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喧嘩を売るのはたいていエイシンチャンプから!? 今でも見せるGI馬の勝負根性

  • 2017年09月26日(火) 18時00分
第二のストーリー

▲「エイシンチャンプの今」の第2回、GI馬ならではの勝負根性に迫ります(撮影:佐々木祥恵)


好物は人参・スイカ・梨、実はフルーツが大好き


 朝日杯FS(GI)に勝ち、2002年のJRA賞最優秀2歳牡馬に選出されたエイシンチャンプ(セン17)は、千葉県長生郡一宮町にある九十九里浜一宮乗馬センターで乗馬としての第二の馬生を送っている。こちらにやって来たのが2007年だから、乗馬としての馬生はかれこれ10年に及ぶ。

 クラブ名に九十九里浜とついているだけあって、海岸が歩いても行ける距離にあり、係員が引き綱で引いて海辺に行く「海と林間コース」や乗馬経験者対象の「海岸騎乗」がこのクラブのセールスポイントでもある。

 残念ながらエイシンチャンプは海岸には出ず、馬場内で騎乗する人向けの乗馬として活躍している。代表の中村陽子さんによると「何回かは海の方に行ったこともあるのですが、元々、繊細な馬なので、普段は馬場の中で仕事をしてもらっています」とのこと。

「反動が柔らかいですし、乗り心地も良いです。よく走った馬なのでお利口さんですし、チャンプに乗るととても上手になった気がするとお客様からお褒めの言葉をいただきます。ここに来て2、3年は競馬を思い出すのか、スピードが上がってしまうこともありました。最初は気性がきついから乗馬は難しいのではないかと言われたこともあるんですよ。

 競馬であれだけ走った馬なので、ピリッとしたところもあって、先ほども言ったようにちょっと何かあるとイラっとしてドーンとスピードが上がることも若い頃にはありました。それもあって、乗馬初心者というよりは、少し乗れる中級者以上の方が対象になっていますが、人気ナンバーワンかもしれませんね。それに今はイラッとする面もほとんどなくなって『はい、はい。次はああでしょ、こうでしょ』みたいな感じで動いてくれて、すっかりベテランになりました(笑)」(中村さん)

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▲「チャンプに乗るのは乗馬中級者以上の方、人気ナンバーワンかも」と代表の中村陽子さん


 ここ一宮乗馬センターには、競走馬を引退した馬が多い。当然、競走馬から乗馬へのリトレーニングが必要になってくるわけだが、チャンプは脚を痛めていたので、まずは休ませて脚を癒すことから始まった。その間、去勢手術も行われている。

「チャンプもそうでしたが、競走馬を引退して無傷で来る馬はほとんどいないので、その怪我を治してからトレーニングを開始します。馬にもよりますが、治療も含めて早ければ1年くらいで乗馬としてデビューできるかなという感じです。チャンプもだいたい1年くらいで、乗馬デビューできました。ただ先ほども言ったように、まだ若かったですし、スピードが出てしまったりしたので、乗ってもらうお客様を選ばなければなりませんでした。それに本当に繊細で、音を気にしたり、馬の乗り降りがちょっと乱暴だったりすると気にしたりします。競馬の騎手は軽やかにサッと乗れるじゃないですか。でも乗馬だと乗り降りがドンとか、ヨッコイショとなってしまう人も多くて(笑)、そうすると『なんだよ(怒)』とイラッとしていますね(笑)」

 そして続けた。

「今日のように取材や撮影の皆さんがチャンプの目の前にいてもすっかり怒らなくなりましたけど、昔ならワーッと前に出てきて威嚇していましたよ(笑)。だいぶ穏やかに丸くなりましたね」。

 中村さんが「繊細な馬」と評したエイシンチャンプだが、夏の暑さも得意ではないらしい。

「夏の暑い時期は少し食欲が落ちますね。海風が入ってくるので暑さは少し和らぎますが、夏場はこのあたりも35度くらいまで気温が上がります。馬房の前に置いた扇風機の風に当たって、今年の夏も何とか乗り切りました」

 取材した時期は暑さの峠を越していただけに、中村さんはホッとした表情を見せていた。

 またチャンプの好物は、人参、そしてスイカ。「あとこの時期は梨ですね」と、フルーツ大好きの一面もある一方で、気難しいところも見せるという。

「お手入れの時もちょっと嫌なことがあると、怒ったりしますね。これも繊細さゆえと言いますか、怖いとか臆病な面の裏返しなのかもしれませんけどね」

 馬場内では、スタッフの村岡達夫さんがエイシンチャンプの運動をさせていた。繊細な面のあるチャンプの運動は、当たりの柔らかい村岡さんが担当しているという。村岡さんも元々は競馬ファンで、チャンプがいかに強かったかは熟知している。

 台風15号の影響で太平洋側は雨風が徐々に強まる中、村岡さんはチャンプを思いやるかのように、常歩、そして速歩へと優しく丁寧に移行させた。チャンプもそれに応えてスムーズに速歩へと移行し、真面目に黙々と馬場を回っている。

 その姿を中村さんと眺めながら、接戦で制した朝日杯FSでの雄姿が脳裏をよぎった。競走馬時代はメンコを装着していたが、乗馬となった今は素顔で馬場を周回している。やがて速歩のスピードは落ち、常歩へと移行して、村岡さんはチャンプを静かに止めた。周回中、反抗ひとつせず、本当に真面目だった。そしてチャンプは再び、繋ぎ場へと戻って行った。

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▲運動をするエイシンチャンプと、跨る村岡達夫さん


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▲エイシンチャンプのお世話をする村岡さん、信頼し合ったふたりの穏やかな空気が漂う


「隣に馬がいると気にしたりして普段から負けず嫌いで、競馬でもさぞ勝負根性がすごかったんだろうなと思います。土日で忙しい時などお客様を何人か乗せますし、暑い季節でも頑張ってくれます。競馬での勝負根性やタフさもわかるような気がしますね」

 繊細でいて、GIに勝つだけの強さも秘めていたエイシンチャンプは、繋ぎ馬で他の馬と並ぶ位置にも気を遣う。

「チャンプの隣には、固定された2頭が来ます。それ以外の馬だと、喧嘩みたくなって大騒ぎです(笑)。チャンプにも言い分があると思いますけど、喧嘩を売るのはたいていチャンプですね。隣の馬の顔がちょっとこっち向いたとか、何か気に食わない理由があるみたいで、喧嘩を売っているようです(笑)」

 チャンプの隣に来る固定された2頭のうち1頭は18歳のサラブレッド。中村さん曰く「その馬は穏やかというわけではないのですが、気にしないタイプなんですよね」

 ちょっと気難しいチャンプと喧嘩せずにうまく付き合っているとは…。いったいどんな馬なのだろう? 俄然、興味が湧いてきた。

(次回につづく)


◆プレゼントのお知らせ
エイシンチャンプの蹄鉄(乗馬センターでのもの)&福永祐一騎手の直筆サイン入りレース写真のセットを抽選で2名様にプレゼントいたします。

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▲エイシンチャンプの蹄鉄&福永祐一騎手の直筆サイン入りレース写真のセットを2名様(※蹄鉄の色はお選びいただけません)


※応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました!


■『第3回引退馬フォーラム』にて上映された動画


※エイシンチャンプ回は、14日(木)に東京・新橋『GateJ.』で開催された『第3回引退馬フォーラム』内の引退馬ファンクラブ「TCC FANS」×netkeiba.comコラボコーナーをもとに構成しております。

【関連記事】福永祐一騎手が引退馬ファンクラブ「TCC FANS」の活動報告会に参加


※九十九里浜一宮乗馬センター
〒299-4301
千葉県長生郡一宮町一宮9963
電話・Fax:0475-42-2851
Facebook
https://www.facebook.com/ichinomiyajoba/

馬場内の引き馬や、海辺に行く海と林間コース、海岸騎乗(平日のみ)など、初心者から上級者まで楽しめるメニューがあります。

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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