スマートフォン版へ

ほぼ実現するであろう農協合併、高齢化や経営難の問題はどうなる?

  • 2018年08月15日(水) 18時00分
生産地便り

高齢化が進むJA



合併して一安心! というわけではなく…


 去る8月10日、浦河町中部地区の組合員を対象に「JAひだか東地域別懇談会」が開催された。前回触れた通り、ひだか東、みついし、しずない、にいかっぷの4農協は、来る平成31年2月1日を目途に合併し新体制でスタートすることがすでに発表されており、「後戻りはできない」状況になっている。

 新農協の名称は「ひだか広域農協」と称する、らしい。主たる事務所は、現在JAみついしの事務所である新ひだか町三石本桐。それ以外の、ひだか東、しずない、にいかっぷの3農協は、「従たる事務所」という扱いになる。また、新農協の理事定数も、旧みついしが7〜9人なのに対し、他の3農協はいずれも3人。その他学識経験者が1〜3人とされており、合計17〜21人中、みついしが突出して多い。

 財務内容の違いから、今回の合併はみついし農協が主導し、他の3農協がそれに従う形になるため、こうした割合になるのである。前回触れた通り、みついしを除く3農協は、多額の不良債権を抱えており、その処理に頭を痛めてきた長い歴史がある。

 そして、もはや自力での債権回収、処理が困難になっているのは明らかで、このほど全道、全国のJA組織から支援を仰ぐ形で、合併に漕ぎつけることになったのは前回記した通りだ。

 今後の日程としては、来月下旬に現4農協の臨時総会で、合併の是非が問われる運びとなる。繰り返しになるが、すでに大まかな方針としては合併ありきで進められており、ここで合併案が否決されるようなことになると、計画は根底から崩れる。考えにくいことだが、仮に合併に反対意見が多く原案が否決されると、わが農協(JAひだか東)は単独で再建するより他なくなる。

 しかし、多額の不良債権処理は、自力では到底回収不能で、早々に自力では立ち行かなくなることが目に見えている。したがって、残された方法は合併以外にはない、というのが、組合執行部の姿勢だ。

 ここまで来ると、合併そのものはもう他に選択肢が残されていない以上、原案通り可決成立することになるだろう。しかし、問題はその後である。

 新農協の正組合員戸数は新冠町からえりも町まで合わせて1752戸。そのうち農家戸数は1205戸とされている。耕地面積は新冠町からえりも町まで、21443ヘクタール。そのうち約7割に相当する15250ヘクタールが牧草専用地である。

 この管内には、肉用牛生産農家や酪農、施設園芸では、ピーマン、ミニトマト、イチゴ花卉などの栽培も盛んだが、何と言っても主たる生産物は、軽種馬(サラブレッド)であり、戸数も面積も圧倒的に多い。

 新冠町からえりも町までの5町で、軽種馬生産に従事している戸数が501戸に達することは前回触れた通り。JAにいかっぷ105戸、しずない107戸、みついし96戸、ひだか東193戸という内訳だが、この管内の年齢別農業経営者数のデータを見ると、全体の6割が50代、60代となっており、70代以上も2割いる、とされる。

 今回の合併に関する懇談会の席上で配布された「合併JAの骨子(案)」なる資料には、軽種馬の現状と課題について次のように記されている。

「近年は、競馬の売上や軽種馬販売に回復の兆しが見られるものの、小規模経営は依然として厳しい状況にあり、市場動向は経済情勢による影響が大きく、今後も予断を許さない」こと。

 さらに「軽種馬生産振興事業等を活用した、生産、育成段階での分業化や役割分担、さらには他作目との複合経営による経営改善を支援しリスク分散の取り組みを推進」する、とある。

 後継者不在と小規模経営牧場の経営難とは、コインの裏表のような関係にあり、さらに軽種馬生産牧場の戸数は減少して行くことが予測される。体力気力の衰えが始まる50代、60代の経営者が6割を占めている現状で、しかも家族経営が大半の現状では、今後「他作目との複合経営による改善」は現実的に厳しい。資金も技術も、そして体力(労働力)も新たに求められるからである。

 農協合併に伴い、この地域の抱える課題が一気に露呈した形になっているが、この先、どんどん地域が衰退して行くのを座視するばかりではあまりにも将来が暗い。

 現状ではまだ辛うじて、サラブレッドの主要生産地としての景観を保っている今のうちに、次世代にバトンタッチする方策を早急に考えなければならない。新たに軽種馬生産を始めたいという希望を持つ新規参入者をいかに取り込めるか。

 言葉にしてしまうのはいかにも簡単だが、地域を守る道はもう他には残っていない。「日高で牧場主になりませんか?」と競馬産業に従事する多くの人々に向かってPRし、何とかして後継者不在の牧場を受け継いでもらう。そのために最大限の支援を行う。新農協に期待するのはそこである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング