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【池添謙一×佐藤哲三】『“ホントは語りたくない”ブラストワンピースとのダービー』/第1回

  • 2018年09月27日(木) 18時01分
哲三の眼

▲『哲三の眼!』で何度も取り上げてきた池添謙一騎手が対談ゲストで登場!


※当記事は2018年9月27日配信分の再掲です
今週から特別編として、当連載で何度もファインプレーを取り上げてきた池添謙一騎手をゲストに迎えた対談企画をお届け! 美浦への長期滞在・オルフェーヴル産駒でのクラシック参戦・ダービーで2番人気に推されたブラストワンピース騎乗など、今春は特にトピックが多かった池添騎手。その上半期を振り返るほか、哲三氏が絶賛するレースぶりや騎乗技術を再分析!また秋のビッグレースに向けての意気込みなどを伺います。(構成:不破由妃子)

「まだ誰にも話していないんですが、あの日以来…」


哲三 謙くん、忙しいなか今日はありがとう。

池添 佐藤さん、お久しぶりです! 2年ほど前にトレセンでお会いして以来ですね。いつもコラム読んでますよ。何度か僕の騎乗も取り上げてもらって。

哲三 うん。謙くんのことは昔から巧いなぁと思っていたし、この春も目を引く騎乗が多かった。さっそく振り返っていきたいんだけど、ダービーは……謙くんにとっては悔しい一戦になってしまったね。

池添 はい。ホントは語りたくないくらいです(苦笑)。「皐月賞は速い馬、ダービーは運がいい馬、そして本当に強い馬が菊花賞を勝つ」という格言があるじゃないですか。この格言を作った人はすごいなと思って。今さらですが、この格言が身に染みました。

哲三 それだけ自信があったということやな。

池添 はい、勝てると思ってました。まだ4戦ですけど、新馬からずっと競馬を教えてきて、ダービーを獲れる器だと確信して臨んだので。でも、そのダービーでは、すべてが上手くいかなくて…。

哲三の眼

▲自信をもって臨んだダービーは、ワグネリアンからコンマ2秒差の5着(撮影:下野雄規)


哲三 毎日杯からプラス10キロ(532キロ)。ちょっと太かったかな。

池添 2週連続で僕が乗ってビッシリ追ったんですけど、思ったように体が減らなくて。さらに、ゲートでガタついて少し立ち遅れて、2コーナーに入るときにリカバリーはできたんですけど、結果論として、そこでポジションを取り過ぎました。ジェネラーレウーノがもうちょっと頑張ってくれると思っていたからこそのポジションだったので。

哲三 コラムでも何度か書いたと思うけど、乗れるジョッキーほど展開が見えすぎて、早めにいいポジションを取ったことで詰まってしまうことがある。あのダービーの謙くんは、まさにその通りになってしまったね。

池添 ホントに誤算でした。向正面でもし僕がコズミックフォースの後ろを確保していれば、福永先輩は壁ができなかったと思うんですよね。でも、その時点で斜め前にいたダノンプレミアムとエポカドーロを見ていたので、正直、ワグネリアンは気にしていなくて。

哲三 そういえば祐一も、「謙一はまったく自分を意識していなかったと思う」ってどこかで書いてたな。

池添 そうなんですよ。だからこそジェネラーレウーノの後ろだったんです。僕の読み通りの展開になっていたとしたら、4角を回るときに外を見ることもなかったし…。外に出したいなと思って、チラッと福永先輩を見たんですよね。

哲三 となれば、祐一は当然締めるよな。

池添 はい、ギュッときました。で、僕をマークしながらピッタリ4角を回って。

哲三 視線のやり取りなんて、コンマ1秒にも満たない攻防。まぁそこが騎手の醍醐味でもあるわけだけど、結果的に謙くんは締められた後に外に切り替えることになって。

池添 あそこで切り替えずにもう少しだけ我慢していれば、ワグネリアンとコズミックフォースのあいだがほんのちょっとだけ開くんですよね。そこを突いていたらどうなっていただろう…とか、もうホントに反省ばっかりのレースで。勝負なのでダメなのはわかっているんですけど、どうしても“たられば”ばかり考えてしまいます。まだ誰にも話していないんですが、あの日以来、毎日ダービーのレース映像を観てるんですよ。たぶん福永先輩より僕のほうが観てると思います(笑)。

哲三の眼

▲「誰にも話していないんですが、あの日以来、毎日ダービーの映像を観てるんですよ」


哲三 毎日!? そこまで悔しい思いをしたことって今までにあった?

池添 ないです。本当に獲れると思っていたので、だからこそそれが自分に対する戒めなんです。本当に悔しい。そのひと言に尽きます。ただ、あのプラス体重であそこまで巻き返してくれたのは馬の力だと思いますし、すべてが上手くいかなくてあの着差、あの着順。改めて走る馬だなと思いましたね。

哲三 トップジョッキーはみんな負けず嫌いやけど、あんまり表には出さないやん。でも、謙くんはそうじゃない。40歳近くになっても「めちゃめちゃ悔しい!」と素直に言えて、それを「次は絶対に勝ってやる」という思いにつなげていけるのであれば、僕はそれだけで十分なんじゃないかと思う。だから、もうそろそろ“戒め”は止めてもいいんじゃない(笑)?

池添 まぁそうなんですけどね…。ブラストとGIを勝ったときに止めるのか、それとも来年のダービーまで見続けるのか、自分でもどうなんだろうと思って。とりあえず今のところは、最低でも一日一回は絶対に観てますけどね。

哲三 謙くんにしてみれば、馬の力を出し切れなかったという悔しさで一杯だと思うけど、そこが終わりではないので。さっきも言ったように、次につながっていくものだと思うし、次というのは次走だけじゃないしね。これから謙くんとブラストワンピースが何戦するかはわからないけど、一番のピークはもっと先にあるはずだから。ダービーという一番最初の門は上手く開けることができなかったかもしれないけど、それを糧に人馬で上がっていけばいいと思うし、そういう関係をぜひGIでファンに見せつけてほしいなと思ってるよ。

哲三の眼

▲「次につながっていくものだと思うし、次というのは次走だけじゃない。一番のピークはもっと先にあるはず」


(文中敬称略、次回へつづく)

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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