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池江流 最強の馬体の見方

  • 2018年05月16日(水) 17時00分
池江流 最強の馬体の味方

▲ netkeiba Books+ から池江流 最強の馬体の見方の1章、2章をお届けいたします。(写真:日高の牧場風景/田中哲実)


 北島三郎さんは「顔に惚れた」のがキタサンブラック購入の決め手だったと話す。ある調教師は、馬の鼻先をグッと押さえた時に馬がどういう風に押し返したり反抗するかを見るという。ある生産者は、当歳時に立ち姿のポーズをすぐに決められる馬がいいという。
 レースで活躍してくれる馬を誰よりも早く、1頭でも多く見つけたいと馬主や調教師、生産者たちは独自の理論を持っている。それらに基づいて選んだ馬がG1馬に輝けば、嬉しさは計り知れないほど大きいだろう。ましてや三冠馬ともなれば…。
 今回、お話を聞いたのはディープインパクト、ステイゴールド、メジロマックイーンといった数々の名馬を育ててきた池江泰郎元調教師。調教師を定年後は「サトノ」の冠名でお馴染みの里見治オーナーのアドバイザーを務め、池江氏が見初めたサトノダイヤモンドは3歳で菊花賞と有馬記念を制覇した。一口馬主やPOGを楽しむ競馬ファンに池江氏が教える「最強の馬体の見方」とは。


(文:池江泰郎)



第1章 サトノダイヤモンドを選んだ理由


 2016年菊花賞と有馬記念を制覇し、日本ダービーは2着だったサトノダイヤモンドは、2013年セレクトセール当歳セッションで里見オーナーに第一候補として挙げた馬でした。

 セレクトセールでは名簿ができあがる前に下見をしますし、名簿には血統も詳しく載っています。血統ももちろん大切なのですが、一番重要なのは馬体のバランスですね。「バランス」といってもなかなかわかりづらいと思いますが、馬体にマイナスな点がないかを見たり、競走馬として正しい姿勢をしているかを見分けます。

 私が騎手を引退し、調教師になったばかりの頃、先輩から教えられたことがあります。それは「馬に惚れ込んだらイカンよ。欠点を探るんだ」ということです。惚れ込んでしまったら、何もかもよく見えてしまうので、そうではなくて悪い点を探すべきだということですね。

 いくら血統がよくても、姿勢に悪い点があれば故障に繋がります。なので、まずは正常な馬体をしているかをチェックします。そして一番肝心なのは脚。競走馬として仕上がっていくと460kg前後、大きくなれば500kgを超えます。そうなると、正常な姿勢の馬でも故障しやすいので、なるべく脚に不安点がないほうがいいですね。

 サトノダイヤモンドは、理想のツメの角度と大きさをしていました。馬体全体のバランスも良く、前から見ても横から見ても気になる点(マイナス面)がほとんどなかったんです。後ろ脚の飛節も理想的な角度でよかったですね。最終的には里見オーナーが気に入られるかどうかで決まりますが、このときはご縁があって購入することができました。

 サトノダイヤモンドの世代は6913頭いるなかで、菊花賞を制覇し、さらには古馬に混じって有馬記念まで制覇できたんですから、運が良かったですね。日本ダービーもあとわずかでした。私のなかで、競走馬の理想形をした馬こそがサトノダイヤモンドだったのです。

サトノダイヤモンドの成長、ココがすごかった!

池江氏は馬体を脚元(1番)から顔(9番)の順番でチェックする



(2章につづく)
サトノダイヤモンドの成長、ココがすごかった!

(写真:'16菊花賞 サトノダイヤモンド / (C)netkeiba.com)


第2章 サトノダイヤモンドの成長、ココがすごかった!


 当歳の7月にセレクトセールでサトノダイヤモンドを里見オーナーが購入されてからは月に1〜2回は牧場に見に行って、成長を確認していました。私が思い描いた理想とだいたい同じような感じで成長してくれました。馬によっては、たまに裏切られることもあるんですけどね(苦笑)。そんな時は「馬ってこういう風にして成長するんだな」と勉強させられます。

 サトノダイヤモンドは馬体のバランスが崩れることもなく、どんどんイメージを描いていた以上の馬になっていきました。成長するにつれて、「これが本当のサラブレッドだなぁ」と感心したものです。

 例えば、2歳のある時の写真を見てみましょう。まずは体の線。お父さんのディープインパクトに似てきましたね。腹袋がシュッとして、無駄な肉がついていません。ひばらが引き締まっているので、腹回りはもう少しあってもいいかな、という感じです。

 しかし、ボテッとして脂肪の乗る馬だと余計な鉛を背負っているようなもので、仕上げていくなかで負担がかかってしまいますので、無駄な脂肪がつかないことはいいことでしょう。人間でも水泳や陸上選手にしてもそうですよね。とくにサラブレッドはスピードを要するので、無駄な脂肪はいりません。

 次に首です。馬格に沿った首をしています。お父さんのディープインパクトは首を低くして走る姿勢も良かったですが、子供たちもそういう走り方をしていますね。

 胴は当歳のときから「余裕が出てくる馬だろう」と感じていましたが、2歳になってやはりそうなりました。巷でいわれているように、胴が長い馬のほうが距離が持ちます。サトノダイヤモンドはこの時の写真を見ても2000mくらいが合う馬体をしていますし、実際に競走成績もそうですよね。

 ただし、距離に関しては馬体よりも気性を優先する馬もいます。私も調教師時代はそうでしたが、レースを重ねながら気性や馬体を見て適性距離をはかっていくこともあります。ちなみにサトノダイヤモンドの場合、気性は牧場でも苦労したという話は聞きませんでした。素直さって大事なんですよね。

サトノダイヤモンドの成長、ココがすごかった!

サトノダイヤモンド 当歳


サトノダイヤモンドの成長、ココがすごかった!

サトノダイヤモンド 2歳


(続きは 『netkeiba Books+』 で)
池江流 最強の馬体の見方
  1. 第1章 サトノダイヤモンドを選んだ理由
  2. 第2章 サトノダイヤモンドの成長、ココがすごかった!
  3. 第3章 パーツ毎の馬体解説〜脚編〜
  4. 第4章 パーツ毎の馬体解説〜上半身編〜
  5. 第5章 パーツ毎の馬体解説〜後肢・その他編〜
  6. 第6章 馬体解説〜歩き姿編〜
  7. 第7章 注目の2歳馬
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