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ディープインパクトの種付け料が世界一に 高齢化で次を模索する動きも

  • 2018年02月26日(月) 18時01分
教えてノモケン

▲種牡馬としてお披露目されたキタサンブラック (撮影:田中哲実)


 2月前半は北海道の馬産地で、種牡馬展示会が相次いで行われる時期だ。今年も2月6日の社台スタリオンステーション(安平町)を皮切りに、翌週にかけて各種馬場で展示会が開催された。今年の注目は同ステーションに新たに入ったキタサンブラックで、もともとは日高産だが、近年の活躍馬のご多分に漏れず、安平で種牡馬生活に入った。初年度の種付け料は 500万円と、血統を考えればやや高めに設定された印象だ。

 今年は北海道内の主な8カ所の種馬場で、輸入馬3頭を含めて18頭が新たに供用される。ディープインパクトを初めとした上位種牡馬が高齢化し、次の主役を模索する動きが始まった生産界。本稿では昨年来の新たな流れを整理してみる。

交配頭数抑制狙い? 種付け料値上げ


 今年の国内種牡馬を巡る最も注目すべきニュースは、ディープインパクトの種付け料値上げだろう。実際には昨年11月21日に発表されたのだが、従来の3000万円から4000万円に引き上げとなった。

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▲種付け料がついに世界一となったディープインパクト (撮影:田中哲実)


 ディープの父サンデーサイレンスは最盛期に3000万円に達していたと言われるが、価格でも父を抜いたのである。海外でも、北米最高額のタピット(17歳)が30万ドル(約3150万円)、欧州最高額のフランケル(10歳)が17万5000ポンド(約2625万円)だから、額が公表されている種牡馬としては世界一となった。

 ディープインパクトは産駒がデビューした2010年(交配はデビュー前となる)は900万円に落ちていたが、11年に1000万円に回復。ここから、13年に1500万円、14年以降は2000万円→2500万円→3000万円と毎年、値上げが続き、昨年は据え置かれたが、今年はついに4000万円に到達した。

 値上げに踏み切った事情をあえて推測すれば、交配頭数の抑制ではないか。同馬は今年で16歳。父サンデーサイレンスも02年8月、16歳で死亡した。「いつ何があってもおかしくない」年齢に達したのである。

 しかも、サンデーの交配頭数が急増したのは、産駒が活躍し始めた後で、年間200頭を超えたのは供用12年中、01年の1度だけ。対するディープインパクトは供用11年で交配頭数が200頭に届かなかったのは09年(171頭)だけで、父よりはるかに使い減りしていることになる。値上げで交配頭数が急減するとは考えにくいが、供用側も年齢を考えざるを得ない時期に来ていることを示す措置なのは明らかだ。

ランク上位は軒並み高齢化


 昨年の中央の種牡馬ランクを見れば、いかに上位が高齢化しているかがわかる。首位ディープに続いたのが1歳上のキングカメハメハで、3位は15年に21歳で死亡したステイゴールドで、4位ハーツクライ、5位ダイワメジャーもキングカメハメハと同世代だ。

 この2001年産組3頭は、種牡馬としてもディープとは異なる個性を発揮し続けており、世代全体としてはディープの代よりもはるかにタレント豊富だったと言える。キングカメハメハは短距離から中長距離、さらにダートに至るまで幅広く面倒を見る。芝の中長距離に強いハーツクライ、主に芝の短距離から1600mが守備範囲のダイワメジャーと、3頭を並べてみると、絶妙なバランスを形成している。

 では、この3頭の今年の種付け料は…。キングカメハメハは前年の1000万円から1200万円に引き上げ。ダイワメジャーは500万円、ハーツクライは800万円でそれぞれ据え置かれた。キングカメハメハの場合、近年は長く局部の疾患に悩まされて交配頭数が少なめで推移しており、13年に81頭に急減した後は、最多でも16年の151頭。昨年は132頭に減った。

 一方で産駒の質は落ちていないことは、昨年のレイデオロ(交配は13年)のダービー制覇からもわかる。そのため、今も依頼は殺到しており、前年に断った分をさばくのが精一杯という。これも値上げの背景だろう。

 ダイワメジャーは13、14年と120頭台まで落ちたが、昨年は161頭に回復。ハーツクライは以前から年によって交配頭数の上下幅が大きかったが、過去2年は135、176頭。3頭とも以前のような大量交配をしていない。

 先のことは予測できないが、既にサンデーの年齢を超えたキングカメハメハ世代は、今後も「細く長く」活躍しそうな予感はある。また、キングカメハメハは既に多数の後継者を輩出しており、後述するロードカナロア、ルーラーシップが完全に軌道に乗った。彼らの活躍も、親世代の負担を軽減した格好だ。

非サンデーがやっと浮上?


 昨年の中央のランキング上位10頭中、最も若いのは6位のハービンジャー(12歳)だった。7-10位も98年産のクロフネとマンハッタンカフェ、99年産で昨年2月に死亡したゴールドアリュール、キングカメハメハと同世代のブラックタイドだから、15歳以下の種牡馬は10頭中、ハービンジャー1頭である。

 同馬は初年度産駒が今年6歳。昨春まではGIIも勝てずにいたが、ペルシアンナイトが高速馬場となった皐月賞で2着。オークスではモズカッチャン、ディアドラが2、4着と健闘。さらに秋には天候も背中を押した。雨で重馬場となった秋華賞でディアドラがハイペースを利して追い込みを決め、産駒のGI初勝利を記録。

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▲2017年の秋華賞を制したディアドラ、ハービンジャー産駒のGI初勝利 (C)netkeiba.com


 その後も2週連続で週末の開催を台風が直撃し、各場で荒れた馬場に。その影響が残った京都では、エリザベス女王杯をモズカッチャンが、マイルCSではペルシアンナイトが相次いで優勝。3歳世代だけで3頭がGIを制した。近年、欧州系の種牡馬が日本の高速馬場に適応できずに苦戦していたが、天候を味方に一矢を報いた格好だ。

 今後、ハービンジャー以上に注目を集めそうなのがロードカナロア(10歳)だ。クラシックディスタンスからダートまで、既に多彩な後継者を輩出しているキングカメハメハだが、ロードカナロアは国内外の1200mと1600mでGI6勝。日本馬の鬼門だった香港スプリントで連覇を飾ったのが光る。

 血統面で見れば、サンデーサイレンスを持たないという圧倒的な強みがある。実際、現3歳世代の種牡馬ランキングでは、ディープインパクトに続く2位。115頭がデビューして40頭が勝ち上がり、勝ち馬率は34.8%の高率を誇る。この世代はディープインパクトが好調で、勝ち馬率も46.3%に上るが、堂々の2位である。

 また、2歳段階では重賞勝ちがなかったが、年明け早々にシンザン記念でアーモンドアイ(母フサイチパンドラ)が優勝した。「気性的に扱いやすい産駒が多い」というのが大方の評価で、2000mまでこなす期待もある。

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▲注目のロードカナロア産駒、アーモンドアイが年明けのシンザン記念で重賞制覇 (C)netkeiba.com


 キングカメハメハ産駒では、ルーラーシップ(11歳)も、前評判に結果が追いついてきた。真っ先に注目を集めたダンビュライトが重賞で惜敗を繰り返し、詰めの甘い印象を与えていたが、夏から台頭したキセキが一気に菊花賞制覇まで登り詰め、暮れから年明けにかけてはダンビュライトも1600万条件戦とアメリカJCCを連勝。現3歳世代でもテトラドラクマがクイーンCを優勝と勢いづいている。ロードカナロア同様、サンデーの血を持たない利点があり、こちらは気性面がネックとなりそうだが、逆に距離延長や馬場悪化にも対応できる融通性を既に証明している。

 ここで言及した3頭の種付け料を見ると、ルーラーシップは400万円で据え置きだが、ハービンジャーは250万円から350万円に値上げ。ロードカナロアに至っては、500万円から800万円にはね上がった。サンデー系血脈が過剰とも言える状況下で、非サンデー系が種牡馬の世代交代の担い手として浮上している現状は、生産界の転換を予感させる。

ディープ産駒 海外にも


 世代交代の足音が忍び寄る一方で、ディープインパクト産駒が海外で種牡馬となる例も出始めた。第1号は15年のスマートロビンで行き先はハンガリー。翌16年には産駒の重賞初勝利をあげたダノンバラードがイタリアに輸出された。

 今年に入ってからはアルバートドックがイタリアに、フィエロがインドに行くことが相次いで決まった。4頭ともGI勝ち星はなく、国内で種牡馬入りしても、繁殖牝馬が集まるかどうかは微妙なクラスと言える。輸出先も世界の競馬地図の中でメジャーとは言い難く、その意味で納得感はある。

 国内では既に、トーセンホマレボシやディープブリランテなどの後継種牡馬が重賞勝ち馬を出しているが、現状では大きな系譜になる予感が乏しいのも事実だ。ディープ産駒はもともと、牝馬の活躍が目立つ一方、早くから活躍した牡馬が4歳以降に失速するパターンも目に付く。そのせいか、サンデーのような勢いを感じさせない。

 加えて、ディープ産駒はまだ芝の短距離やダートではGI級の産駒を出していない。この点でもまだサンデーの域には達していないと見るべきで、日本特有の軽い芝コースに最適化されている分、海外で通じるような汎用性は期待しにくい。

 しかも、あまたのサンデー系種牡馬の中でも、エース級で輸出された馬は皆無に等しいという現実がある。何もかも国内で抱え込んだ結果、サンデー系の飽和状況を招き、今では当のディープインパクトにも難しい状況となった。

 今年はロンシャンに舞台が戻るが、過去2年の凱旋門賞を見ると、ディープ産駒が勝つ場面は想像しにくい。北米はもとより同じ競馬でも異種格闘技に近く、同産駒が今後、進出する行き先としては、トーセンスターダムが移籍してGIを2勝したオーストラリアが、適性からも最有力と言えそうだ。

※次回の更新は3/26(月)18時を予定しています。
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教えてノモケン! / 野元賢一
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1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

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