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写真判定の誤審で

  • 2018年11月06日(火) 18時00分

イグナシオドーロへの対応は?


 11月1日に行われた北海道2歳優駿での“誤審事件”。レース翌日の昼前、ホッカイドウ競馬からのリリースで着順に誤りがあることを知ったときには、「今の時代にそんなことが起こるのか」というのが正直な感想だった。

 写真判定は見れば誰にでもわかるもので、それを複数の決勝審判員が確認していたということでは、あってはならない間違いだったと言わざるをえない。

 判定写真は、着順確定の発表からそれほど間もないうちに公開されるのが普通だ。しかし今回、それが公開されなかったことで、現場はまず混乱したらしい。翌日行われた記者発表によると、着順確定の6分後に、判定写真の再確認で誤審が判明したとなっている。

 判定写真を公開しなかったのは、すでに着順が確定して馬券の払戻が始まっているところで、ファンの混乱を避けるためだったと思われる。

 やや話は逸れるが、昭和の時代には、着順判定や八百長が疑われた場面などで、競馬場で焼き討ちや暴動があったという話が伝説的に伝えられているが、最近ではさすがにそういうこともほとんどなくなった。それでも十数年前、ぼくは笠松競馬場で一触即発という場面に遭遇したことがある。

 最終レースの馬券発売が締め切られたあと、出走馬がゲートのうしろで輪乗りをしている状態で、発走体制が整わないまま、おそらく30分以上も過ぎただろうか。メインの重賞の取材を終えて帰ろうとしたところ、ファンの一部が事務所の入口に押し寄せていた。扉の中では複数名の警備員が待機という場面だった。原因は、場外発売システムのトラブルで発売された馬券の集計ができず、発走が遅れたというもの。発走前に帰途についたため、その後どうなったかは見ていないが、暴動などの騒ぎにはならなかったような気がする。

 今回、判定写真をその場で公開しなかったことで、そうした混乱を避けられたということであれば、選択肢として悪くはない対応だったように思われる。ただし、2着と誤審されたイグナシオドーロの関係者にしてみれば納得がいかなかったであろうことは想像に難くない。事後の措置については農林水産省・競馬監督課などの判断も関わってくると思われ、ナイター競馬のその時間帯では、その日のうちに結論を出すということも難しかったのだろう。

 翌日16時から北海道庁で記者会見が行われ、18時前にはその会見の資料もリリースとして送られてきた。

喜怒哀楽

翌日公表された1、2着馬の判定写真


 判定写真を見ると、たしかに1、2着馬の馬体の色が一緒で、顔の部分は一体化していて見分けにくい。とはいえ手綱や頭絡の位置を見れば判別は可能で、何より鏡に映された反対側からの写真なら一目瞭然だ。

 ただそれでちょっと疑問に思ったのが、鏡に映った反対側からの絵で、2位入線ウィンターフェルの鼻面が写真の上部ギリギリの位置にあること。まさかその反対側の写真を見ていなかったということもあるまい。あくまでも邪推の域ではあるのだが、判定写真はモニター上で上下左右に動かせるはずで、肝心の部分がギリギリ切れそうなところでプリントされたのはなぜだろう。

 もうひとつ、誤審であることが発表されたあとも、NAR地方競馬全国協会のサイトの成績が、最初に発表されたとおりの着順のまま変更されていないことに疑問に感じている人も少なくないだろう。非公式な見解ではあるものの、一旦確定が出てしまった着順は変更されない可能性が高いとのこと。禁止薬物が検出されるなど不正が確認された場合には事後の着順変更が行われるが、今回は厩舎関係者に落ち度があったわけではないので、ウィンターフェルの1着が取消されることはないようだ(あくまでも現時点での推測です、念のため)。記者発表の資料から一部引くと、

1着 5枠7番「ウィンターフェル」、2着 2枠2番「イグナシオドーロ」と着順を確定しましたが、判定に誤りがあり、正しい到達順位は、1位2番「イグナシオドーロ」、2位7番「ウィンターフェル」でした。

 とあり、確定着順である「着」と、入線順位の「位」をしっかり使い分けている。そして着順変更の可能性については言及されておらず、この原稿を書いている6日(火)正午の時点でも発表はない。1位入線は認められたものの、確定成績では2着のままとなっているイグナシオドーロへの対応が今後どうなるのかは注目されるところ。

 今回の誤審は、重賞で、しかも中央と交流のグレード重賞だったということでは、今後もさまざまに混乱を引きずることになりそうだ。たとえばこのあと地方の2歳牡馬でグレード重賞の勝ち馬が出てこなかった場合、NARグランプリ・2歳最優秀牡馬の選定ではどんな扱いになるのかは難しい判断だ。

 そして実際に担当していた決勝審判員の責任は追求されるのかどうか。

 多くのスポーツでは審判がファンから見えるところにいるということもあるが、試合前に審判の名前が発表される競技も少なくはない。サッカーのワールドカップなどでは、どの試合をどの審判が担当するのかがファンの興味の対象になったりするほどだ。

 対して日本の競馬では現状、中央も含めて決勝審判員の名前などは公表されていない。諸外国の競馬では、レーシングプログラムの最初のほうのページに、競馬開催にかかわる担当役員の一覧を見かけることがある。たとえば香港国際レースのプログラムを見ると、「Racing Officials」というページには、審判員はもちろんのこと、スターター、馬場管理、獣医、広報など、競馬開催にかかわるあらゆる部署の責任者の名前が一覧で掲載されている。関係者やファンに対する責任の所在を明らかにするという意味でも、日本でも競馬開催にかかわる役員の名前の公表が検討されてもいいのではないか。

(お詫びと訂正)
 当コラム最後の段落について、「JRAではレーシングプログラムに記載がある」というご指摘を受けました。確認したところ、たしかにレーシングプログラムの最終ページに『開催執務委員』という氏名一覧がありました。お詫びするとともに、最後の一文を「地方競馬でも競馬開催にかかわる役員の名前の公表が検討されてもいいのではないか。」と訂正します。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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