置取りを下げ、最初の3コーナーで後方3番手を見たときはちょっと驚いた。ひとつ考えられるのは、東京大賞典が先行集団につけたことで外々を回らされたということはあったので、下げて内に入れようという考えがあったのかもしれない。内を回って大成功した昨年のチャンピオンズCを思えばなおさらかもしれない。とはいえ川崎2100mのレースがチャンピオンズCのような厳しい流れになって、直線一気の末脚を生かせるような展開になることも考えづらいのだが。

 もうひとつ、チャンピオンズCのレースぶりは別格だったにしても、ともに3着だった昨年のJBCクラシック、東京大賞典の直線で見せたような迫力が今回はなかったようにも思えた。日本テレビ盃から秋4戦、トップレベルの馬たちと厳しいレースをしてきて、さらに同じような状態をキープし続けるというのも容易なことではない。

 レースをおもしろくしたのはミツバだ。2走前のブラジルCでは、あっと驚く大逃げからそのまま逃げ切って見せた。スローな流れになることが多い川崎2100m戦だけに、横山典弘騎手がどんな手に出るかと思って見ていた人も多かったのではないか。

 果たして、ペースが落ち着いた1周目のスタンド前で勝負に出た。川崎2100m戦ではたまに見られる作戦で、近年では2015年の関東オークスでホワイトフーガが見せていた。1コーナーに入る手前でハナを取りきり、結局は大差圧勝。今回、横山騎手は外に持ち出しただけでなく、馬群から離して一気に仕掛けていった。それで1コーナーまでにハナを取れればよかったが、オールブラッシュのルメール騎手はそれを許さなかった。となると仕掛けたほうは一度そこで脚を使っているので厳しい。逆にオールブラッシュは1、2コーナーを回るところで14秒台のラップに落とすことができて楽になった。オールブラッシュの逃げ切り、4着ミツバの明暗は、そこで分かれた。

 ケイティブレイブはミツバが仕掛けていったときもうまく折り合い、4コーナー手前から前をとらえに行ったときはそのまま突き抜けてもいいような勢いだった。しかし直線で追い出されてからは反応がなく5着。名古屋グランプリでも4コーナー手前で突然失速していたように、レースをやめてしまうという面はあるのかもしれない。

 3着のコスモカナディアンのことには触れていないが、今の中央オープン、準オープンのダートで上位を争っている馬たちは相当に層が厚く、番組もそれほど選択肢がないためなかなか重賞の土俵に上がることができない。それゆえこのクラスの馬の中には、重賞クラスの実力があるにもかかわらず、その能力を発揮する機会に恵まれないままの馬がかなりいるのではないか。今回、GIの舞台でそのチャンスをつかみ、生かしたのがオールブラッシュであり、コスモカナディアンだった。

 たしかに川崎記念は東京大賞典ほど一線級のメンバーが揃うGIではないが、それでも過去10年の勝ち馬を見ても、ここがGI初制覇となったのは、2007年のヴァーミリアン、2008年のフィールドルージュの2頭だけ。その2頭にしてもGII勝ちに加えGIでの入着経験があった。川崎記念がグレード初勝利となると、2004年のエスプリシーズまで遡らなければならない。

 サウンドトゥルーが能力を発揮できなかったがゆえ、GIのレベルとは言い難いレースだった。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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