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【1年越しの復帰】三浦皇成騎手(2)『落馬した日と同じ8月2週目に復帰したい』

  • 2017年09月25日(月) 12時01分
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▲大怪我からの復帰のベースとなったリハビリ、トレーニングの詳細を語る


落馬から2週間のうちに3回手術をしたという三浦騎手。動かせない下半身は一時期「爪楊枝みたいな感じにまでなった」と言います。それでも筋肉が落ちないように、上半身だけはベッドの上でトレーニングを続けた三浦騎手。根気を試された期間でしたが、ただ復帰することだけを目指したわけではないところが、三浦騎手のメンタルの強さ。モチベーションとなったのは「ケガをする前以上の状態で戻ること」だったと言います。(取材:赤見千尋)


(前回のつづき)

正直、嫌になるくらい地味なトレーニングばかりでした


赤見 落馬から2週間のうちに3回の手術をされたということですが、リハビリはいつ頃から始められたんですか?

三浦 3回目の手術が終わって、割とすぐに始めましたよ。まったく感覚がなくなってしまった足を動かすところからですけどね。そんな状態でも、上半身だけは筋肉が落ちないように、ずっとベッドの上で軽くトレーニングをしていましたし。

赤見 えーー! ビックリです。すごい気力ですね。

三浦 いえいえ、本当にやることがなかったんで(苦笑)。そのおかげで、上半身の筋肉は1年間、それほど落ちることがなかったです。ただ、下半身はもうね…。上半身がしっかりしているぶん、より細く見えてしまって、一時期はホントに爪楊枝みたいな感じでした(笑)。だから、そこから戻すのが大変でしたね。

赤見 そうですよね。具体的にはどんなトレーニングをされたんですか?

三浦 正直、嫌になるくらい地味なトレーニングばかりでした。病院の許可が下りるまでは負荷のかかるトレーニングはできませんから、最初はハンドグリップで握力を鍛える程度。歩行練習が始まる頃から、ようやく少しずつ軽めのダンベルなどを使って段階を上げていける感じで…。早く下半身も鍛えたいという焦りもありましたが、言うなれば、1ミリ1ミリ進んでいくような感じです。毎日毎日、ほぼ同じようなことを繰り返していましたね。

赤見 なるほど。根気を試された期間でもあったんですね。

三浦 そうですね。復帰に向けてのトレーニングのひとつで、カーヴィーダンスで有名な樫木裕実さんにお世話になったんです。もともと樫木さんは、スポーツ選手のリハビリなどでも実績のある方で、トレーニングの際に騎乗スタイルを取ったとき、すぐに無駄な筋肉や動きを指摘されました。

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▲退院後に行った、樫木裕実さんのトレーニング (C)平松さとし


赤見 たとえばどんな?

三浦 いろいろあるんですけど、まずは膝が内に入っていたことですね。膝が内に入っていると、上下には力が伝わるんですけど、実際には前に前に馬を走らせなければいけない。だから、この時点で僕は馬の邪魔をしていたことに気付いたんです。そこから体幹トレーニングをしっかりやったのち、膝を中に入れない、くっ付けないスタイルを徐々に体に覚えさせて。重心を固定しつつ、馬の首の動きに合わせて、上半身で馬を動かせるようなスタイルに変えていったんです。

赤見 なるほど。ケガをする前以上の状態で戻ることがモチベーションだったとおっしゃっていましたが、それもそのひとつなんですね。

三浦 はい。おかげで筋肉がリセットできたような気がします。

「落馬した日と同じ8月2週目に復帰したいです」


赤見 そういったトレーニングを積み重ねて、実際に復帰が見えてきたのはいつ頃ですか?

三浦 復帰時期について、鹿戸先生にちゃんとご相談したのは、それこそセレクトセールの前の日くらいですよ。

赤見 セレクトの前というと…、7月上旬!?

三浦 そうです、そうです。そのときに「落馬した日と同じ8月2週目に復帰したいです」と先生に伝えて。だから、ある程度、復帰が見えてきたのもその頃です。

赤見 そうだったんですね。それからすぐに、美浦の乗馬苑で馬に乗り始めて。久しぶりに馬に乗った感触はいかがでしたか?

三浦 感覚としては、ジェットコースターに乗っているような、フワフワした感じでした(笑)。

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▲7月14日に美浦の乗馬苑で落馬後初めて馬に跨った時。思わず「うわ、懐かしい…」とつぶやいた


赤見 ものすごくうれしそうな表情をされていたのを覚えています。

三浦 最初はけっこう緊張したけど、やっぱり嬉しかったですね。ただ、体の面では乗れる自信はあったので、あとは感覚のほうがどうなのかなと。実際に乗ってみたら、自然と感覚も戻ってきて、ああ、これなら大丈夫だなと思いました。

赤見 そこから復帰までが本当に早かった。

三浦 そもそも、馬に乗り出したら、そこから時間をかけるつもりはなかったので。そのために、とにかく土台作りをしっかりやりましたからね。馬に乗り出したら、あとは感覚を戻すだけの時間にしようとずっと決めていました。だから、調教に乗り出したら、復帰までに3週間もあれば十分かなって。実際、調教に乗り始めて2週目の時点で、「今週乗れるな」という手応えがありましたからね。

赤見 それは本当にすごいことだと思います。馬乗りの筋肉って、基本的には継続して馬に乗ることで付くもので、トレーニングで補うにしても、限界があるのかと思っていました。

三浦 僕も最初、トレーナーさんに「馬乗りの筋肉は…」という話をしました(苦笑)。もちろん、馬乗りでしか付かない筋肉もあるとは思うんですけど、今のトレーニングって、それ以上にすごく進んでいるんですよね。トレーナーさんいわく、「とにかく軸となる部分がしっかりしていれば、あとは勝手に付いてくる」と。さすがに馬に乗り始めたばかりの頃は、普段のトレーニングでは張らないところが張ったりしましたけど、それも2、3日くらいで。

赤見 そうなんですね。馬乗りは馬乗りだけで鍛えればいいとか、筋トレはしないほうがいいとか…。いろんな意見がありますよね。

三浦 そうですね。もちろん、考え方は人それぞれですし、実際、筋肉を付けてしまったことで感覚が鈍ったり、そういうこともありますからね。ただ、今回僕はこれだけ休んだので、とにかく新しい体にしたい、前よりもっと強い体にしたいという気持ちが強かったので。そういう意味では、すべて上手くいったかなと思っています。

(次回へつづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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