◆ステイヤーズSのようなレースで長距離の頂点を
春の天皇賞にあたるレースが最初に行なわれたのは、もう遠い昔の、1938年。それから80年。1970年代になるまでベテランホースの出走は非常に少なかったという歴史はあるものの、天皇賞(春)で「7歳以上」のベテランが勝った記録は一度もない。
今春は、その一度も勝ったことがない7歳以上馬が、なんと半数近い「7頭」も挑戦してきた。7歳以上馬が7頭は、パッと手元のストックブックを見た限りでは、「ベテラン7歳以上馬」の史上最多出走記録になる。
天皇賞(秋)2000mでは、2009年に8歳カンパニーが勝ち、1998年には7歳オフサイドトラップが勝っている。軽快なスピードや切れより、渋いスタミナが必要な3200mの天皇賞(春)の方がベテラン向きと思えるが、この春、7歳以上馬による歴史的な天皇賞(春)勝ち馬の誕生はないだろうか。
7歳アルバート(父アドマイヤドン)に注目したい。
父アドマイヤドンは2歳時に朝日杯FSを勝ったあと、翌年から3年連続してダート2000mのJBCクラシックを制したタフガイ。種牡馬となってしばらくのち、韓国に輸出されているが、歴史的な名牝ベガ(父トニービン)と、世界を代表する良血種牡馬馬ティンバーカントリーとのあいだに生まれた産駒であり、思われているよりはるかに可能性にあふれた種牡馬だったろう。
アルバートのステイヤーズS3連覇は、偉大な記録であり、6歳末の昨年の3分43秒0は、ステイヤーの少なくなった近年では珍しい好タイムだった(史上2位)。だから、いつもの有馬記念(ステイヤーの舞台ではない)に参加ではなく、オーバーホールして、長距離の頂点を目ざす王道「阪神大賞典→天皇賞(春)」になったのである。
アルバートの快記録はもちろん父方の影響力だけではない。母の父は菊花賞馬を3頭も送るダンスインザダーク(自身も菊花賞馬)。祖母の父は天皇賞(春)のアンバーシャダイで知られる万能型ノーザンテースト。その前には、菊花賞を制し、3200m当時の秋の天皇賞も勝ったニットエイトの父であるガーサントの名も、その少し前には歴史的な長距離型のアリシドン(当時は20FのアスコットGC、18FのドンカスターC勝ち馬)の名も出現する。
この輸入牝馬レディチャッターからさかのぼる牝系は、日本の生産の歴史に大きく関係する。アルバートの8代母は英のジュリー(29年。父ハリーオン)。いま、日本のサイアーラインとされるサクラバクシンオー系の出発点になるテスコボーイの3代母が、そのジュリー。近年、脚光を浴びるドイツ血統といえば必ず出てくる種牡馬ズルムーはテスコボーイの近親馬なので、その4代母がジュリー。
アルバートが対決する5歳馬レインボーライン(父ステイゴールド)は、父方も、母方も、天皇賞(春)に大きく関係する血を持つ有力馬だが、ファミリーの7代母に登場するのは、なぜかジュリーなのである。
アルバートは、人気のシュヴァルグラン、レインボーライン、ガンコなどを射程に入れて進み、ステイヤーズSのようなレースをしたい。