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世界に羽ばたく活躍馬を輩出することを期待/有馬記念

  • 2017年12月25日(月) 18時00分
【年末年始の更新スケジュール】
 重賞回顧コラム今年の更新は本日分で終了です。年末の29日は休載となり、年明け9日が初回の更新となる予定です。


◆丸一日キタサンブラックの日だった

 早朝7時30分の開門に始まり、キタサンブラック「お別れセレモニー」が終わり、クリスマスツリーの下で楽しんだ多くのファンが姿を消した午後7時過ぎまで、ずーっと丸一日、キタサンブラックの日だった。

 通算20戦【12-2-4-2】。JRAのGI勝利数歴代タイ(シンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ウオッカ、そして父の全弟ディープインパクトと並んで)の7勝となったキタサンブラックの総獲得賞金は18億7684万3000円。ついに史上NO.1となった。

重賞レース回顧

引退レースの有馬記念を制したキタサンブラック(撮影:下野雄規)


 ここまで3着→2着だった有馬記念を、引退レースの今回、鮮やかに逃げ切って完勝する有終となったが、3歳時の「2分33秒1」、4歳時の「2分32秒6」と比較すると、一見、今回の「2分33秒6」はもっとも遅い平凡な内容にも映る。しかし、中身は同じ主導権を握って小差3着だった3歳とは大きく異なっている。この2年間で、よほどのことがなければ失速などありえないことをみんなに示してきた。と同時に、極端にスローの上がりの勝負になると、有馬記念の最後の急坂は、脚が長い大跳びのため鋭さ一歩となる死角を衝かれる危険が大きいことになる。それを防ぐ必要があった。

 15年の2分33秒1(自身の上がり35秒1)は、前後半バランス「1分15秒2-(6秒3)-1分11秒6」今年の2分33秒6(自身の上がり35秒2)は、前後半バランス「1分14秒7-(6秒6)-1分12秒3」だった。

 ほとんど同じようなスローのバランスに見え、前半1200m通過地点はわずか「0秒5」しか違わないが、15年の最初の900m (最初が変則の100m) 通過は、『56秒1』である。

 ところが、今回も同じようにハナを切ったが、向こう正面に入るまでコーナーでもあまりペースを落とさず、最初の900m通過は『54秒8』だった。最初からライバルにぴったり接近マークされた15年より「1秒3」も速い。

 レース全体は、絶妙な単騎マイペースで、かつ緩い流れに持ち込んだのは同じでも、ライバルに前半「あまりスローで逃げる気はない」と思わせた。そうなると、早めに好位を確保し、キタサンブラックを前半から射程に入れた追走に出なくてもいい。ところが、向こう正面に入ったキタサンブラックは、15年は「12秒8-12秒6-12秒6→」。前半からの一定ペースを続けたのに対し、隊列を落ち着かせることに成功した今年は、一転「13秒3-13秒2-12秒8→」のスローに落としたのである。15年がこの地点の3ハロン「38秒0」なのに、今回はなんと「39秒3」である。

 急に流れが緩んだからといって、そこは前との差をぐんぐん縮めていい場所でもない。3コーナー手前の向こう正面はまだ残り1200m〜1000mであり、こんなところからロングスパートに入ってはどんな馬でもゴールまで高速ラップを続けることはできない。

 巧みなペース変更作戦により、この地点ですでに「勝負は終わった」のかもしれない。というより、陣営の懸命な調整により、不安のない仕上げで、無事にレースを迎えることに成功した時点で快走は見えていたのだろう。レースの2時間ほど前の清水久詞調教師は、もうレースが終わったあとと錯覚するくらい晴々した笑顔だった。いや、あまりにも先行できる馬の少ない今年、断然有利な内の2番を自力で引き当てた時点で「勝敗の帰趨はみえていた」のかもしれない。

 種牡馬となるキタサンブラックは、その父ブラックタイド。体型はだいぶ異なるがディープインパクトの全兄なので、代を経ても似た遺伝子を伝える可能性があり、サンデーサイレンス系らしく種牡馬として成功してくれるだろう。母、祖母は日本産だが、輸入された3代母テイズリー(父リファール)はUSA産で仏4勝。その母ティズナはチリ産。チリで3勝のあとUSAに移って15勝している。チリで4代連続したファミリーは、その前は5代連続してアルゼンチン産。牝系が同じアルゼンチン育ち(経由)のサトノダイヤモンドや、マカヒキなどとはファミリーが異なるが、異質の系統を求めた社台グループの輸入牝系出身である。世界に羽ばたくような活躍馬を輩出することを期待したい。

 2着以下の激しい争いは、寄られる不利や、斜行のペナルティーや戒告もあるなど、すっかりキタサンブラック(父ブラックタイド)の引き立て役になってしまった。2番手からあえなく失速したシャケトラ(父マンハッタンカフェ)の上がり「35秒6」を別にすると、8着のレインボーライン(父ステイゴールド)まで、上位グループの後半3ハロンはみんながキタサンブラックの「35秒2」を上回っている。後方のままのミッキークイーン(父ディープインパクト)も合わせると、7頭が上がり35秒2より速かった。

 武豊騎手(キタサンブラック)の変幻のペースにみんなそろって物足りない結果になってしまったが、シーズン末の中山2500mの有馬記念はもともとそういうレースであり、なんとかなると思わせて、なんともならない不思議があるから、最大の人気レースなのである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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