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執念で獲得した悲願の初G1タイトル/天皇賞(春)

  • 2018年04月30日(月) 18時00分


◆ステイゴールド産駒はこれで天皇賞(春)4勝目

 5歳レインボーライン(父ステイゴールド)が、ここまでどうしても手の届かなかったビッグレース制覇を達成し、これでGI【1-1-2-6】となった。

 レインボーラインは前走の阪神大賞典で約2年1カ月ぶりに重賞2勝目を記録していたが、父ステイゴールドが初めて重賞(目黒記念)を勝ったのは、約2年8カ月ぶりに4勝目を挙げた6歳春のこと。そのとき初重賞制覇だった。

 レインボーラインが、悲願のGI制覇達成などと涙したら、「わが息子ながらなんと軟弱な…」と父ステイゴールドが笑うかもしれない。ステイゴールドは、3歳秋の菊花賞8着に始まり6歳のジャパンCまで、GI競走【0-4-2-13】だった。やっとGIウイナーとなったのは6歳12月の香港ヴァーズ(引退レース)である。

 しかし、なかなか勝てずにいて5歳時に初GI勝ちは、たしかにステイゴールド産駒らしい嬉しい1勝だった。近年ちょっと冴えていなかった岩田康誠騎手のG1成績は、15年レッツゴードンキの桜花賞以降【0-5-2-50】であり、約3年ぶりのGI勝利だったという。岩田騎手の騎乗したレインボーラインが、ステイゴールド産駒らしく、ついにビッグレースを勝ったのは、素晴らしい組み合わせだったのである。阪神大賞典3000mの3分03秒6は現在の阪神になってからは歴代2位の勝ちタイムであり、順当勝ちだろう。

 入線後すぐ下馬している。レースリプレイを見ると、ゴールの瞬間、つまずいたかのようにガクンとなっていた。みんな複雑な思いを抱えながらの表彰式となったが、香港のクイーンエリザベス2世Cが行われるころには「右前肢ハ行」と発表されている。

重賞レース回顧

入線後異変を感じた岩田騎手がすぐに下馬、ウイニングランは行われなかった


 ステイゴールド産駒は、これで天皇賞(春)4勝目。天皇賞を筆頭に、有馬記念、宝塚記念で圧倒的な強さを爆発させるステイゴールド産駒には、後継種牡馬にオルフェーヴル、フェノーメノ、ゴールドシップ、ナカヤマフェスタいる。そこにレインボーラインが加わり、文句なしの「ステイゴールド系」の完成である。

 代表馬オルフェーヴルの産駒は、長打を放つ能力はすごいのに、勝ち上がり率が低くて心配されたが、初年度産駒が3歳になると1月→2月→3月→4月→。月を追うごとに「勝ち馬の数」がどんどん増えている。たしかにステイゴールド系が先走りしてはそれこそ変であり、父ステイゴールドは引退レースでついにGIを勝った。

 振り返ればオルフェーヴルがもっとも強かったのも引退レースの有馬記念だった。レインボーラインは牝系ファミリーからしてタフな一族(今回はかんばしくなかったが、ステイヤーズS3連覇のアルバートも同じ牝系)であり、脚元の不安が解消する秋にはまた長打を放つことだろう。

 昨年と同じく2着にとどまったシュヴァルグラン(父ハーツクライ)は、懸念されたように先行のキタサンブラックを追っていれば道が開けた昨年とは、自身のスタイルは同じでも置かれた立場が180度違っていた。今年はマークを受ける側に回ったのが厳しく、抜け出して押し切れそうに思えたが、最後に捕まった。

 ただ、大阪杯よりは気配も動きも良かったが、昨秋のジャパンC当時の迫力はなかったかもしれない。どちらかというと秋のビッグレース向きのイメージがある。

 昨年は、3分12秒7(上がり35秒2)。今回、ほかの連続出走馬も平凡だったが、なんと今年は3分16秒2(上がり35秒8)である。離れた5着馬までディープインパクトの日本記録を突破した異常な馬場の昨年とは、コース(馬場)状態がかなり違ったとはいえ、同じヤマカツライデンが行って、昨年と同じ2着シュヴァルグランのタイムは「3秒5」差。まるで別次元のようだった。

 昨年の最初から飛ばしたヤマカツライデンの前後半と、今年は前半セーブし途中からもそうピッチを上げなかった同馬の前後半バランスを並べると、
「1分34秒5-1分41秒2」=3分15秒7 (3秒2差)上がり38秒7
「1分37秒6-1分39秒7」=3分17秒3 (1秒1差)上がり37秒0

 ヤマカツライデンは大バテした昨年とバランスを変え、完敗は同じでも今年は勝ち馬から1秒1差にがんばり、上がりは37秒0だった。

 一方、昨年は好位4〜5番手、今年も好位3番手前後のシュヴァルグランは、
「1分37秒5-1分35秒2」=3分12秒7 (0秒2差)上がり35秒2
「1分38秒6-1分37秒6」=3分16秒2 (0秒0差)上がり35秒8

 今年の前半1600mは昨年より推定1秒1遅かったのに、後半ピッチが上がるどころか、キタサンブラック追撃のために必死でペースを上げる必要のあった昨年と異なり、今年はクリンチャー(父ディープスカイ)、チェスナットコート(父ハーツクライ)、サトノクロニクル(父ハーツクライ)などとともに好位からの進出で、みんなと同じでスパッと伸びていない。これに昨年ほどの気配になかったこと、前に目標がいなかったことも重なり、昨年より後半1600mだけで「2秒4」も遅い平凡な内容だったのである。

 3200mの長丁場なので、昨年とは異なる馬場差が考えられる以上に大きなタイム差になったこともあるかもしれないが、クリンチャー、チェスナットコート、ガンコ(父ナカヤマフェスタ)などは、その善戦健闘を評価したいと同時に、58キロの3000m級のビッグレースでは、例年だと今回ほどは評価の上がらないあくまで伏兵であり、シュヴァルグランは昨年の内容に比べあまりに大きく見劣ったということだろう。

 人気上位馬では、新星ガンコの失速は残念だったが、全体レベルはかなり物足りなかったとはいえ、古馬の厳しい長距離GIは実績不足どころか経験がなかったに等しい。力尽きての失速は明日への糧である。「これがいい経験になれば――藤岡佑介騎手」。その通りというしかない。

 サトノクロニクルは、あまり途中では大きく動いたりしない川田将雅騎手が早めにスパートしたくらいだから、あまりに緩い流れを読んでのことであり、阪神大賞典でのレインボーラインとの差を考えれば残念な結果だが、勝ちに出たのだから、物足りなくても現時点の力は出し切っているということか。

 ステイヤーズS3連覇の7歳アルバート(父アドマイヤドン)にとっては、時計が速いわけでもなく、上がり勝負でもなく、フルにスタミナの発揮できるレースだったが、最初からレースの流れに乗れず、走法のリズムまで悪かった。

 レースにはいつでもそういう一面はあるが、勝ったレインボーライン以外には、どうも物足りなさすぎる天皇賞(春)の3200mだった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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