見えてくるのは、ハーツクライ産駒の成長力
こだわりや先入観を外して、天皇賞秋のありのままと向き合ってみたい。「過去にこだわるものは、未来を失う」(チャーチル)ではないが、どれだけ「ありのまま」の姿に近づけるか。分らなくなると、その本質が歪められてしまう。
これだけGI馬が揃うと、それぞれの一番いい姿に思いが及ぶ。だが、それでは結論づける決め手にはならない。確たる主役は不在というのが、この秋の中長距離路線の見方だったことを念頭に、押えるところは押えておきたい。
2頭のダービー馬、マカヒキ、レイデオロは、前走で復調の兆しを見せた。強い世代のダービー馬マカヒキは、昨年は遠征の疲労が尾を引いた上に、天皇賞秋の5着は、加えて不良馬場が、ストライドの大きいこの馬には不向きだった。その後は骨折で休んでいたが、ハナ差で2着の札幌記念を叩かれたことで、今回は情況が良くなっている。
レイデオロの前走オールカマーは、スタートから気合を入れても掛からずに動いていた。今度は東京の2000米だが、スピードとスタミナ勝負になるので、合っている。前走の快勝は本物と見ていい。
世代の頂点に立った2頭のダービー馬をめぐる勝負の公算は高い。ただ、「こだわり」は捨てたいので、サラブレッドの持つ成長力にも目を向けておきたい。そこで見えてくるのが、ハーツクライ産駒のスワーヴリチャードだ。4歳秋以降に真価を発揮したジャスタウェイ、シュヴァルグランが最近ではハーツクライ産駒だ。いずれも古馬になってからGI馬になったところは、父馬と同じで、その成長力には定評がある。
スワーヴリチャードは、昨年のダービーは大きく馬体重を減らし2着だったが、今年は、夏を休んで秋はこの一戦にと調整されてきた。力でねじ伏せて勝った春の大阪杯は、見違える強さだった。自分でレースをつくれるので、どれだけ他馬に脚を使わせる競馬が出来るか。レースの主導権を握る強味が、レースに反映すると考えている。
「振り向くな、振り向くな。後ろには夢がない」(寺山修司)の言葉をスワーヴリチャードには送りたい。そんなにペースは速くない。これも味方する筈だ。