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「故障を発生する」は文法的にどうかと指摘が

  • 2018年10月18日(木) 12時00分
 今、来月上梓する競馬ミステリーのゲラに手を入れている。

 その作業のなかで大きなウエイトを占めるのが、校正さんからの指摘への対応だ。校正は校閲とも言い、作品のなかでの事実関係に矛盾はないか、誤字・脱字や文法的な誤りはないか、さらに、表記は統一されているか……などをチェックする。

 優秀な校正さんからの指摘に向き合うのは緊張感があり、怖くもあるのだが、同時に楽しくもある。
 
 ひとつ、考えさせられる指摘があったので紹介したい。
 
 それは私が「故障を発生する」と書いたことに関してだ。
 
 私は20代のころから特に疑問に思わず、馬がレース中に骨折したときなど、そう表現してきた。これが競馬専門の媒体ならノーチェックで通るだろう。
 
 ところが、「故障」と「発生」をそのように組み合わせて使うのは、文法的にどうか、と指摘されたのだ。

 確かに、「発生する」は自動詞である。発生する主体は「故障」なのだから、正しくは「故障が発生する」と書かねばならない。例えば、「熱が発生する」「事件が発生する」と書くのと同じように。

 しかし、競馬に関する文章で「故障が発生する」と表現することは、まずない。先達も長年の習慣で「馬が故障を発生する」と書くのが普通になっている。

 それに対し、校正さんは、次のようにしてはどうかと提案してきた。

「故障を来(きた)す」

「故障を発生させる」

「故障を起こす」

 あるいは「故障発生」という表現が競馬用語的であるなら、「故障発生となる」としてはどうか、と。

 なるほど、と思った。

 が、私は、提案されたどの表現とも異なる形に直した。

 シンプルに「故障する」としたのだ。「負傷する」にすることも考えたのだが、それだと、骨折や腱断裂などの重傷を含まなくなるので、「故障する」にした。正確には「故障を発生する所有馬」を「故障する所有馬」に修正した。

 普段、意識していないところをこうして指摘されるとギクリとする。

 これはもちろんごく一部で、ほぼすべてのページに、何らかの指摘や提案、確認事項のチェックがなされている。

 ここに至るまで、自分で何度も推敲し、編集者に見てもらって、また直して戻す……という作業を繰り返して入稿したのに、まだリファインすべきところが残っているのだ。

 これは初校なので、校正さんの指摘に応えながら私が自分で赤入れして担当編集者に渡し、その編集者からの提案も聞いたうえで印刷所に戻すと、数日後、再校が出てくる。それをまた私と担当を含む複数の編集者が読んで手を加え、時間があれば三校を出してまた同じことを繰り返す。

 単行本も文庫も雑誌も、こうした作業を経て印刷物となり、書店に並ぶということを、少しでも多くの人に知ってもらえると嬉しい。

 来週木曜日、10月25日に発売されるスポーツ誌「ナンバー」の秋競馬特集に、アーモンドアイの4ページの原稿を書いた。先月、編集長を含む3人の編集者と打ち合わせしたときは、この馬を大きくとり上げるつもりはなかったようだが、私が「今、東西の厩舎にいるすべての現役の競走馬で一番強いと思いますよ」と言い、ページを割くことになった。これから初校が出るので、そこでも校正さんとやり取りすることになる。

 私は、忙しくなると眠くなるという怠け者体質なので、困ってしまう。それに加え、イネ科の花粉でも飛んでいるのか、昨日あたりから目が痒くてショボショボするし、全身の疲労が抜けない。

 少し仮眠をしてから、ゲラとの格闘を再開したい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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