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分のある人気馬を競り落とす見事な復帰戦/アメリカJCC

  • 2019年01月21日(月) 18時00分

「現4歳世代のレベル高し」は幻想なのか


 6歳牡馬シャケトラ(父マンハッタンカフェ)の見事な逆襲だった。平地重賞では1988年のオールカマーを約1年3カ月(461日)ぶりの出走で勝った7歳(旧年齢表記8歳)牡馬スズパレード(父ソルティンゴ)の記録に次ぐ、約1年1カ月(391日)の長期休養明け勝利だった。

 前年のGI宝塚記念を快勝していたスズパレードとは状況が異なるが、シャケトラも約1年前のキタサンブラックの有馬記念を0秒5差の6着にがんばったGI競走の常連であり、カムバックなったばかりの角居厩舎の所属馬なので、(控えめだった)コメントに左右されず的中したファン以外は、シャケトラを侮りすぎていたかもしれない。

 シャケトラの勝利は、フロックでも、恵まれてのGII勝利ではない。勝ち時計がやや平凡だったくらいで、明らかに実力勝ちだった。人気の4歳馬フィエールマン(父ディープインパクト)も、同じくジェネラーレウーノ(父スクリーンヒーロー)も、約1年ぶりの勝ち馬と比較すればさまざまな点で有利だったはずである。少々「現4歳世代のレベル高し」に幻惑された面があったかもしれない。

 現4歳馬で、どの角度からみても明らかに他の世代よりレベルが高いのは、ジャパンCまで楽勝した牝馬アーモンドアイと、ダートのルヴァンスレーヴ、オメガパフュームなどであり、芝の短距離、マイル路線。また、3歳牡馬のクラシック3冠が(1頭1頭の秘める素質、可能性は別にして)、示したレースレベルは決して高いものではなかった。とくに菊花賞の3分06秒1は、スローだったとはいえ1980年前後のレースレベルである。

 その物足りなさを払拭するようにブラストワンピース(父ハービンジャー)が有馬記念を勝ったから、やっぱりこの世代のレベルは高いという評価に落ち着いたが、それが落とし穴だったかもしれない。だいたい、世代レベルうんぬんは数年のちにその世代の競走成績が完結してからの、あくまで歴史の中での評価のことである。

 勝った6歳シャケトラは3歳6月のデビューで、そのうえ約1年もの休養でまだ12戦【5-1-1-5】。戦歴だけなら4歳馬としてもいいくらいで、ファミリーのタフな特徴を受け継いでいるなら、まだこれからである。母の父シングスピール(その父インザウィングス)は世界6カ国で20戦9勝(ジャパンCなどGI4勝)の星を残し、母サマーハの4分の3同血の兄マムール(父インザウィングス)は、やっぱり世界6カ国で22戦8勝(GI2勝)を記録している。種牡馬マムールを母の父に持つ現3歳アンブロークン(父ヴィクトワールピサ)は、昨年の新潟2歳Sの2着馬。シャケトラの姉や弟などはみんなダートを中心に活躍しているように、もともとはUSAのタフなダート一族でもある。

 4歳フィエールマンは良馬場の2200mなら、めったなことでは取りこぼせないだろうと大きく期待したが、残念ながら先に抜け出したシャケトラにアタマ差及ばなかった。勝ち馬を射程に入れて直線に向いたが、レースの最後の2ハロンは「10秒9-11秒9」。高速ラップが刻まれた地点で差が詰まらなかった。これで【3-2-0-0】。レース検討で示した42年ぶりのグリーングラスにはなれなかったが、ここは勝ち馬の底力を称えるべきで、フィエールマンの評価は少しも下がるものではない。死角は、まだキャリアが浅いためか、菊花賞でもそうだったが、勝負どころの反応が遅いことか。

重賞レース回顧

直線の激しい一騎打ちをシャケトラがアタマ差制した(撮影:下野雄規)


 手塚調教師も残念がるように、この敗戦は痛い。前述のように菊花賞は勝っているがレースレベルが低かったため、勝ったフィエールマンのレーティングは117止まり。展望に入っていたドバイは選に漏れる危険性が高くなった。天皇賞(春)の3200m歓迎という長距離タイプとも思えず、3月末の日経賞2500mか大阪杯2000m、6月の宝塚記念2200m…の路線になると仮定して、次走はどこになるのだろう。当然、再び期待したい。

 人気を分けたもう1頭の4歳馬ジェネラーレウーノは4着にとどまった。しぶとい先行力が期待されたが、マイペースで行けば勝てた2歳時とは別に、ジェネラーレウーノの現在はつらい。3歳以降の好走は京成杯1着も、皐月賞3着も、セントライト記念1着も、果敢に飛ばす逃げ馬を行かせて、2番手追走から上がりのかかる展開をスパートしてがんばった快走。しかし、今回の「62秒2-(12秒8)-58秒7」=2分13秒7のような流れになっては打つ手がない。上がりのかかるレースに持ち込むには、自分でハイペースを演出するしかないが、しぶとい力量が評価され人気のジェネラーレウーノが飛ばせば、ライバルの格好の目標は火を見るより明らかであり、負けてもともとの戦法を取れる立場ではない。

「上がりの勝負にしては不利になること」を承知の田辺騎手は、今回、残り1000mあたりから逃げるステイインシアトル(父ステイゴールド)にプレッシャーをかけ、ペースを上げさせている。だが、追走の各馬もジェネラーレウーノがいるからこそスパートは早い。まして残り400-200mで「10秒9」が記録される組み合わせだった。

 懸命に粘って0秒4差の4着は、同じような流れになった日本ダービー16着や、菊花賞9着とは中身が異なり、同馬の上がりも34秒9だった。でも、さらに格段のパワーアップを示さないと苦しい。ジェネラーレウーノが軽視されるようになるとき、レース上がりがかかる少し縦長の展開もあるだろうが、それはビッグレースではないだろう。

 ダンビュライト(父ルーラーシップ)は自在型だが、気楽な立場でもう少しタメが利いたときが狙いか。自分から動くと甘い。一瞬、あわやと思わせた6歳メートルダール(父ゼンノロブロイ)、8歳とはいえ途中まで軽快に逃げたステイインシアトルは、キャリアを考えるとまだ消耗していないだけに今後も侮れない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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