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思いに溢れるGI競走

  • 2017年05月11日(木) 12時00分


◆どんな信頼の絆で結ばれていたのか想像するまでもない

 見る者にとり気持ちのいい勝利だった。NHKマイルカップのアエロリットは、誰の目にもはっきり分かる好スタートを切っていた。どんな場面でも、これが一番で、自分のリズムで走って力を出し切れる。横山典騎手は、今日のデキなら勝てると、ただひたすらしっかり走らせることだけに集中していた。意のままに走り抜いてゴールしたので、見る者には、なんの無理もなく勝っていたと素直に思えたのだ。結果をこれほど素直に受け入れたレースは、そんなに多くはないと思えたほどだった。

 それに、菊沢調教師にとり、これが騎手時代も含めGI初制覇だったことも、うれしかった。表彰式を終えてすぐ声を掛けたが、さすがに感無量の様子で、言葉を交わすまではいかなかった。騎手が義理の兄、どんな信頼の絆で結ばれていたのか想像するまでもない。牝馬が勝ったという以上に、思いに溢れるGI競走だった。

 世の中のことは時の流れとともに変わると言うが、この時を巧くつかむかどうかは、競馬にも言える。アエロリットにとり、この一瞬は、正に絶好機だったのだ。孟子に「彼(かれ)も一時、此(これ)も一時なり」とある。「あの時はあの時、この時はこの時」、時の流れとともに変わる世の中を解釈する言葉として伝えられているが、そういう世の中にどう対処するかで頭を痛めているのが現実。事態に応じて臨機応変にと言って、孟子の言葉をどちらかと言えば良い意味に感じとることもあれば、あのときはこういう事情があった。今とは事情が違うと、言いわけに使うこともある。なるべくそう言い抜けるのでなく、あくまでも前を見つめて対処していきたい。

 世の中の経済が常に動いているように、競馬も生きもので、その都度、異なる顔を見せている。必らずこうなるとは言えないものだから、目の前の結果をしっかり受け止めるしかない。NHKマイルカップは、勝ちタイムが良かったことと、前後半のラップタイムがほぼ同じだったことから、上位に来た馬の力をそのまま認めなければならない。まぎれがなかったのだ。しかしこれは、現時点での話であって、この力関係がどうなるかはあくまでも未知の分野の話と承知しておきたい。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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