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秘めるポテンシャル、可能性を想像できない逸材/ホープフルS

  • 2018年12月29日(土) 18時00分

他馬とは爆発するスピードが違う


 人気の有力馬が先行体勢を取って、3コーナー過ぎまで好位の2-5番手。お互いの動きを牽制する形のスローになり(前半1000m通過62秒5)、有力馬がそのまま4コーナーにさしかかる時点では、みんな余力十分。だれも止まる流れではない。

 伏兵の動向にも注目しようと、進出しかかっていたヴァンドギャルド(父ディープインパクト)、まくり気味に大外に回ったジャストアジゴロ(父ノヴェリスト)、出負けして後方追走のキングリスティア(父ベルシャザール)にも焦点を合わせた。

 しかし、見込みは薄そうなので、双眼鏡を2-3番手から抜け出しているはずのサートゥルナーリア(父ロードカナロア)に向けて驚いた。身をかがめて見ていたせいか、粘るコスモカレンドゥラ(父ノヴェリスト)、その横にアドマイヤジャスタ(父ジャスタウェイ)、ヴィクトワールピサ産駒のブレイキングドーン、ヒルノダカール。そして外からジャストアジゴロ(父ノヴェリスト)が並びかけようとしているのに、抜け出しているはずのサートゥルナーリアの姿が見えないのである。カベになった4頭のうしろに下がっていた。

 抜群の手応えでインの絶好位をキープし、ライバルの動きを射程に入れているうちに、前に入られ進路がなくなっていたのである。わずかなスペースを探し、ねじ込むように割って入ったのは、もうラスト1ハロン標を過ぎるあたり。先頭のアドマイヤジャスタの外に接近するとあっという間に1馬身半も抜けていた。レース上がりは「35秒5-11秒8」。サートゥルナーリアの残した数字も「35秒3-(推定)11秒6」にすぎないが、ギアチェンジは割って出た瞬間の50mくらいだけ。抜け出してからたちまち馬なりに変わった。隣にライバルがいたこともあるが、直線に向いて大接戦のGIなのに、最後までノーステッキだった。

重賞レース回顧

ノーステッキで勝ち切ったサートゥルナーリア(撮影:下野雄規)



 サートゥルナーリアの直後にいてスパートのタイミングを逸した感のある3着ニシノデイジー(父ハービンジャー)の上がりも同じ35秒3だが、約2馬身の差は位置取りの差ではなく、爆発するスピード(能力)の違いに映った。

 直前の追い切りでは他馬よりビシッと追って、初の遠征競馬ながらプラス12キロ。500キロになった馬体は、もう寸詰まりのマイラー体型ではなかった。フットワークも大きくなっている。思うに、新馬も、萩Sも、このホープフルSも、エンジン全開らしい瞬間はほんの50-100mくらい。果たしてどのくらいのスケールを秘めるのか、可能性を想像できない馬である。

 レース展望で、「父とは似ていない長所をもつ馬こそ本当の大物」などと安易に形容したが、父ロードカナロアは、3歳の4月まで【1-2-0-0】。1400mでも1600mでも負けて500万下だった。でも、サートゥルナーリアは完成度で父を上回っているから1600m→1800m→2000mで3連勝しているわけでないのは明らかである。こなせる距離の幅は父より広い、などという次元ではないのだろう。「男馬版=アーモンドアイ出現!」の形容はそれで間違いないが、ゴール前(エンジン全開になったとき)のフットワークがアーモンドアイとも、ロードカナロアともかなり違うように映る。もっとしなやかで大きい。気性は父に似て、落ち着きを保っておとなしく、きわめて賢いとされる。クラシックのころ、いったいどんな馬に育つのだろう。

 2着アドマイヤジャスタは中山の2000mを問題なくこなし、これで【2-2-0-0】。勝ち馬とは長所が異なり、もっとタフなレースで簡単にはバテない総合力を発揮するタイプか。ルメール騎手もそういう評価だった。

 そのルメール騎手、213勝達成のインタビューの途中で、当然のように「ここで武豊さんのことも言いたいです…」と、世界各地で4000勝を上回る勝利を記録する武豊騎手の快挙に触れた。懸命に言葉をさがしながらの畏敬のコメントに、ルメール騎手の人柄が現れ、祝福に集まったファンのこころに響いた。来年はもっと勝つかもしれない。奪い合いが一段と大変になる。

 3着ニシノデイジーも、アドマイヤジャスタと同じで、最後が爆発力の勝負になったのは苦しかった。ただ、崩れたわけではなく【3-1-1-0】。今回が初の2000mであり、初の中山コースだった。3歳の来季は強気の攻め作戦に転じるはずである。

 惜しかったのは6着にとどまったヴァンドギャルド。4コーナー手前からすごい手応えで先行グループを射程圏に入れたが、上がり勝負なのでコースロスの生じる外に回らず、馬込みに突っ込んだ。ただ、スパートして、外から一度、内からも一回寄られる不利があって能力を発揮できなかった。2着アドマイヤジャスタから0秒4差。勝ち馬は別にして、2-5着馬とは能力互角だろう。500万条件なら確勝級。

 2戦目で出負けしたキングリスティアは、ああなっては仕方なく前半は最後方からの追走。後方差詰めに終わった馬の評価は難しいが、逃げ切った新馬とは一転、追い込んで上がり最速タイの35秒3。単に差を詰めただけではなかった。大きく変わって不思議ない。まだ4カ月もある。

 ジャストアジゴロは外からまくって進出したものの、坂で急に失速。レース前にかなり気負っていたが、止まるペースではないだけに案外だった。東京コースに変わって再評価したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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