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馬も騎手も経験値 南関の若手騎手が他地区期間限定騎乗で本当に得たもの

  • 2018年10月09日(火) 18時01分
馬ニアックな世界

▲佐賀で騎乗中の岡村健司騎手(船橋)、佐賀リーディング2位の飛躍の秘密


「元祖アイドルジョッキー」と言われ90年代後半から2000年代前半に活躍した小田部雪元騎手(中津→荒尾)は、通算196勝(うち重賞3勝)という成績について「たくさんレースに乗せていただいて、勘を養うことができたから」とレース経験の大切さを話していました。競走馬は「10回の調教より1回のレース」と言われることもありますが、もしかしたらそれは騎手でも同じことが言えるのかもしれません。それを何より感じるのは今年の岡村健司騎手の活躍。2016年4月に船橋競馬でデビューし約5カ月で4勝を挙げた彼は、その後佐賀競馬で期間限定騎乗をスタート。今年は佐賀リーディング2位の85勝を挙げ、騎乗数もトップに肩を並べます。岡村騎手は佐賀でどう変わったのでしょうか。

真島大輔騎手(大井)の紹介で佐賀へ


 長野県出身の岡村騎手が騎手を志したのは、動物が好きで乗馬を習っていたことがきっかけでした。

「高校生の頃、しっかり馬術をやろうと思って、週末は千葉県の乗馬クラブに通っていました。そこに、のちの所属先になる船橋の椎名廣明厩舎の休養馬がいたり、奥さんが乗馬をしに来ていたことで船橋競馬との縁ができました」

 2016年4月、20歳で船橋競馬からデビュー。初勝利はそれから1カ月後でした。

「デビュー戦はスタートを決められたのですが、二の脚がつかなくて最後は差して3着でした。そこから上手くいかなくて、厩舎のみなさんに可愛がってもらっていい馬にも乗せていただいていたのですが、初勝利まで1カ月かかりました。早めから抜け出してラストは馬も脚が上がっていたんですが、必死に追って勝ちました。勝った時の気持ちは何とも言えない喜びで、『やっと勝てた』とホッとしました」

馬ニアックな世界

▲「初勝利まで1カ月かかりました。勝った時の気持ちは何とも言えない喜びで…」


 デビューした船橋の地では、高校時代に全日本馬場馬術で岡村騎手が跨った馬が誘導馬をしていました。

「タカラスノーホワイトという馬で、今は誘導馬も引退したのですが、その馬に誘導されて返し馬をするって不思議な気持ちでしたね」

 そんな縁のある地でジョッキーとして日々奮闘していましたが、「結果を出せずに、だんだん自分でも上手くいかない感じがしていました」と歯がゆさを感じ始めます。そんな時、椎名厩舎の主戦で、父親が佐賀の調教師である真島大輔騎手(大井)の紹介で、佐賀で期間限定騎乗をスタートすることになりました。

 期間限定騎乗は全国の地方競馬で行われているもので、3カ月とか半年とか、一定期間のみ短期移籍できる制度。赤岡修次騎手(高知)や吉原寛人騎手(金沢)のようなトップジョッキーが南関東で期間限定騎乗をすることもあれば、若手騎手が腕を磨くために期間限定騎乗で修業をするということもあります。

 岡村騎手は2016年9月〜2017年5月(所属:大島静夫厩舎)、2017年12月〜2018年11月(予定、所属:真島元徳厩舎)で佐賀で期間限定騎乗。

「経験値を上げたくて佐賀に行きました。厩舎のみなさんが良くしてくださって、『あの厩舎は調教に乗りに行ったら、レースでも乗せてくれるよ』と教えていただき、積極的に調教に乗りました。普段調教に乗っている馬がレースに出走する時は調教がなくなって時間が空くので、他の厩舎に行って『運動している馬でいま調教できる馬いますか?』ってたくさん動きました。大島先生は『とりあえず騎乗数を集めないと』と、厩舎の馬は3〜4頭だけ鮫島克也騎手に乗せて、あとは全部僕に任せてくださったので大きな力になりました」

 2016年は佐賀で約4カ月騎乗し、16勝。船橋で「噛み合っていない」と感じていたことは解消されたのでしょうか。

「馬場を何周乗ったか分からないくらいまでたくさん調教に乗って、疲れ果ててヘトヘトになると無駄な力が入らずに馬に乗れるので、自然と馬との波長が合うような気がするんです。そういうのは佐賀でないと経験できませんでした。開催日の今日も朝1時から8時過ぎまで、10分休憩のみで18頭の調教に乗って、レースは7頭。こうして調教もレースも乗せていただいて自分にとっては財産ですし、体力もつきました」

 佐賀競馬場は内ラチ沿いの馬場が重たいため、1〜2頭分空けて走るのがセオリーですが、レースにたくさん騎乗することでコース攻略も見えてきたと言います。

「最初は全然分からなかったですけどね。初めて乗った時は、結構内を空けているつもりでも、『あんな所を通ったら重いからダメだ』って言われました。調整ルームで毎日パトロールビデオを見て、乗った距離感と映像で見た距離感を照らし合わせてどの辺がいいのかを考えました。最近では、みんなが内を空けるので僕はちょっと内を通るようになりました。真島先生からも距離ロスなく乗ることを教えられていますし、馬場がある程度湿ると、佐賀は内が有利だと思うんです」

 たしかに、10月7日のレディスヴィクトリーラウンドに地元騎手として参戦した時も、内目をついて1、2着に食い込んでいました。

馬ニアックな世界

▲佐賀では開催日も調教にたくさん騎乗してからレースへ


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▲「無駄な力が入らずに馬に乗れるので、自然と馬との波長が合うように」


佐賀での騎乗も11月25日まで、いま思うこと


 今年4月には重賞・佐賀皐月賞をリンノゲレイロで制覇した岡村騎手。

「その前の飛燕賞を1番人気で負けたのが悔しくて忘れられません。行きたがる馬で、それをどう引っ張るかが重要なのですが、レース後は引っ張って力果てたのと悔しさで、鞍を外したその場に倒れ込んでしまいました。リンノゲレイロにはいろいろ教えてもらいましたね」

 悔しさも喜びも味わった佐賀での期間限定騎乗も11月25日まで。そろそろ終わりが近づいてきていますが、自身では何が一番成長したと感じているのでしょうか。

「人間性ですかね。椎名先生の奥さんって元騎手(旧姓:稲川由紀子)で、『乗り方には人間性が出るから、人間性が良くなれば乗り方も良くなる』と言われました。頭脳戦なところもあるので、まだまだ未熟ですから人間的にもっと成長できたらと思います。南関東に帰ったら、たくさん乗り鞍を集めて、まずは1つ勝ちたいですね。厳しい世界だとは分かっていますが、コツコツやって5年か10年か20年先か、いつかは上を狙えるジョッキーになりたいです」

 佐賀で2回にわたる約1年8カ月の期間限定騎乗。ここでの経験を糧に激戦区の南関東での活躍を楽しみにしています。

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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