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【座談会】第4回『競馬の本質をもっと伝えたい──競馬メディアの在り方』

  • 2017年07月10日(月) 12時01分
おじゃ馬します!

▲いよいよ最終回、一番は「競馬ファンのため!」皆で導く最終結論は?


関係者は必ずしも本音を語れず、取材陣は突っ込んだ質問を避ける。複雑な難しさがついてまわる競馬取材の現場―― 「競馬メディアのあり方」を騎手、トラックマン、評論家が一堂に会して徹底討論するこの企画も最終回。いよいよ最終結論へと進んでいきます。一番は「競馬ファンのため!」、競馬の本質を問えない風潮に自戒も込めて喝!

出演:福永祐一(JRA)・柏木集保(日刊競馬)・野元賢一(日経新聞)・吉岡哲哉(競馬ブック)、司会:赤見千尋

(構成:不破由妃子)



(前回のつづき)

現役ジョッキーがネットで発信するメリットとデメリット


赤見 福永さんは今、ご自身でコラムをやってらっしゃいますが(netkeiba毎週火曜18時更新『祐言実行』)、ご自身で発信することでメリット、デメリットなど、どう感じていらっしゃいますか?

福永 正直、発信することによって生じるメリットはあまりないですね。極端にいえば、デメリットしかないといってもいいくらい。じゃあなぜ発信するのかというと、ネット社会になって初めて気づいたんですが、競馬の本質的な部分や面白さが、ファンにほとんど伝わっていないと感じたから。いろんなことを知った上で観たほうが、絶対に面白いじゃないですか。見る側の目が肥えれば、それに付随していろいろなことのレベルが上がると思うし、何より、より競馬の楽しさが伝わると思って。もちろん、すべて私的見解ですけど、そういう思いで発信させてもらっています。

赤見 相当突っ込んだことまで書いてらっしゃいますものね。

福永 あのコラムを読んで、「こいつ生意気やな。もう乗せない」と思う関係者がいたとしても、それならそれで構わないと思える年齢になってきたんですよね。さっきも言いましたけど、正直に書いたところで、僕らには何のメリットもない。むしろ、ちょっと言い方を間違えると、言い訳に取られるし。言い訳をするつもりでやっているわけでは決してありませんからね。

赤見 レース回顧でも、ご自分のミスはミスってはっきり書いてらっしゃいますものね。

福永 はい。ダービーの回顧もそうです。騎手のせいで負けたと言われても仕方がないと思ったし、本当にクリストフとの技量差を痛感したので。でも、本来ジョッキーが正直に話す必要はないんですけどね。言わないほうがむしろ賢いというか、何の波風も立ちませんから。でも、それじゃあ面白さは伝わらないよなという思いが僕にはあるので。

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▲「言わないほうが波風は立たないけど、それでは競馬の面白さが伝わらないので」


柏木 そういうトーンで書いていると、当然反響があるよね。

福永 今の時代、反響が当事者たちの目に入ってきますからね。昔はそうじゃなかったけど。

野元 SNSなんかやろうものなら、とんでもないことになりますね。

福永 以前、ツイッターをやってましたよ。

野元 やはり大炎上ですか(笑)?

福永 お金が掛かっていますからね…。よく人にこんなことが言えるなと思うような、酷いコメントもあったりして。

吉岡 騎手だけじゃないですよ。去年のスプリンターズSのとき、BSで解説していたんですが、福永さんの騎乗に対して、ちょっと辛辣な意見を言ったんです。そうしたら、それだけで「切れキャラ」としてネット上にバーッと書かれましたからね。

福永 僕のミスですから、辛辣な意見が出て当然だと思いますけど。

吉岡 レース後に、「自分が上手く乗れなかった」と、ちゃんとコメントされていましたものね。だから僕も調子に乗って、辛口な解説をしてしまったんだけど(苦笑)。

福永 見てなくてよかったです(笑)。

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▲「福永さんの騎乗に辛辣な意見を言ったら、ネット上であっという間に切れキャラに」


ジョッキー目線の映像やドローンでの上空からの撮影


柏木 そうかぁ、今の時代、そんなに反響があるものなんだね。

野元 競馬に限らずですけどね。僕はまったくSNSはやっていないんですけど、やっていたらどうなっていただろう…と思うことは多々ありますね。

福永 僕は一時期、競馬ファンの人がどんなことを考えているのかなと思って、SNSを含めたネット上の意見をあえて見ていた時期があったんです。顧客満足度じゃないですけど、ファンの満足度を上げることが競馬の発展につながるんじゃないかと思って。ツイッターを始めたのも、その一環だったんですけどね。でもまぁ、それはもう酷いことがたくさん書かれていて…。これは精神衛生上よくないなと思って、すぐに止めましたけど。

赤見 確かに、精神的にダメージが残りますよね。

福永 でも、システムにしても競馬場の施設にしても、「もっとこうしてほしい」というファンの声は、きちんと拾うべきだと思うんですよ。できる限り、ファンが満足できるように変えていきたいという思いは、今でもありますけどね。

野元 ただでさえ、SNSが政治そのものを動かすような世界になってしまっているなか、競馬界はお金が掛かっている分、炎上係数が高いんですよね。簡単に言うと、乾いた枯れ木が積んであるような場所だから、そこにポンと火を入れたら大火事になる。しかもSNSは、自分の意見に近い人たちが群れていくような属性があるので、地に足の着いた冷静な議論をするのにふさわしい場所かとなると…。競馬界のこれからの方向性を議論する場としては、もう少しいろんなマルチトラックというか、SNS以外のプラットフォームがあったほうがいいだろうという気はしています。

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▲「SNSが政治をも動かすような世界。競馬界はお金が掛かっている分、炎上係数が高い」


柏木 福永さんが言った通り、僕たちはみんな競馬の楽しさを発信したくてしょうがないんだけど、結局はそれができていないんだよね。一番簡単なのは、テレビで面白い番組を提供すること。僕らはリアルタイムでは観られないけれど、たまに見ると驚くよね。あまりにもくだらなくて、腰を抜かすよ。

福永 確かに、本質的な面白さを伝える番組がもっと増えてくれたらいいなとは思います。

柏木 ただね、演者やスタッフが悪いわけじゃないんだよ。方向性を決めている側が悪い。つまりJRAだよね。JRAには、面白さを勘違いしている人間があまりにも多すぎる。放送時間があんなにあるのに、お金の使い方を間違ってるんだよ。

福永 F1の中継を観ていると、ドライバー目線の映像があったりするじゃないですか。ああ、こういうことを競馬もやればいいのになと思うんですが、導入する気配はまったくないですね。

野元 もうひとつ、ドローンという新技術もあります。真上から撮影したりだとか、ドバイではすでにありますよね。

福永 プログラミングをしておけば、レースを追うことも不可能ではありませんからね。でも実際は、誰かが「飛行物の音に馬がビックリして…」とか言い出して、それで話が終わってしまうような気がします。

野元 でも、現実的に導入している国がいくつかありますからね。日本もどこかで一カ所、風穴が開けば、定着する可能性は大きいと思うんですが。

競馬の本質“馬比べ”がタブーになってしまっている矛盾


赤見 そろそろお時間が迫ってまいりましたので、最後のまとめに入りたいと思うんですが。

吉岡 なにも解決していないけど(笑)。

赤見 いえいえ、ファンにより面白い情報を提供するためには、やはりマスコミに求められることが大きいということで。

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▲「ファンにより面白い情報を提供するためには、マスコミに求められることが大きい」


福永 それと、今回話していて改めて感じたのは、やはり調教師やジョッキーが本質的なことをいえる環境にないということ。でも難しいんですよね…立場的に。

野元 当事者能力が限られてしまうのは、やはり大きいですよね。ただ、メディアとして半分自戒も込めてということになりますが、「あの馬、なんで負けたの?」という話を気分が鎮静したあとに聞いて回って、そこから改めて再構成していくような、息の長い追跡報道が今後ますます重要になってくるのかなと思います。

福永 競馬って、本質的なことを言えば“馬比べ”じゃないですか。敗因には、もちろん騎乗の良し悪しも大きく関わってきますが、多分に馬の能力が影響してくる。でも、そこに言及すると、「馬のせいにして」という声が上がりますからね。

柏木 昔からそうだったよね。

吉岡 それに、今は馬主さんがローテーションを決めるケースが多いから、馬が能力を出し切れない状況で使わざるを得ないことも多い。

野元 そうですよね。やはり競馬は、“競走馬の才能”に本質があるわけで。でも、その才能の限界というところがタブーになってしまっている。そこに矛盾を感じます。

福永 おっしゃる通りです。本当に敗因が馬にあるならば、それは伝えるべきだと思うんですよ。でも、正直に発信すると、「馬のせいにしている」と言われてしまう。そこに言及しないとなると、競馬という競技の本質があやふやになるというか。負けたからには絶対に敗因があるんだし、それは騎手のせいかもしれないし、馬の力が足りなかったのかもしれない。そこをちゃんと伝えたほうがファンにとっても次に向けての参考になると思うんですが、それを言わせない風潮が、関係者のみならずファンのなかにもありますよね。ファンは競馬が好きで楽しんでいるはずなのに、より有意義な情報を逃しているというか。現場の人間として、その弊害を感じています。

赤見 難しいところでありますが、一番情報を欲しているのは、ファンの方たちのはずですからね。そういうことも含め、まだまだ競馬を面白くしていける可能性はあると。

吉岡 山ほどあると思いますけどね。それを発信できないだけで。

赤見 またそこに戻ってしまう(笑)。

柏木 僕は、これからもファン目線で発信し続けるだけ。ときには過激なこともね。

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▲「僕はこれからもファン目線で発信し続ける。ときには過激なこともね」


福永 柏木さんには愛があるから(笑)。面白さだけを追求すると、そこに信頼関係は生まれませんからね。

赤見 柏木さんのようになるには、何十年かかることやら…。

柏木 赤見さん、それは簡単だよ。馬券でいっぱいやられればいいだけ(笑)。

赤見 なるほど(笑)。みなさん、お忙しいなか、今日は本当にありがとうございました。

野元 なかなか結論には至りませんが、今日のようにそれぞれの立場で「ああでもない、こうでもない」と議論する機会は貴重だと思います。

(了)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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