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【岩田康誠×藤岡佑介】第1回『自身3年ぶりのGI制覇 天皇賞(春)は岩田騎手の真骨頂』

  • 2018年09月12日(水) 18時02分
▲札幌開催中の骨折、佑介騎手が目撃した岩田騎手のびっくりエピソード

先週末にソウルで行われたコリアカップ(韓国GI)を、ロンドンタウンで連覇した岩田康誠騎手。この春には、天皇賞をレインボーラインで勝利するなど、大舞台で無類の強さを見せる岩田騎手ですが、これが実に3年ぶりのGI勝利でした。「岩田さんのGI勝ちが3年空くなんて」と驚く佑介騎手。岩田騎手が語る、この間の知られざる胸の内とは? また「京都の長丁場の岩田騎手は要注意」と佑介騎手。その真意とは!? (構成:不破由妃子)

うれしいんやけどうれしくない、複雑な気持ちやった


佑介 岩田さん、今日はよろしくお願いします。聞いたところによると、こういう取材はかなり久しぶりだとか。

岩田 うん、すごく久しぶりやね。

──私たちメディア側には、「岩田騎手はもうメディアの取材は受けない」という情報が入ってきていて、残念に思っていたのですが…。

岩田 そんなこと一度も言ってねぇー(笑)!

佑介 マスコミサイドの誤解があったんじゃないですか? だってジョッキーたちは、誰もそんな話聞いたことないですもん。今回も僕がオファーしたら、「いつでもええで」って言ってくれましたよね。

岩田 うん。でも、かなり久しぶりなのは確かやな。

佑介 じゃあ「封印を解いた」ということにしておきましょう(笑)。この春は、天皇賞で3年ぶりのGI制覇(レインボーライン騎乗)。岩田さんのGI勝ちが3年空くなんて初めてじゃないですか?

岩田 レッツゴードンキの桜花賞以来やったから…。3年間、長かったなぁ。もう勝てへんちゃうかなと思った。それまではポンポンとコンスタントに勝たせてもらっていたから、そういう状況に慣れていたのもあったし…。そんななかでの3年の月日というのはすごく長く感じたね。その間、ケガでの休養があったわけでもないし、それまで通り普通に乗っていたから。

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▲岩田「3年間、長かったなぁ。もう勝てへんちゃうかなと思った」


佑介 けっこうしんどい時期でしたか?

岩田 うん、しんどかった。GIだけではなく、勝ち星自体も下がっていたし。やっぱり納得できひんところがあったね。だから天皇賞(春)を勝ててホッとしたけど、馬が無事に上がってこられなかったから…(右前繋部浅屈腱不全断裂、現在は優駿スタリオンステーションで種牡馬に)。うれしいんやけどうれしくないみたいな、複雑な気持ちやった。

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▲阪神大賞典から連勝で天皇賞(春)を勝利、馬にとって初のGIタイトルとなったが… (C)netkeiba.com


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▲表彰式でも苦しい表情を見せた岩田騎手 (C)netkeiba.com


佑介 わかります。どうしても喜び切れない。斜行などがあったときもそうですけど、やっぱり後味が悪くなりますから。馬券を買っているファンもそうやと思うけど、乗っている側もそれは同じですよね。結果的に、レインボーラインにとって最後のレースになってしまったわけですが、その最後のレースを勝ったのと勝てなかったのでは全然違いますから、勝ち切れたのは大きかったと思います。それに、レース自体は、“これしかない!”というような岩田さんらしい競馬でした。

岩田 脚を残して残しての直線やったからね。

佑介 普通は道中で脚をタメ切ったんやったら、直線では外を選択すると思うんです。でも、岩田さんの場合、斜めに内に行くっていうね。あれこそ“ザ・岩田さん”。岩田さんにしかできひん進路取りですよ。

岩田 あれで外を選んでいたら、どうなってたんかな。

佑介 何とも言えませんが、着差が着差ですから(2着シュヴァルグランとはクビ差)、外を選択していたら勝っていなかったかも…。とはいえ、長丁場にしてはみんなの意識が前に傾いた前掛かりの競馬でしたから、岩田さんの戦法がフルに生きる流れでしたよね。

▲3年間GIを勝てなかった胸中を明かす岩田騎手

偶然みたいに言いますけど、絶対に狙ってますよね


──前掛かりの競馬になるであろうことは、戦前から読んでいたんですか?

岩田 そんなん読めるかいな(笑)。ただ、向正面でけっこうみんな動いていたので、あとは上手いこと3〜4コーナーの坂を下れたら、最後はいい脚を使えるんちゃうかなとは思ってた。馬がすごく良くなっていたこともあるけど、展開もドンピシャだったよね。

佑介 そもそも僕のなかで「京都の長丁場は岩田さん」というイメージがあって。

岩田 そう? どういうこと?

佑介 僕の場合、長丁場では自分で競馬を作っていきながら後ろにも脚を使わせて、なおかつ積極的に勝ちにいく…という展開をイメージすることが多いんです。実際にそういう競馬をすると、大抵みんな脚を使ってくれるんですが、岩田さんだけは、脚を使い切ってくれない。だから、最後の最後に狙いすまされて負けるんです。だから、僕が負けるとしたら、絶対に岩田さんの競馬なんですよ。

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▲佑介「大抵みんな脚を使ってくれるんですが、岩田さんだけは脚を使い切ってくれない」


岩田 なるほど。ズボッとハマるやつやな。

佑介 長丁場って、切れ味よりも長くいい脚を使ってくる馬が多いから、そもそもタメて切れ味で勝負しようとするジョッキー自体が少ないと思うんです。そもそも、やろうと思ったところで簡単にできることではありませんからね。でも、岩田さんはそれをやってくる。しかも、直線も縫ってきますからね。いい感じで締めながら4コーナーを回ったはずなのに、なぜか岩田さんは叫びながら内から抜けてくる。締めたはずやのに…みたいな(笑)。

岩田 俺からすれば、「ここしかないー!!!!!」みたいな感じやね。

佑介 今年の春も2回くらいありましたよ。ゴールしてから「岩田さん、どこから出てきたんですか!?」って聞くと、「ああ、開いたわ」って(笑)。偶然みたいに言いますけど、絶対に狙ってますからね。本当にすごい。

──そう考えると、改めて天皇賞(春)は岩田さんの真骨頂だったわけですね。

佑介 そう思います。だから、上半期のGIのなかで、天皇賞(春)が一番ジョッキーのテクニックが出たというか、ジョッキーが勝たせたレースだったんじゃないかなと僕は思ってます。

(次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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