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ヨーロッパ障害競走の祭典「チェルトナム・フェスティヴァル」が開催

  • 2018年03月07日(水) 12時00分


◆12連勝を継続中、障害界の超エリート・アンティオール

 ヨーロッパ障害シーズンのハイライトとなる「チェルトナム・フェスティヴァル」の開催が、来週に迫っている。3月13日から16日まで、各開催日のメイン競走として施行されるレースの見どころを、今週と来週の2週にわたってお届けしたい。

 今週展望する13日と14日のメイン競走には、いずれも軸となる確固たる存在がいる。開催初日に組まれた、ハードル2マイル路線の総決算となるGIチャンピオンハードル(芝16F87y=約3,298m)で、前売りオッズ1.44倍〜1.57倍という圧倒的1番人気に推されているのが、昨年に続くこのレース連覇を狙うブーヴェールデール(セン7、父クリヨン)である。

 昨シーズン、自身4度目となるチャンピオントレーナーの座についたニッキー・ヘンダーソンが手掛けるブーヴェールデールは、15/16年シーズンにハードルデビュー。シーズン最終戦となったエイントリーのGIトップノーヴィスハードル(芝16F103y)で重賞初制覇を果した。そして、この勝利を皮切りにして、同馬は9連勝を継続中で、すなわち、既に1年11か月にわたって負け知らずなのだ。

 16/17年シーズンは5戦し、4.1/2馬身差で制したGIチャンピオンハードル,5馬身差で制したGIエイントリーハードル(芝20F)を含めて5連勝。そして今季も、初戦となったニューキャッスルのGIファイティングフィフスハードル(芝16F98y)、続くケンプトンのGIクリスマスハードル(芝16F)、前走サンダウンのLRコンテンダースハードル(芝15F216y)をいずれも白星で通過。他馬が付け入る隙がない、盤石の強さを見せている。

 オッズ6〜7倍という離れた2番人気となっているのが、このレースを過去4回制している愛国の伯楽ウィリアム・マリンズが手掛けるフォーヒーン(セン10、父ジャーマニー)だ。13/14年シーズンにハードルを跳び始めると、いきなり連勝街道を驀進し、2シーズンに渡って負け知らずの9連勝をマーク。手中にした白星の中には、15年のGIチャンピオンハードルが含まれている。

 15/16年シーズンの初戦となったパンチェスタウンのGIモーギアナハードル(芝16F)で2着に敗れ連勝が止まったが、続くケンプトンのGIクリスマスハードル、レパーズタウンのGI愛チャンピオンハードル(芝16F)を連勝。ところがその後、脚部不安を発症して、この年のチェルトナム・フェスティヴァルを回避。長い休養に入ることになった。

 フォーヒーンが1年10か月振りに戦線に戻ったのが、昨年11月にレパーズタウンで行われたGIモーギアナハードルで、このレースを16馬身差で制するというセンセーショナルな復活を果した同馬は、一気に今季のチャンピオンハードルを巡る有力馬に浮上した。更に言えば、そこで実現するはずの「ブーヴェールデールvsフォーヒーン」は、今年のチェルトナムのハイライトになると、ファンは色めきだったのだ。

 ところが、周囲の人々の目論見通りには事が運ばないのが競馬の世界である。復帰2戦目となった、12月29日にレパーズタウンで行われたGIライアンエアハードル(芝16F)で、序盤は快調に馬群をリードしていたフォーヒーンが、6号障害を越えた辺りでズルズルと後退し、7号障害手前で競走を中止してしまったのである。

 幸いにして馬に異常はなく、2月3日にレパーズタウンで行われたGI愛チャンピオンハードル(芝16F)に出走した同馬は、勝ち馬スーパサンデーから2.1/4馬身遅れた2着となり、完走したレースとしては入障後2度目の敗戦を喫することになった。かくして、「離れた2番人気」という立ち位置で、フォーヒーンはチャンピオンハードルを迎えることになったわけである。

 フォーヒーンがブーヴェールデールを破って、3年振りのチャンピオンハードル制覇を果せば、近年稀に見る復活劇の成就となるが、情勢は厳しいと言わざるをえまい。ブーヴェールデールが連覇を果し、連勝記録を10に伸ばせば、歴史的ハードラーとして讃えられることになるはずだ。

 開催2日目に組まれた、スティープルチェイス2マイル路線の総決算となるGIクイーンマザーチャンピオンチェイス(芝15F199y=約3,199m)で、前売りオッズ1.67倍〜1.73倍という抜けた1番人気に支持されているのが、ブーヴェールデールの更に上を行く、12連勝を継続中のアンティオール(セン8、父ハイチャパラル)だ。

 ブーヴェールデール同様、ニッキー・ヘンダーソンが管理する同馬は、15/16年シーズンにハードルデビュー。このシーズンは5戦し、7馬身差で制したチェルトナムのGIシュプリームノーヴィスハードル(芝16F87y)を含む5連勝。16/17年シーズンはスティープルチェイスに転身して6戦し、6馬身差で制したチェルトナムのGIアークルチャレンジトロフィー(芝15F199y)を含む6連勝。すなわち、王道中の王道を歩みつつ連勝記録を伸ばしている、障害界の超エリートがアンティオールなのである。

 そのアンティオールを絶体絶命のピンチが襲ったのが、今シーズンの開幕前だった。調教のピッチが上がるにつれ、喉鳴りの症状がひどくなり、陣営がついに手術を行う決断を下したのが、昨年11月だった。手術は無事に終了したものの、復帰は早くても3月、すなわち、チェルトナムはぶっつけ本番になるというのが、当時描かれていた「最良のシナリオ」で、おそらく今季中の復帰は難しかろうというのが、大方の見るところだった。

 ところが、アンティオールは「最良のシナリオ」より更に早く、戦線に戻って来たのだ。2月10日にニューバリーで行われたGIゲイムスプリットチェイス(芝16F92y)で今季初めてファンの前に姿を現したアンティオールは、GIティングルクリークチェイス(芝15F119y)を含めて直前3連勝中だったポリトローグに4馬身差をつける快勝。連勝記録を12に伸ばしたのである。アンティオールがGIクイーンマザーチャンピオンチェイスを勝てば、ハードル2マイル部門のブーヴェールデール同様、スティープルチェイス2マイル部門の歴史的名馬と称されることになろう。

 少ない可能性ながら、アンティオールを逆転する可能性があると見られているのが、ミン(セン7)とドゥーヴァン(セン8)の2頭だ。両馬はいずれもウォークインザパーク産駒で、管理するのはウィリアム・マリンズである。アンティオールが勝った16年のGIシュプリームノーヴィスハードルで、7馬身差の2着だったのがミンだ。スティープルチェイスに転身した16/17年シーズンが、2戦してGIレーシングポストノーヴィスチェイス(芝17F)を含む2勝。

 今季初戦となったゴウランパークの条件戦(芝20F)を楽勝した後、レパーズタウンのGIパディーズリワーズクラブチェイス(芝17F)では、1着で入線したものの、1/2馬身差で2着に入線したシンプリーネッドの進路を、ゴール前の攻防で妨害したとして2着降着となり、スティープルチェイスにおける初黒星を喫した。

 しかし、2月3日にレパーズタウンで行われたG2ダブリンチェイス(芝17F)では、そのシンプリーネッドに12馬身差をつける快勝。熨斗をつける形で、前走の雪辱を果たしている。実質的には、スティープルチェイス転向後は負けていないミンを、ブックメーカー各社は3.25〜4倍の2番人気に支持している。

 これに続いて、4.5〜5.5倍のオッズで3番人気になっているドゥーヴァンもまた、かつては連勝街道を歩んだ馬であった。14年6月、コンピエーヌの条件戦(芝3400m)で勝利し、ハードル2戦目にして初勝利を挙げると、14/15年シーズンは4戦し、チェルトナムのGIシュプリームンノーヴィスハードル(芝16F87y)を含む4連勝。スティープルチェイスに転身した15/16年シーズンが、チェルトナムのGIアークルチャレンジトロフィー(芝15F199y)を含む6連勝という軌跡は、1年後にアンティオールが歩んだ軌跡と極似している。

 16/17年シーズンも、初戦からGIパディーパワーキャッシュカードチェイス(芝17F)を含む3連勝を飾り、連勝記録を14に伸ばしたのだが、「ここを勝てば歴史的存在になる」と言われた昨年のGIクイーンマザーチャンピオンチェイスで、1.22倍という圧倒的1番人気を裏切りよもやの7着に大敗。連勝が止まってしまったのである。

 脚部不安を抱えたドゥーヴァンは、今季は全休かと言われた時期もあったが、今年に入って調整が進み、GIクイーンマザーチャンピオンチェイスに駒を進めてくることになった。1年ぶりの出走となるドゥーヴァンが勝てば、これもまた、競馬史に残る大復活劇となるはずだ。

 3日目と4日目のメイン競走となるGIステイヤーズハードル(芝23F213y)とGIゴールドC(芝26F70y)の見どころは、来週のこのコラムでお届けしたい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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