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幸騎手の騎乗が光った高レベルなレース/ヴィクトリアマイル

  • 2018年05月14日(月) 18時00分


◆脚元の不安が解消し、狙いを定めた1戦

 この週の東京は、前週までとは大きく異なる高速の芝コースだった。記録された「1分32秒3」は、例年の平均的な勝ちタイム(良馬場)だが、午後から降り始めた雨の影響で推定「0秒5〜0秒7」くらい時計を要した芝コンディションだったと思われる。雨にたたられなければ、おそらく「1分31秒台後半」の快時計の決着だったろう。

 こういう速い時計は、前後半のバランスが保たれ、平均してラップの落ちないペースになったときか、あるいはハイペースで引っ張る馬がいた際に記録されるが、今年、先手を取ったカワキタエンカ(父ディープインパクト)に、リエノテソーロ(父スペイツタウン)などが絡むように先行したレース全体のペースは、前後半「46秒8-45秒5」=1分32秒3だった。

 前半「46秒台後半→1000m通過58秒3」は、芝状態を考えるとかなり緩い流れであり、後半800mのほうが「1秒3」も速くなった。全体バランスを重視するペース分類では、間違いなくスローペースに入る。

 このスローで1分32秒3になったのは、短く刈り込んだ芝の影響が大きかったのはたしかだが、7着馬まで1分32秒台で乗り切ったのだから、上位陣のレベルがきわめて高かった結果でもある。実際、勝った5歳牝馬ジュールポレール(父ディープインパクト)だけでなく、2着惜敗のリスグラシュー(父ハーツクライ)など、レース直後に中2週となる6月3日の「安田記念」挑戦をほのめかす陣営が現れた。

 レベルの高いレース(紛れやたまたまの部分が少ない)の場合に生じるレース結果がある。今回は、18頭のうち上位8番人気までに支持された馬が、そろって上位「8着」までを占める結果だった。みんなの支持と推理が的確に反映した結果であり、「1着と2着が逆なら…」とか、「2着と3着が入れ替わっていれば」…など、大接戦のゴールだったため、未練の振り返りが右からも、左からも聞かれた。「ああ、あとちょっとで…」という大きなため息の渦巻くレースは、間違いなくいいレースなのだろう。あとちょっとで…のファンも(半分)納得なのだから…。

 勝ったジュールポレールは、オープンに昇格したばかりで重賞未勝利だった昨年4歳時が、勝ったアドマイヤリード(父ステイゴールド)から0秒2差の3着。直後の条件再編成で1600万下になったが1戦で突破し、前回、ここを狙ったステップの阪神牝馬Sは0秒2差だけ。脚元の不安を解消した今年は、狙いを定めた1戦だった。

重賞レース回顧

脚元の不安を解消し、見事優勝したジュールポレール(撮影:下野雄規)


 抜け出したレッドアヴァンセ(父ディープインパクト)をゴール寸前で交わした瞬間、外からリスグラシューが「鼻差」まで急接近し、1〜3着は「鼻、首…」。もちろんその差はたまたまかもしれないが、ベテラン幸英明騎手(42)会心の、7勝目のG1である。コース取りも、全力スパートに入ったタイミングも絶妙だった。

 5歳牝馬ながら、まだ14戦【6-2-2-4】。今回、1600mの最高タイムを1秒5も短縮してみせた。5歳上の兄サダムパテック(父フジキセキ)は、12年のマイルCSを首差で勝っている(武豊)。2015年から種牡馬となり、初年度産駒は今年デビューする(血統登録馬は16頭)。1年間の供用のあと16年春に韓国に輸出されているが、もう、妹のGI勝ちのニュースは伝わっているだろう。評価が上がり、コリアC(GI)に出走して日本馬を返り討ちにするくらいの産駒を送りたい。

 2着リスグラシューは外枠16番のため、位置取りが後方になってしまった。また、縦長の展開になるペースではなかったため、ただ1頭だけ上がり32秒台で猛追したが、並んだ瞬間がゴールだった。これから充実の4歳秋を迎える。2歳時は430キロ前後だった馬体が、いまは450キロ前後に成長し、明らかにパワーアップしている。GI【0-4-0-2】はちょっと特殊な成績だが、これまでは良くぞ2着を確保した、という印象もあるGIであり、これからが本物のリスグラシューかもしれない。母リリサイドの父アメリカンポストは紛らわしい命名だが、母方は父母両系ともに欧州色1色であり、今回のように少し渋ったくらいのコンディションは合うのだろう。

 3着レッドアヴァンセは惜しかった。見た目と違って、決して仕掛けが早かったわけではない。この5歳牝馬、力及ばずの3歳クラシック挑戦は別に、古馬のオープンランクになったばかりである。クラレントを筆頭とするエリモピクシー産駒の大活躍は知られるが、この牝馬もさらにしぶとく成長するだろう。

 4着にとどまったアエロリット(父クロフネ)は、パドックでは大丈夫だったがしだいにテンションが上がり、実戦で行きたがるのはいつものこと。戸崎騎手はそれを承知していたが、並んで外からの先行になりリラックスできなかった。「左前脚を落鉄していた―菊沢調教師」という不利もあった。当然、巻き返せる。

 そのアエロリットには重なって乗れなかった横山典弘騎手のミスパンテールは、ちょっとスタートで後手を踏んだのが誤算だが、あの苦しい形になって0秒3差なら立派なものだろう。レッドアヴァンセと同じでクラシックのころはただ挑戦しただけ。前回の阪神牝馬Sの巧みな逃げ切りを別にすると、強敵相手と正面からぶつかるのは今回が初めてにも近い4歳馬である。これからだろう。

 アドマイヤリードは、渋馬場は巧者に近いとされたが、本当の持ち味は爆発力。それにマイル戦は今回が10戦目になるが、ここまでの最高タイムは1分33秒9。今回は芝(馬場)状態はともかく、断然の自己最高の1分33秒0。凡走ではないかもしれない。

 注目のソウルスターリング(父フランケル)は相変わらずカッカして、ほかの馬ならきついイレ込み状態に近かった。あの状態で小差7着だから素晴らしい才能を秘め、ほれぼれする馬体の持ち主だが、改めてフランケルの真価は日本風の「快速馬」とは異なると感じた。フランケルの大物だからオークスを勝てた。フランケルのマイルの最高時計は1分37秒台のはずで、今回の1分32秒7以上の高速レースは、相当に慣れても自分の分野ではないかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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