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「馬たちのセカンドライフ」イベントレポート 日本に再び馬のいる風景を(1)

  • 2018年10月30日(火) 18時00分
第二のストーリー

▲10月8日、競馬博物館内で行われたシンポジウムに筆者もゲストとして登壇(提供:認定NPO法人引退馬協会)


試行錯誤を繰り返しながら考え続ける引退馬の行く末


 10月8日、東京競馬場で「馬たちのセカンドライフ」というイベントが開催され、競馬博物館内ではシンポジウムが、競馬場内ではイベント参加9団体がブースを設けて啓蒙活動を行った。

 シンポジウムでは、引退した競走馬のセカンドライフを支える6団体が、その活動内容や様々なステージで活躍する引退競走馬たちの様子を紹介。今回の「第二のストーリー〜あの馬はいま〜」では、このイベントのシンポジウムを中心に私見を交えてレポートする。

 まずシンポジウムのトップバッターとして、認定NPO法人引退馬協会代表の沼田恭子さんとともに僭越ながら筆者も登壇し「引退馬の最終ステージを考える〜FOR YOUR HORSE あなたの愛馬は引退後どこに行くのでしょう〜」と題して、引退競走馬の現状について紹介させて頂いた。
 
 題名は「引退馬の最終ステージを考える」だが、根底に流れるテーマは「馬のいる風景を作りたい」。

 かつて日本には150万頭の馬がいた。農耕馬として農家にはなくてはならない戦力であり、交通手段としても馬は欠かせない存在だった明治、大正時代、それだけ多くの馬が日本には存在し、馬がいる風景が当たり前だった。沼田さんによると、現在は競走馬や乗馬を含めて約7万頭ほどの馬が日本には飼われているという。人口の増加や環境の変化があるにしても、日本にもまだ馬を飼う余裕はあると言えそうだ。

「平成7(1995)年あたりには12万頭ほどの馬が飼われていたという記録があるので、7万頭の倍の数になるのは普通なのではないでしょうか」(沼田さん)

 12万頭のほとんどが競走馬や乗馬で、牧場、競走馬のトレーニング施設、乗馬クラブという施設内とはいえ、最近でもかなりの数の馬たちが日本に存在していたことになる。もし今後、引退した競走馬たちが様々な形でセカンドライフ、サードライフを過ごしていくような道がもっと開ければ、かつての日本のように、馬のいる風景が、そして子供たちが馬と触れ合う風景が当たり前になり、馬はもっと身近な存在になっていくはずだ。

 沼田さんが代表を務める認定NPO法人引退馬協会は、20年前に活動を始めている。

「競走馬が引退した後にどうなるのかが、わからない時代でした。その時代に1頭でも生かされて、その馬たちに新しい道をつけたいというところから始めました。20年間の間に、いろいろな馬の生かし方や最後まで面倒を見るということに試行錯誤をしてきています」(沼田さん)

 その引退馬協会も加わって、2014年に引退馬連絡会が設立された。

「引退馬を主に扱っている牧場さんや団体が集まって、お互いの情報交換や高齢馬の管理や病気になった時にどうしたら良いかという情報交換のために作った団体です」(沼田さん)

 日本では競走馬になるために生産されるサラブレッドが圧倒的多数を占める。競走生活を終えた後の馬たちの行く先は、種牡馬、繁殖牝馬、乗馬と限られており、そこから漏れた馬たちは屠畜の道を辿る。こうして馬たちの多くが若くして命を終えているということもあり、高齢馬の飼養管理についての情報は少ないというのが実態だった。だがせっかく立ち上がった団体ながら、活動するのがままならないという現状がある。

「引退馬を扱っている牧場は、家族経営だったり、お1人だけで牧場をされているというケースがとても多いものですから、なかなか目に見える活動ができていないのが現状ですけど、SNSとか電話を使いながら、お互いに相談という形は今でも続けています」(沼田さん)

 引退馬連絡会には北は北海道から南は鹿児島まで、日本全国から11の団体が参加している。その中のいななき会は、引退馬協会の前身「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」設立のはるか以前から活動している。

「競馬ファンが集まってできた団体で、40年ほど前から馬の行く末を考えている方々がいたんです」(沼田さん)

第二のストーリー

▲引退馬連絡会に参加する11の団体(提供:認定NPO法人引退馬協会)


 今後さらに参加予定の団体もあるという。

「これからもっともっと参加団体が増えて、皆さんとの連携ができていけば良いなと思っています」と沼田さんが話すように、これまでどちらかというと点で存在していた養老牧場や引退馬を扱う施設が線で繋がるようになれば、情報交換のみならず引退した競走馬たちそれぞれに合った場所探しもスムーズになるのではないかと思う。

 ところで引退した競走馬たちは、いったいどのような場所で暮らしているのだろうか。当コラムに登場した馬たちは、乗馬クラブで乗馬となっているか、牧場で余生を過ごしているケースがほとんどと言っても良い。

「乗馬クラブのように馬房で飼っている馬と、昼夜放牧など屋外で飼われている馬。繋養施設というのは大きく分けるとこの2パターンなのかなと思います」(沼田さん)

第二のストーリー

▲引退馬の繋養施設についても詳しく解説された(提供:認定NPO法人引退馬協会)


 また前述した通り、養老牧場には高齢馬も繋養されている。

「平均寿命を計算するまでにはなっていないと思いますが、28歳くらいまでは馬が生きられるようになったと聞いております。20年ほど前は、20歳くらいの平均寿命を考えてましたので、かなり食と医療が進んで長生きができるようになったのではないでしょうか」(沼田さん)
 
 だが高齢馬を繋養するのには、健康管理等、若馬とは違った気苦労があるはずだ。繰り返しになるが、高齢馬も預かる養老牧場等の施設は、家族経営だったり1人だけで運営している牧場が多い。そしてそこには、ある共通の課題が見えてきた。

(つづく)



認定NPO法人引退馬協会 https://rha.or.jp/index.html

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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