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成長して自在性を増し、名手に導かれての快勝/マイルCS

  • 2018年11月19日(月) 18時00分

ビュイック騎手はまた一段と乗れる騎手になった


 流れは速くならないだろう…と予測された。マイルのチャンピオン級がそろって人気も割れた。1分33秒3の1〜2着馬こそ「0秒2」だけ抜けたが、そのあとはクビ差、ハナ差がつづき、1分33秒9で15着のブラックムーン(18番人気)までわずか「0秒6」差の大接戦だった。

 人気上位馬とはいえ、3着まで「1番、2番、3番…」。レース全体のバランスがスロー「前半35秒0-47秒1」、「後半46秒2-34秒5」=1分33秒3(1000m通過58秒8)だったため、みんなに余力があり4コーナーを回った馬群は横に大きく広がった。この週からCコースに移り、内ラチ沿いの芝も悪くない。結果は内を突くことに成功した内枠の馬がかなり有利だったかもしれない。

 3歳牡馬ステルヴィオ(父ロードカナロア)は、管理する木村哲也調教師とともにGI初制覇。いつもは直線強襲だが、前回あたりから少し自在性を増したところに、W.ビュイック騎手(30)。2014年からゴドルフィンの主戦なので、19頭立て、20頭立ての凱旋門賞にも乗っている。欧州のジョッキーは枠の有利不利をかなり重視するから、少し気合を入れて好位のインにつけた。たまたまマイルCSにしては前出のスローペースになったから、ムリな追走にならなかったのもラッキー。また、ステルヴィオも3歳の秋になり、馬群のイン追走も平気になっていた。先に抜け出したアルアイン(父ディープインパクト)の内に突っ込み猛然と抜けてみせた。

重賞レース回顧

マイルCSを快勝したステルヴィオ


 W.ビュイックは日本でのGI制覇はこれが初めてだが、今年は「UAE、香港、イギリス、アイルランド、フランス、USA」でGIを勝っている。12年、13年、14年の来日でJRA重賞はすでに4つ勝っていたが、また一段と乗れる騎手になった。

 種牡馬ロードカナロアは初年度産駒がこの1年間でGI競走4勝となり、現在、2歳と3歳の2世代だけで全国総合種牡馬ランキング8位まで進出しているのはすごい。

 2着した昨年の勝ち馬4歳ペルシアンナイト(父ハービンジャー)にとっても、追走が楽なペースで、なおかつマイルCSにしては少し時計がかかる芝も有利だった。勝ったステルヴィオのさらに内に突っ込んだ直線、ちょっと狭くなる不利もあったが、あれは仕方がないだろう。M.デムーロの連対率は4割を大きく超えているから不振などということは全然ないが、今回も頭差2着。この秋、ことGIでは勝ち運に見放されている。

 3着アルアイン(父ディープインパクト)は、3歳1月のシンザン記念以来のマイル戦。この楽なペースだから、とまどうことなくスムーズに2番手追走になった。もともとマイラー体型にも映り1600mにはまったく問題なかったが、スロー過ぎてことがうまく運び過ぎたかもしれない。勢いよく突っ込んできた差しタイプに並ばれたのが誤算。爆発力勝負には慣れていなかった。先頭のアエロリット(父クロフネ)が粘りに粘るところを必死に追撃するような展開のほうが好ましかった。

 そのアエロリット。「47秒1→58秒8→」のペースで途中から主導権をにぎって12着に沈むような馬ではない。死角があればここまで【0-0-0-2】の関西圏への遠征競馬と、1勝しかしていない右回りとされていたが、落ち着き払った気配、ふっくらみせる馬体から、そんな不安はないと思えた。「最後はワンペースなのか、回りが合わないのか…」騎乗したR.ムーアも失速の凡走に首をかしげた。牝馬だからこういう敗戦がないとはいえないが、体調不安になどつながらないことを望みたい。

 1番人気のモズアスコット(父フランケル)は、陣営が「直線入り口での接触の不利があまりに痛かった」とするように、大きくバランスを崩している。ただ、イレ込んでいるわけではないのに妙に落ち着きがなく、いつも以上に発汗していた。このスローなのに3コーナーで下がったあたり、道中、ルメールも自信がないかのように映った。

 モズアスコットも、アエロリットも完敗とはいえ、勝ち馬との差は「0秒5」だけ。記録上は惨敗ではないが、1〜2番人気馬の凡走はちょっと残念だった。日本のフランケル産駒はモズアスコットが【5-4-0-4】。ソウルスターリングが【4-0-2-6】。ミスエルテが【2-0-0-8】。天才の産駒は、意外に難しい一面があるのかもしれない。

 ロジクライ(父ハーツクライ)も、少しかかり気味だったとはいえ、このペースで先行して14着にまで後退は残念。C.デムーロは「相手が強かった」と振り返ったというが、そんなに弱くはないと思うので、この次の評価は難しい。

 猛然と突っ込んできたディープインパクト産駒の3歳カツジ、5歳ミッキーグローリーが、上がり33秒台前半で伸びて小差の4着、5着。こちらは枠順にもペースにも恵まれず、流れひとつでもっと好勝負だった。マイル路線は今回の大接戦が示したように、互角の能力を秘めた馬がいっぱい存在するという勢力図だろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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