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急坂を超えてからの猛追はまさに圧巻/スプリンターズS

  • 2018年10月01日(月) 18時00分


◆父アドマイヤムーンにとっても嬉しい後継馬の誕生

 1番人気に支持された5歳牡馬ファインニードル(父アドマイヤムーン)が、春の高松宮記念につづきスプリントGI連覇を達成した。これは2013年のロードカナロアなど、史上5頭目の快挙だった。

 と同時に、種牡馬アドマイヤムーン(父エンドスウィープ)と、種牡馬スウェプトオーヴァーボード(父エンドスウィープ)は、輸入種牡馬エンドスウィープの父系(その祖父ミスタープロスペクター)として、2頭でスプリントGI「高松宮記念、スプリンターズS」5連勝となった。

 レース後、1分08秒3(33秒0-35秒3)の勝ち時計は、3歳牡馬ラフィングマッチ(父タイキシャトル)の勝った10R「勝浦特別1000万下」の1分08秒6(33秒8-34秒8)とほとんど同じではないか、という声があったが、メインの出走馬がまだパドックから本馬場に向かう前、数分間ほどコースには音を立てての豪雨があった。10Rと同じ稍重発表でも、渋った馬場に豪雨のダメ押しなので、11Rは、実際は「重馬場」に近かった。

 ファインニードルは、当日輸送なしの中山なので480キロ近くあると推測したが、香港やセントウルSとほぼ同じように470キロ。でも、少しも細くみえなかった。スプリンターなので研ぎ澄まされた馬体とはいえないが、ファインニードルは3歳の春が470キロ前で、たまたま冬場に480キロ台はあったが、トータルすると約3年間、馬体重はほとんど変化していない。

 充実すると馬体重が増加する馬もいるが、タフに何シーズンもトップに君臨するエースは、父アドマイヤムーンも、ディープインパクトも、ロードカナロアも、牝馬のブエナビスタもほとんど変動がなかった。オルフェーヴルや、ジェンティルドンナは研ぎ澄まされ、鍛えられると若駒の頃よりむしろスリムになっている。ベテランになってふっくら映った印象もあるゴールドシップだってスリムになっていた(ここは競馬ファンのわたしたちは大いに反省したい)。

 渋った馬場のため、また、本馬場入場で先に猛ダッシュをかけたりする激しい一面もあるため、前半の行きっぷりは良くはみえなかった。最後の坂を上がってから猛然と伸ばした大きなストライドがファインニードルの真価。オーナーがゴドルフィンなので来季も現役かどうかは難しいが、良馬場ならもっと切れ味は爆発する。仮に6歳になってもこういう馬体重の変動しない馬は陰りをみせるのはもっと先のことと思える。

現役を続ければ、この先長く活躍できそうなファインニードル(撮影:下野雄規)


 日本では非常に珍しい、「産駒のこなす距離変幻自在」の種牡馬シャーペンアップ(父エタン)のクロスを秘め、ブリッシュラックなどの父として知られる祖母の父ロイヤルアカデミーIIもタフな種牡馬。父アドマイヤムーンには強力な後継馬ができた。

 2着ラブカンプー(父ショウナンカンプ)は、これはえらいというしかない。2歳夏から休養らしい休みはなく、とくにこの夏はサマースプリントシリーズに全力投球だった。調教はもともと動かないが、今回は同厩ダイメイプリンセス(父キングヘイロー)との併せ馬での遅れっぷりをグリーンチャンネルで確認し、評価を下げたファンが多かっただろう。ワンスインナムーン(父アドマイヤムーン)に先手を奪われる形も苦しかったはずだが、苦しい坂で伸びて抜け出したから驚いた。クビ差2着。勝ったにも等しい内容である。

 3歳馬の連対は、不良馬場を押し切って勝った2007年のアストンマーチャン(父アドマイヤコジーン)以来。この馬場だから3歳牝馬の定量53キロは有利とはいえ、調教は…あくまで練習。勝負は…レース本番。海千山千のベテラン古馬ではないからすごい。好成績のセントウルS組 (この10年間で5勝)を軽視してはいけなかった。

 その、同じ森田直行厩舎の5歳ダイメイプリンセスが小差4着。こちらも夏にきびしいレースを連戦してきたので10番人気だったが、上がり34秒4で突っ込んだから立派。出負けせず、馬場が良かったらもっと接戦に持ち込めたろう。

 4000勝の武豊騎手がテン乗りになった7歳牡馬ラインスピリット(父スウェプトオーヴァーボード)は、巧みにインをついて進出したが,伸びかかった坂で前が狭くなる不利が痛かった。単勝13番人気で複勝1400円。武豊騎手自身のGI複勝最高額。さすがの好走だった。

 モレイラ騎乗で2番人気になったナックビーナス(父ダイワメジャー)は、坂下から手ごたえが鈍って7着。パドックの気配など、ひときわ光ってみえるほど好状態だったが、モレイラ騎手によると「馬場のせいか、走法のバランスが悪かった」。好スタートからいい位置につけたが、大型馬だけに直前の雨で滑る馬場に変わったのが響いたかもしれない。めったに崩れない自在型で、以前とは別馬のように気を抜かなくなったのは確かだが、ちょっとリズムを崩した直線で、2〜3着の合計が13回もある元来の追い比べでの甘さが重なって出てしまったのだろう。

 セイウンコウセイ(父アドマイヤムーン)は、今回はちょっと動きが小さくみえた。それでも巧者に近い渋馬場なら好勝負必至と思えたが、いざ追い出して案外。相変わらず難しい馬のままである。

 ワンスインナムーンの失速は、直前に悪化した芝コンディションを考慮すると、前半33秒0がいつも以上にきびしいペースだったということか。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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