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【凱旋門賞】シーオヴクラスが1番人気に浮上、エネイブルは来月今季緒戦

  • 2018年08月29日(水) 12時00分


◆クリンチャーも現地到着、いよいよ佳境を迎える

 この1週間は、ヨークのイボア開催、サラトガのトラヴァーズ開催をはじめ、世界各地で様々なカテゴリーの主要競走が行われたが、その結果の中で最も大きな意味を持つことになったのが、23日(木曜日)に英国のヨーク競馬場で行われたG1ヨークシャーオークス(芝11F188y)だった。このレースを境に、凱旋門賞の前売り1番人気馬が入れ替わったのである。

 イギリス、フランス、アイルランドのオークス馬が勢揃いすることが期待されていたのが今年のヨークシャーオークスだったが、イギリスオークス馬のフォーエヴァートゥゲザー(牝3、父ガリレオ)が最終登録の段階で回避。フランスとアイルランドの、2か国オークス馬対決となった。

 2歳時から頭角を現し、牝馬戦線の最前線を走ってきたのが、フランスオークス馬ローレンズ(牝3、シユーニ)だ。香港ダービー・香港クラシックマイルという、香港4歳シリーズ2冠を制したヘレンマスコットの姪にあたるローレンズ。1歳8月にドンカスター1歳市場という中級のセールに上場され、馬主ジョン・ダンス氏の代理人に20万ポンド(当時のレートで約2950万円)で購買され、北ヨークシャーに拠点を置くカール・バーク調教師の傘下に入った。

 2歳6月にドンカスターのメイドンでデビューすると、シーズン末まで4戦し、セプテンバー(父ディープインパクト)を鼻差退けたG1フィリーズマイル(芝8F)、G2メイヒルS(芝8F)という2重賞を含む3勝をマーク。今季のクラシック候補の1頭に数えられる存在となった。

 3歳初戦となったのがニューマーケットを舞台とした3歳牝馬3冠初戦のG1千ギニー(芝8F)で、先行する積極的な競馬を見せてビレスドンブルックの2着に惜敗。次走はフランスに遠征し、パリロリンシャンのG1サンタラリ賞(芝2000m)に出走して優勝し、2度目のG1制覇を達成。そして今季の3戦目となったのが、6月17日にシャンティーで行われたフランス版オークスのG1ディアヌ賞(芝2100m)で、ここも持ち前の先行力と強靭な粘り腰を存分に発揮して優勝。クラシック制覇の栄誉に輝いている。

 ローレンズにとって、ヨークシャーオークスにおける最大の鍵になると見られていたのが、初距離への対応だった。同馬の父シユーニは、これまでの代表産駒であるマイルG1・3勝のエルヴェディアをはじめ、マイル以下の距離を主戦場とした産駒が多かったのだ。その一方で、同馬の母リキャンビは、下級条件ながら2900m戦での勝ち鞍があり、母はスタミナの根源となりうる存在だった。

 ローレンズとは対照的に、3歳シーズンが進むにつれてメキメキその名がクローズアップされてきたのが、アイリッシュオークス勝ち馬のシーオヴクラス(牝3、父シーザスターズ)だ。

 牝系の水準は、シーザスターズの方がローレンズよりもだいぶ上である。なにしろ同馬、2頭のG1勝ち馬を含む4頭の重賞勝ち馬の妹にあたるのである。同馬の母ホーリームーンはイタリアの準重賞テルミデメラーノ(芝2200m)勝ち馬で、その3番仔がG2伊オークス(芝2200m)、G3伊1000ギニー(芝1600m)の2重賞を制したチェリーコレクトだ。同馬は現在、ノーザンファームにて繁殖牝馬として供用されている。

 ホーリームーンの4番仔が、G1リディアテシオ賞(芝2000m)、G2伊オークスを制したチャリティーラインで、同馬は現在、社台ファームで繁殖牝馬として供用されている。

 ホーリームーンの5番仔が、同じくG1リディアテシオ賞(芝2000m)、G2伊オークスを制したファイナルスコアで、同馬もまた現在は、ノーザンファームで繁殖牝馬として供用されている。

 ホーリームーンの6番仔が、G3ヴェルツィエーレ賞(芝2000m)勝ち馬ワードレス。

 そして、ホーリームーンの9番仔となるのが、シーオヴクラスである。1歳の暮れにタタソールズ12月市場の1歳セッションに上場され、同馬の父シーザスターズの現役時代の所有者であるツィー・ファミリーの代理人に17万ギニー(当時のレートで約2517万円)で購買され、ニューマーケットを拠点とするウィリアム・ハガス調教師の管理下に入った。

 デビューは今年の4月で、ニューマーケットのメイドン(芝8F)に出走して2着に敗れたものの、次走は強気にニューバリーのLRフィリーズトライアルS(芝10F)にぶつけ、ここを制してデビュー2戦目にして初勝利。続いて出走したニューバリーのLRアビングドンS(芝10F)でも勝利を収めると、同馬の4戦目となったのが7月21日にカラで行われたG1アイリッシュオークスだった。

 ここでシーオヴクラスは、G1イギリスオークス4着後、ロイヤルアスコットのG2リブルスデイルS(芝11F211y)で勝利を収めていたマジックワンド(牝3、父ガリレオ、1.9倍の1番人気)や、G1イギリスオークスを制した後、古馬相手のG1愛プリティポリーS(芝10F)でも2着に健闘していたフォーエヴァートゥゲザー(4.5倍の3番人気)ら錚々たる顔触れを相手に、最後方一気というド派手なパフォーマンスを見せて快勝。重賞初挑戦にして、クラシック制覇を果したのだった。

 仏愛オークス対決となったヨークシャーオークスに、一枚厚みを加えたのが、古馬代表としての参戦となったコロネット(牝4、父ドゥバウィ)だ。ここまで重賞制覇は、3歳時のG2リブルスデイルSと、今季初戦のミドルトンS(芝10F56y)の2度を数えるのみだが、その一方で、G1での入着経験を5度も重ねていたのがコロネットだ。例えば1年前のヨークシャーオークスでは、エネイブルの2着に入っていたし、今季2戦目のG1サンクルー大賞(芝2400m)では牡馬の一線級を向こうに廻しては鼻差の2着。前走G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y)でも、ポエッツワードの3着に健闘していた。

 そんな顔触れになったヨークシャーオークスだったが、結果はシーオヴクラスの独壇場となった。前走同様最後方からレースを進め、8頭立ての8番手で直線に向いたシーオヴクラスは、残り450m付近で鞍上ジェームズ・ドイルのゴーサインが出ると、スムーズに加速して残り1Fの標識を過ぎた辺りで先頭へ。最後は2着コロネットに2.1/4馬身差をつけ、G1連勝を飾ったのだ。

 ちなみにローレンズは、掛かり気味に先行した後、末を失い6着に敗退。戦前に取り沙汰された距離不安が、現実のものとなった。

 ヨークシャーオークスと言えば1年前、エネイブルがここをステップにG1凱旋門賞(芝2400m)に向かった一戦である。牝馬12F路線の最前線に躍り出たシーオヴクラスにも、当然のことながら、凱旋門賞への期待がかかるところだが、実を言えば現段階での同馬は、凱旋門賞の登録がない。同競走への登録が締め切られた5月9日の段階で、彼女はデビューこそ果たしていたものの未勝利馬で、登録されなかったのも無理はない状況であった。

 シーオヴクラスが凱旋門賞に出走するためには、レース4日前の10月3日に設けられている登録ステージで、12万ユーロ(約1560万円)を支払って追加登録をする必要がある。陣営が果たして追加登録に踏み切るかどうか、今後の大きな焦点となることは間違いない。

 ブックメーカー各社は既に、同馬が追加登録とするという想定のもとにオッズを発表しており、大手ブックメーカーのラドブロークスとコーラルはいずれも、シーオヴクラスをオッズ5倍の1番人気に浮上させている。

 一方、同じ大手でもウィリアムヒルは、依然として連覇を狙うエネイブル(牝4、父ナサニエル)がオッズ5倍の1番人気で、シーオヴクラスはオッズ5.5倍の2番人気となっている。

 そのエネイブルだが、シーズン開幕直前に負った膝の故障で、今季は未だに一度もファンの前に姿を見せていない。しかし、ここへ来てようやく順調に調整が進められているようで、管理するジョン・ゴスデン調教師は、9月8日にケンプトンで行われるG3セプテンバーS(AW11F219y)が復帰戦になると明言している。

 日本代表のクリンチャー(牡4、父ディープスカイ)も、25日にシャンティーに到着した。

 本番まであと1か月余り、凱旋門賞戦線がいよいよ佳境を迎えようとしている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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