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後半も高速ラップが続く文字通りの「高速レース」/安田記念

  • 2018年06月04日(月) 18時00分


◆ツブぞろいの4歳馬の進撃はこれからさらに加速する

 高速の芝に乗って飛ばしたウインガニオン(父ステイゴールド)のペースは「34秒2→45秒5→(前半1000m通過)56秒8→」。かなりきびしい流れになったが、ウインガニオンは「56秒8-上がり35秒2」=1分32秒0。0秒7差の7着に残っているように、無理なハイペースではない。

 安田記念で先手を主張した逃げ馬では、2010年のエーシンフォワードが「44秒9→56秒3→」。2012年シルポートも「44秒9→56秒3→」の例があるが、今年の場合は後半も高速ラップがつづき「45秒5-45秒8」=1分31秒3。きびしい流れがゴールまで連続する文字通りの「高速レース」だった。タイムは東京芝1600mのタイレコード。

 例年以上の高速コンディションに、きびしい中身を求められたのが人気の中心スワーヴリチャード(父ハーツクライ)だったろう。スタートの良くないこともあるスワーヴリチャードは、神経を集中させた互角のスタートから、素早く5番手前後でレースの流れに乗った。好位差しの正攻法で、スピードレースに対応するお手本のような位置取りである。

 だが、こんな高速のマイル戦を経験したことがない心配が、結果としてゴール寸前の息切れにつながっている。スワーヴリチャードのこれまでの最速の前半3ハロンは皐月賞2000mの「35秒8」であり、前回の大阪杯は出負けしたこともあるが「38秒0」だった。それが今回はいきなり「34秒8前後」である。

 その大阪杯2000mでは、後半1000mを推定56秒0を切るくらいの猛ラップで乗り切ったので、「スピード能力に死角はない」と考えられたが、2000mなのでゆったり構えた大阪杯の前半1000m通過は「62秒台前半」である。それが、今回は突然、前半1000m通過が「57秒5→」だった(上がりは33秒9)。まるで異次元の高速レースに対応してみせたスワーヴリチャードは、結果は3着でも、この馬の能力は素晴らしい。初の芝1600mをなんと「1分31秒4」で乗り切ったのである。この馬には経験したことのないハイペースの流れに乗ったことを心配した鞍上のM.デムーロは、4コーナーでほんの少しだけスワーヴリチャードに息を入れたように見えた。完ぺきな騎乗と思える。

 しかし、究極の1分31秒台前半でゴール寸前のしのぎを削りあったライバルは、名うてのマイル巧者のトップばかりだった。連続する高速ラップへの対応と、どこかで巧みに少し息を入れる術を身につけていた。ゴール前の差はそれだったろう。いきなりマイルの頂点の安田記念で、ましてタイレコードの結着に一歩も引かなかったスワーヴリチャードはすごかった。しかし、ギリギリに仕上げて激走の反動もあるだろう、宝塚記念はパスする予定とされる。早くも天皇賞(秋)2000mの候補NO.1となった。

重賞レース回顧

GIに半ば予定の連闘とあって気配は絶好だったモズアスコット(撮影:下野雄規)


 中団の後方で速いペースを追走しながら、巧みにセーブしつつ4コーナーでインを回ってきたのが、勝ったモズアスコット(父フランケル)。2週前の最初の特別登録では、除外の危険大の賞金順位19番目。回避馬がいて連闘で出走してきたモズアスコットは、シャープに締まった482キロ。連闘の調整はむずかしく、楽をさせるからプラス体重になる馬も珍しくないが、GIに半ば予定の連闘とあって気配は絶好だった。直前の10Rの直線をみて外に出したいと考えた馬もいたが、C.ルメールは猛ペースを読んで、人気のスワーヴリチャード(M.デムーロ)より4コーナーでさらにムリをしていなかったように映った。

 インは空いていた。スワーヴリチャードに追いつき、もう一回脚を使ったアエロリット(父クロフネ)を差し切ったのは、スパートを待った鞍上の勝負勘だろう。

 ルメール騎手がいうように、フランケルの真価は「切れるというより、速い脚が持続する」ということか。今回のようなきびしいビッグレース向きなのだろう。モズアスコットの4代母ジャワムーン(父グロウスターク)は、大種牡馬ブライアンズタイムの母ケリーズデイと全姉妹になる。矢作調教師の「世界的な種牡馬にしたい」という願いは、名門ファミリーの秘める活力、底力を考えての展望でもある。

 ヴィクトリアマイルではやや中途半端なスパートに見えたアエロリットだが、さすが戸崎圭太騎手、通過順は同じでも今回は自分から勝負に出た。スワーヴリチャードの追撃を封じ、差し返すようにもう一回脚を使ってタイレコードと同じ1分31秒3。これで差されたのではどうしようもない。仕上がりも満点を超えていた。前回は左前だったが、今回は「戻ってきたら右前の蹄鉄がなかった(菊沢調教師)」という。蹄が弱いのではなく、死に物狂いで地面をたぐった勝負をあきらめないアエロリットだからだろう。

 サトノアレス(父ディープインパクト)は、スタートもう一歩。直線は大外に進路を取らざるをえなかった。坂上では届くとみえたが、1分31秒5(上がりは最速タイの33秒3)で乗り切ったのだから、中身は文句なし。相手が走りすぎている。

 惜しかったのは、6着ペルシアンナイト(父ハービンジャー)。多頭数の激戦なのでみんなが狙った進路を取れるわけではないが、直線で前に空いたスペースがなく、しばらく進路を探し続けていた。スパートしたのはもう勝負の結果が見えてからである。

 昨年の再現に期待したレッドファルクス(父スウェプトオーヴァーボード)は、昨年は「57秒9-33秒7」=1分31秒6。今年も昨年と同じような後方からの追い込みになり、上がりは同じ33秒7だったが、今年は前半の追走にもうひとつ余裕がなかった。

 2001年以降では、最多の「8頭」も出走した4歳馬が掲示板を独占した(6着も4歳馬)。これはグレード制が敷かれた1984年以降、史上初のことであり、前日の鳴尾記念で4歳馬が2頭も3着以内に入ったのも、この時期になった2012年以降では2度目だった。条件賞金が半額になった4歳馬が出走しにくい時期であることを考えると、5歳以上馬が物足りないのか、4歳馬の全体レベルが高いのか。その両方だろうが、ツブぞろいの4歳馬の進撃はこれからさらに加速すると思える。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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