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7年目を迎えたIPATでの地方競馬の発売

  • 2018年10月09日(火) 18時00分

ネット投票が拡大したが、いずれは…



 2012年10月に始まったJRA-IPATでの地方競馬の馬券発売が、今月で7年目に入った。

 これまでの6年間で地方競馬の馬券の売上げはどの程度の変化があったか。IPATでの発売が始まる前年度、2011年度(2011年4月〜2012年3月)の総売得額3314億3768万2700円は、じつは地方競馬全体の売上がピークとなった1991年(9862億円余り)以降で底となった年。IPATでの発売とともに売上は徐々に回復し、昨年度(2017年4月〜2018年3月)は5525億3925万6190円と、2011年度との比較で166.7%まで回復を見せた。

 これはIPAT発売によるところも大きいが、それだけが要因ではないのが、IPAT発売が行われていないばんえい競馬でも2011年度の103億6190万円余りから、218億8690万円へと倍増していることでもわかる。

 IPATでの地方競馬発売が7年目に入ったこの10月初頭、まったくの偶然だが、興味深い出来事があった。

 記念すべきJRA-IPATによる地方競馬の馬券の発売初日となるはずだったのは、6年前の2012年10月2日(火)。「はずだった」というのは、その2日前、9月30日(日)のJRA阪神開催が台風の影響で10月1日(月)に代替開催となり、その翌日は銀行口座がロックされる日となって、IPAT発売初日も10月3日(水)に延期となったということがあった。ダートグレードではまさに10月2日の白山大賞典がIPATで発売される最初のレースとなるはずが、金沢競馬にとっては、とんだとばっちりだった。

 そして今年、偶然にも6年前と同じ曜日まわりのカレンダーで、9月30日(日)のJRA阪神開催が、これまた偶然にも台風の影響で延期。金沢競馬にとっては6年前の悪夢再びで、今年も10月2日(火)に予定されていた白山大賞典が、一旦はIPATで発売されないことになった。ところがご存知のとおり、阪神開催は代替の代替で火曜日開催となり、一転、白山大賞典は元通りIPATで発売されることになった。その結果、今年の白山大賞典の売上は、前年に記録した2億8969万円余りというレコードをさらに大きく更新する3億7552万円余りの売上となった。

 そしてJRA阪神の代替、代替の火曜開催でとばっちりを受けることになったのが、10月3日(水)の船橋・日本テレビ盃……と、思われた。しかしいざフタを開けてみると、IPAT発売不可となった日本テレビ盃の売上が5億280万円余りで、これまでの最高だった2013年の4億4940万円余りを5千万円以上、上回るレコードとなったというリリースにはちょっと驚かされた。

 この6年での地方競馬の馬券の売上の伸びは、IPAT発売によるところが大きいが、それだけが要因でないというのは、最初にばんえい競馬の例でも示したとおり。その要因を示すのは簡単なことではないが、考えられるのは、ネット投票のハードウェアが電話・パソコンからスマホへと移行して、いつでもどこでもという利便性が増したことがまずひとつ。もうひとつは、IPAT発売によって地方競馬の馬券も買うというファンの裾野が広がったことも考えられる。2011年度には地方競馬の売上全体に占める電話・ネット投票の割合が35.5%だったものが、2017年度にはじつに68.7%にもなっている。

 また別の要因としては、ナイター・薄暮開催の増加によって、開催時間帯が変化してきたことも挙げられる。園田競馬場が金曜限定とはいえナイター開催を始めたのは2012年のこと。船橋競馬場では2015年6月に始まったナイター開催が、今年度からは通年ナイターとなる。あらたに照明が設置された佐賀競馬場では、今年度から通年での薄暮開催が行われる。そして盛岡競馬場にもLED照明が設置され、9月29日の開催から薄暮競馬がスタート。近年、10月の体育の日に行われてきた盛岡のマイルチャンピオンシップ南部杯は、これまで日没の関係で16時40分発走の最終レースとして行われていたが、今年は17時30分の発走で、そのあとに最終レースも組まれた。結果、今年の南部杯は初の10億超えとなる11億4897万3500円を売り上げた(従来のレコードは2017年の9億1385万円余り)。

 変わったことでは、グリーンチャンネル地方競馬中継の放映日数増加もある。日曜日の中央競馬中継に続いて、17時からの地方競馬中継が始まったのは昨年4月のこと。今年度からはそれがほぼ毎週となり、じつは今年、グリーンチャンネル地方競馬中継の放映日数が120日以上にもなり、中央競馬中継の日数を上回っている。

 ナイター開催の話に戻ると、2022年に予定される名古屋競馬場の移転後は、ナイター開催の計画がある。もはや地方競馬は薄暮・ナイターが当り前で、むしろ昼間開催のほうがレアなものとなりつつある。

 IPATでの発売、薄暮・ナイター開催への移行、それらの相乗効果による売上増、そしてそれ以外の何の要因によるかわからないままの売上増は、当然のことながら未来永劫ではない。

 2011年12月に荒尾競馬が、2013年3月に福山競馬が廃止されたあとだけでも、地方競馬をとりまく環境は相当に変わった。しかしいずれまた売上が頭打ちとなるのは間違いなく、そのときに打つべき次の手が何か、今のうちから考えておく必要はあるだろう。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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