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節目の第10回ジョッキーベイビーズ(前編)、今年も個性豊かなメンバーに

  • 2018年10月10日(水) 18時00分
生産地便り

節目の第10回ジョッキーベイビーズが行われた

姉は過去3着、藤田菜七子騎手と対戦した経験があるエリートも


 今年でついに10回目の節目を迎えることになった「全国ポニー競馬選手権、ジョッキーベイビーズ(以下JB)」。私事ながら、第1回目から欠かさず現地取材させて頂いているので今年は感慨深いものがあった。当初はここまで継続するかどうか全く予測できなかったのだが、紆余曲折しながらルール改正を繰り返し、何とか10回目まで漕ぎつけることができた、という印象だ。

 10月6日(土)。日本海を北上中の台風25号がもたらす強い暖気が関東地方に入り、東京はひどく暑かった。朝の気温が13度しかない新千歳空港を飛び立ち、お昼前に東京競馬場入りした時にはすでに気温が30度にも達していた。一気に汗が噴き出てきて、顎から滴り落ちる。ギラギラ照りつける太陽光線が眩しすぎる。立ちくらみしそうになるほどの熱気を感じながら、これから2日間に及ぶ取材のことを考えると気が重くなりそうだった。

 今年も全国の予選を勝ち抜いた8人の騎手が東京競馬場に集まってきた。午後2時。恒例の説明会と騎乗馬抽選からスケジュールが始まった。

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前日の説明会と抽選会風景。左ワッソルメン・エミさんから奥藤原さん

 不安と緊張に包まれ、手探り感満載の中でスタートした第1回JBの時とは異なり、10回目ともなると、妙にこなれた雰囲気が漂う。というのは、今回の8人のうち、2人が昨年に続いて連続出場すること、また別の2人は兄姉が過去に出場しており間近で観戦した経験を持つこと、などがその主な理由だが、それ以外にも今では過去のレース映像が動画サイトなどでいくらでも見られる時代なので、情報を得やすい環境が整ってきたことも大きい。

 さて、今回の第10回JBの出場者は以下の通り。

1 ワッソルメン・エミさん (中1)沖縄
2 吉永 梨乃さん     (小5)九州
3 岡 航世(こうせい)君  (中1)関西
4 吉田 夏希(なつき)さん (中1)東海
5 木村 暁琉(あきる)君  (小6)長野
6 神馬 壮琉(たける)君  (小6)関東
7 加藤 雄真(ゆうま)君  (中1)東北・新潟
8 藤原 結美(ゆみ)さん  (小6)北海道

 説明会の後の抽選会では、例によって1番のワッソルメン・エミさんより、まず「騎乗馬を引く順番を決めるためのくじ」を引くことになった。8人がそれぞれ番号を引き、次に1番を引いた加藤雄真君より、今度は馬名の記された紙を引く騎乗馬抽選に移った。その結果、加藤君は昨年と同じ「栗姫」を引き当てる運の強さを発揮したのには驚かされた。

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栗姫を引いた加藤雄真君

 騎乗馬は以下の通り決定した。

1 ワッソルメン・エミさん タムタム
2 吉永 梨乃さん     ハショウボーイ
3 岡 航世君       エンベツクイーン
4 吉田 夏希さん     ゴット
5 木村 暁琉君      ヒメ
6 神馬 壮琉君      銀次郎
7 加藤 雄真君      栗姫
8 藤原 結美さん     ドリームスター

 沖縄代表のワッソルメン・エミさんは、アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれたハーフで、与那国馬のいる「うみかぜホースファーム」で日々練習している。色白で、日本語と英語の両方を話すバイリンガルである。父母と2人の弟の一家で東京へやってきた。将来の夢は「アニマルレスキュー」だという。馬の心を読みとり、馬に負担をかけずに乗りたいと抱負を語っていた。

 吉永梨乃さんは、過去3回出場歴のある彩乃さんの妹だ。九州予選では姉の調教したルナクイーンで見事に優勝し、代表の座を勝ち取った。「姉が果たせなかった1着を取りたいです」と密かに闘志を燃やしていた。

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前日練習を行う吉永梨乃さんとハショウボーイ

 岡航世君は、8人中最も身長があり、スラリとスタイルが良い。水口乗馬クラブに吹田市の自宅から1時間余をかけて毎週通っている。大学馬術部を経て競馬の世界で働きたい希望だという。「こうと決めたら意志を通す子」とは母の弁だ。

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前日練習を行う岡航世君とエンベツクイーン

 吉田夏希さんもまた、水口乗馬クラブに通う。今年6月、川崎競馬場で収録された「炎の体育会TV」にて、後藤蒼次朗君(昨年の2着)、山内七海さん(一昨年の沖縄代表)とともに藤田菜七子騎手と対戦した経験を持つ。また第7回(2015年)のJBに姉の彩音さんが出場し3着に入っている。

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前日練習を行う吉田夏希さんとゴット

 木村暁琉君は昨年に続いて2度目の出場。昨年は7着と残念な結果に終わっただけに、今年はリベンジに燃えている。小回りでアップダウンのある高ボッチ高原の草競馬で代表の座を獲得しただけに馬を操作する技術は折り紙つきだ。

 神馬壮琉君は地元府中の乗馬少年団所属で、東京競馬場はいつも通う練習場所だ。地の利を生かして、上位を目指す。競馬学校で行われた関東予選ではヒメに騎乗し圧勝。今回は銀次郎での挑戦である。

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前日練習を行う神馬壮琉君と銀次郎

 加藤雄真君は、前述の通り、早くも騎乗馬抽選から強運ぶりを如何なく発揮して、待望の栗姫を引き当てた。これで3年連続の地区代表で、すでにベテランのような余裕すら感じさせる。

 藤原結美さんはハイレベルな北海道予選で接戦を制し、待望の代表となった。実家は新ひだか町三石で生産牧場を営んでおり、それを継ぐ決心を固めているしっかり者である。

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前日練習を行う藤原結美さんとドリームスター

 午後3時。各自、乗馬姿に着替え、事務所から乗馬センターまで移動し、そこで騎乗馬と対面した。2日間それぞれの騎乗馬にはJRA職員が“厩務員”として付き添い、馬装や手入れなどの指導をしてくれる。

 馬装を終えてからはまず担当のJRA職員が騎乗し、入念にウォーミングアップをして、いよいよ8人が騎乗練習を開始した。以前と比較すると、騎乗時間はかなり短縮されている。今年も実際に8人が騎乗し始めたのは、午後4時近くになってからであった。ポニーにできるだけ負担をかけないようにとの配慮でもあるし、おそらくは相対的に騎乗技術が進歩していることとも関係があるだろう。

 部班での駈歩練習の際に、木村暁琉君の乗るヒメが止まらず暴走気味になる場面があった。しかし、慌てることなく上手に宥めながら自力でゆっくりと馬を減速させて再び部班の輪に戻った。「走りたくてしょうがないみたいです。暴走されるのは慣れているのであれが普通だと思っています」と木村君は練習後に平然と語っていたほどである。

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木村暁琉君が騎乗するヒメが暴走

 土曜日の締めくくりは、本馬場でのスタート練習だ。最終12レースが終わるのを待ちかねて、翌日の本番と同じ場所から発馬のポイントを再確認するのが目的である。以前はゴール付近まで試走していたが、ここ数年はスタートして数十メートルのところで馬を止める。

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前日本馬場スタート練習を行う加藤君と栗姫

 2人ずつペアで、スタート練習が行われた。ちょうど日没寸前の時間帯で、時折スタンドに西日が当たり強く反射する。翌日はこのリハーサルと同じ午後4時45分頃のレースである。8人はそれぞれ相棒となるポニーの癖や性格などを掴もうと一生懸命だ。

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前日本馬場スタート練習を行うワッソルメン・エミさんとタムタム

 本番まで残すところ24時間となった。

(次回に続く)

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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