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光り輝いたモズカッチャンとクロコスミア/エリザベス女王杯

  • 2017年11月13日(月) 18時00分


◆「悲しかったです」M.デムーロは競馬場の詩人だった

 勝利騎手インタビューの、M.デムーロ騎手のコメントが素晴らしかった。

 もう、日本語に不自由しないとはいえ、2着に粘っていたのが和田竜二騎手のクロコスミアでしたが…、と振られて、瞬時に出てきた言葉が「悲しかったです」。

「すみません(があって)…」という言葉があったようにも聞こえた。とっさに和田竜二と自分の思いを言葉で表現するのは、これはだれでも無理であり、ふつうの言葉でいうなら「すまない気がした。申し訳なく思いました。でも、和田竜二騎手はすぐ、おめでとうと言ってくれた」ということだった。

 こういうとき、短い言葉でみんなに分かってもらうことは難しい。M.デムーロは一瞬の間も置かず「悲しかったです」といった。考えた、たくみな日本語の言い回しではないから、逆にデムーロの本当の気持ちが伝わった。

 世界に知られるトップジョッキーは、デットーリ以外、しかめっ面の哲学者にたとえられることが多い。ところが、M.デムーロは、競馬場の詩人だった。「悲しかったです」。このたった一言で、和田竜二のせつなさや、むなしさや、ミルコ自身の苦しいこころの動きが、ファンのみんなに伝わったのである。和田竜二は悲しい。ミルコはその悲しさをだれよりも理解できる。だから悲しい。

重賞レース回顧

モズカッチャンでエリザベス女王杯を制したM.デムーロ騎手(c)netkeiba.com


 秋から乗り替わったモズカッチャンが、まさか和田騎手に騎乗依頼が回ってきたクロコスミアをゴール寸前、「クビ差」交わして勝つなどという筋書きは立てにくい。ある人は、R.ムーアに乗り替わったルージュバックが楽々と差し切るだろうと考えた。また、ある人は、C.ルメールが続けて乗る本格化したヴィブロスの勝利を確信した。また、みんなが目標にする牝馬の頂点に立つビッグレースだからこそ、昨年は3着に甘んじたミッキークイーンが抜け出してくると考えたひともいた。

 愚かなわたしは、ああいうふうに内から猛然と伸びてくるのは、ミルコではなく、クリスチャン・デムーロだとひらめいて理由を考えていた。

 今回、18頭のうち、前回と騎手がチェンジしたのは「11頭」。うち、まったくのテン乗りになったのが、和田竜二騎手のクロコスミアなど「7頭」もいた。

 初騎乗で、あと一歩の2着だったクロコスミア(父ステイゴールド)と、モズカッチャン(父ハービンジャー)の初GI制覇に、因縁を秘めた名勝負が展開された先週を終え、和田竜二騎手(40)はJRA90勝となった。これまでの最高が80勝台なので、ランキング5位まで急上昇の今年は、初の年間100勝も可能だろう。一時は勝ち星が伸びなかったが、ムチ使用の規定が変わり、和田騎手は別人のように覚醒した。

 M.デムーロ騎手(38)は、151勝に達し目下2位。5月のオークス以降、ここまでに行われたJRAのGI競走9Rにすべて乗り、【4-1-4-0】。これはすごすぎる。

 モズカッチャンとクロコスミアが光り輝けば、ほかがちょっと消沈するのは仕方がない。ミッキークイーン(父ディープインパクト)はNO.1タイの上がり33秒7で猛追したが、昨年に続き惜しい3着。連続3着は過去にアパパネが記録している。実力勝負だからこそミッキークイーンの連続好走は当然なのだが、きわめて惜しい3着だった。スローに災いされ、まだ脚はいくらでも残っていたように映った。

 人気の中心ヴィブロス(父ディープインパクト)は、サッと好位につけたが変に行きたがる素振りをみせリラックスしていなかった。口を割りつつ追走している。大敗したわけではないが、グンと伸びるシーンがなかったのは道中のロスか。レース全体が「62秒0-(12秒8)-59秒5」=2分14秒3。レース上がりは46秒6-34秒4。見た目より少々タフな芝コンディションだったとはいえ、超スローのあの位置にいて5着は凡走に近い。

 2番人気のルージュバック(父マンハッタンカフェ)は、これで通算【6-2-0-9】。快走か凡走かはっきり分かれる難しい面があり、こういうスローから後半の切れ味勝負こそもっとも得意とする馬なのだが…。あまり深い根拠はないが、日本人化したM.デムーロはそんなことはないが、海外の騎手はこういう多頭数の外枠を「致命的に不利な状況に置かれた」と、もう敗因を考えていることがある。スノーフェアリーの2勝目(11年)は18番枠で、すごく危なかしかった気がする。R.ムーアとて万能ではないのである。

 スマートレイアー(父ディープインパクト)は週中、急に川田騎手に替わった。気難しい馬ではないが、相手や距離に合わせ能力全開には大変な策が必要であり、突っ込んで6着なら、ほぼ能力は出し切っているだろうが、意外性は引き出せなかった。

 いいエリザベス女王杯だったが、スローはスローでもいいが、もうちょっとなんとかならなかったのか、というみんな慣れない2200mでもあった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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