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『ルメール、デムーロ、モレイラ』の時代になるのは自然の成り行き/キーンランドC

  • 2018年08月27日(月) 18時00分


◆秋本番に直結というには物足りない内容で…

 期待の好カードは、あっけない結果だった。勝ったのは人気の5歳牝馬ナックビーナス(父ダイワメジャー)。全体に少し時計のかかる馬場コンディションがぴったりだったこと。高松宮記念の小差3着を筆頭に、オーシャンS2着、函館スプリントS3着など、一連の重賞で大接戦してきた総合能力に、思いのほか楽な流れ「33秒7-35秒7」=1分09秒4で先手が取れたことが重なったのが完勝の要因か。

 だが、やっぱりその形を作ったJ.モレイラの巧みな騎乗が大きいだろう。Cコースに移って2週目、渋った芝コースは思われていたよりはるかにインコース有利だった。それを読んだモレイラの強気の先手主張だった。

 前後半の差が大きく「2秒0」もあっては、ふつうは厳しい前傾のハイペースだが、この日の芝は先行した3歳ダノンスマッシュ(父ロードカナロア)がそのまま2着に粘り込み、その直後にいた伏兵ペイシャフェリシタ(父ハーツクライ)が惜しい3着だったように、先行してインを通った馬が簡単に失速しないコンディションだった。

 後半3ハロン35秒台前半でまとめたライバルは何頭もいたが、この距離で4着キャンベルジュニア(父エンコスタデラゴ)以下は4馬身以上(0秒7)も離されたままだから、少々きついくらいのペースでも先行タイプ有利を読み切っていたモレイラの勝負勘(ヘッドワーク)が断然、光った。

 モレイラ騎手のJRA重賞初制覇は、「そういえばそうだったのか!」、と思わせてしまうあたりが実は日本でもすっかりマジックマンとなったJ.モレイラのすごいところに違いない。『ルメールと、デムーロと、モレイラ』の時代になるのは、世界の競馬サークルでは少しも不思議なことではなく、世界ランキングで上位に位置する彼らがトップグループを形成するのは、あらゆる競技スポーツ界を通して自然な成り行きである。

 ちょっと前の武豊騎手を筆頭に、現在では、川田、坂井、野中…騎手などが海外に大きな飛躍舞台を探して遠征しているのは、そういう志であり、功成り名を遂げたベテランの第二の活躍の場になることの多いサッカーや、野球とは、移籍の動機が異なる面がある。

 J.モレイラはブラジル育ち。日本に来ると生産地の北海道に行きたくなる。世界に知られる牝馬や、注目種牡馬のいる日本の生産界(場所)に彼が惹かれるのは、ごく当然のことであり、お金や生活がその理由ではない。香港のファンには叱られそうだが、メジャーリーグに憧れる日本の野球人と同じで、レベルうんぬんではない。本来の競馬に改めて憧れ、許されるなら今しかない、と考えたモレイラの必然の転身願望を支持したい。

 JRAの、本当は免許制度には相当しない入社試験のような合否判定が、いつもの騎手免許試験や、調教師試験と同じように、モレイラに適用されないことを願いたい。政治の世界の恥にわたしたちは慣れすぎているが、さすがに競馬の世界で「歴史的な恥」はかきたくない。

善戦が続いたナックビーナス、モレイラ騎手と共にこれが重賞初制覇(撮影:高橋正和)


 2着ダノンスマッシュは、前日は1番人気。負担重量が魅力の3歳馬とはいえ、人気になり過ぎの感があったが、このことが強気の先行策をうながした。レース全体はタイムがかかったことも関係し、レースレィティングは高くないかもしれないが、ここで通用した自信は大きい。さらに上昇があるだろう。

 人気で凡走(5着同着)のレッツゴードンキ(父キングカメハメハ)は、流れが味方しなかったのは確かだが、いつもならふっくら見せる馬体のラインが、なんとなくボヤけていた。6歳の牝馬がここでまたいきなり完調になるわけもなく、仮に良化するなら、このあとだろう。

 期待したキャンベルジュニアは、4コーナーで射程内に進出していたが、今回はパワー優先型を感じさせる身体つきで、余力はあるのにスパッと切れなかった。京王杯SCの内容からすると案外で、もっと厳しいレースに慣れてからの狙いなのか。

 京王杯SCといえば、勝ったムーンクエイク(父アドマイヤムーン)は、休み明けの今回は、やけにスッキリ仕上がりすぎというか、馬体重のわりに細身に映った。こういうコース向きではないと同時に、そうそう毎回、毎回、休み明けで満足できる状態には仕上がるわけもない日程の難しさを思わせた。58キロも圧倒的に不利。東京に戻って再評価したい。

 レース全体の印象度は、スプリンターズSに直結というには、ちょっと迫力が物足りない気がした。

 物足りないというと、新潟2歳Sも高く評価するには苦しい内容で、同日に「ワールドオールスタージョッキーズを組むせいだ」というのは、まったくその通りなのだが、かえってそんな理由でレースランクが低いことを証明するようで、やや切なかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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