スマートフォン版へ

古馬で能力が開花したカナロアだが産駒が早くも活躍しているワケ/吉田竜作マル秘週報

  • 2017年08月02日(水) 18時00分


◆安田隆厩舎に“カナロアの恩返し”?

 サラブレッドの売買が商取引である以上、魅力のあるものから先に売れていくのは当たり前。経営者の調教師は早めに有望な若駒を確保しておきたい。直前になってバタバタとかき集めたところで、いい結果など出るわけはないのだから…。おそらくはファンが考えている以上に早く、調教師は「原資」を集めに動く。かつて松田博厩舎を担当した時は「あの馬の腹に入っているのが無事に産まれたら、ウチに来ることになっている」みたいな話も耳にした。

 一般的にトップクラスの厩舎ほど早めに管理予定馬が埋まる傾向が強い…と書くのは簡単だが、これがなかなか難しい。POGで“当たり”を引くのがいかに難しいかは経験者なら誰もがご存じだろうが、調教師は数年先の稼ぎも予測しつつ、陣容を固めなくてはならない。それもオーナーとの関係というデリケートな問題を抱えつつなのだから、なおさらだ。

 その点で言えば、今年の安田隆厩舎ほどリスクを抱えている厩舎もないのではないか。「やっさんのところ、(ロード)カナロアの子供ばっかりらしいじゃない。大丈夫なのか?」といった外野の声を聞いたのは一度や二度ではない。何より安田隆調教師自身が冗談交じりに「カナロアの子供がこけたら、ウチはおしまいですね」と言っているくらいなのだから…。

 トレーナーの立場になってみると、自らが育て上げた名馬の産駒の受け入れを断るのはなかなか難しいだろうし、何より馬主や牧場の「父を育てた厩舎で」という気持ちを無視できる人でもない。その結果、2歳世代の半数近くをロードカナロア産駒が占めることになってしまった。

 リスクを分散して、確実に利益を得るのが優秀な経営者とするなら、安田隆厩舎の陣容は、まさに正反対。ただ、競走馬は株売買などの金融商品と決定的に違うところがある。前出の松田博元調教師の言葉を借りれば、「黙って馬に尽くしてやれば、必ず恩返ししてくれるって」。

 ロードカナロアの現役時を担当した岩本助手はすでに「3頭の子供たちを扱った」と言う。現在はダノンスマッシュ(牡=母スピニングワイルドキャット)を担当し、ゲート試験突破に向けて二人三脚の真っただ中だ。「普段はおとなしいんですが、全休日明けが、やばいっすわ。立ち上がって落とそうとしますから」と言うが、その表情からは笑顔が絶えない。

「全体的にはみんな賢いですし、他の厩舎からも同じようなことを聞きます。自分の子供…というよりは孫って感じになるのかな。いい評判を聞くと、自分のこと以上にうれしいですね」と目を細める。ちなみに彼が最初に手がけたロードカナロア産駒が、中京で新馬(芝1600メートル(牝))勝ちしたトロワゼトワルだ。

「お父さんが完成したのだって遅かったし、トロワゼトワルにしても、まだトモが緩い。早い時期から活躍している馬が多いことに正直、びっくりしています。ただ運動神経がいいってことなのか、体全体で何とかしてしまう感じ。それで早い時期から動けているのかもしれませんね」

 父の成長曲線を見てきただけに、岩本助手にとっては予想外のスタートダッシュだったようだが、もはやロードカナロアの種牡馬としての成功に疑問を持つ人などいないだろうし、父が本格化したのも古馬になってからと考えれば、その産駒たちは、これからさらに勢いを増すはずだ。

 来春には安田隆厩舎に待望のクラシックタイトルが舞い込む“カナロアの恩返し”があるかもしれない。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

2010年に創刊50周年を迎えた夕刊紙。競馬確定面「競馬トウスポ」(大阪スポーツは「競馬大スポ」、中京スポーツは「競馬中京スポ」)は便利な抜き取り16ページで、中身は東スポグループだからこその超充実ぶり。開催3場の全36レース(2場開催の場合は全24レース)の馬柱を完全掲載しています。

関東・舘林勲、大阪・松浪大樹の本紙予想のほか、記者による好評コラム(「一撃・山河浩、馬匠・渡辺薫など)、そして競馬評論家・井崎脩五郎、爆笑問題の田中裕二、IK血統研など超豪華執筆陣の記事も読みごたえたっぷり。馬券作戦に役立つ情報が満載です。

関連サイト:競馬トウスポWeb

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング