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英国一般ファンの人気が高いレースとは!?

  • 2019年01月23日(水) 12時00分

馬券が売れるのは今が真っ盛りのあの競馬


 日本で最も馬券が売れるレースは、ダービーでもジャパンCでもなく、有馬記念であることは世界的にも良く知られている。

 有馬記念は、競馬という枠を超えた日本における暮れの風物詩となっており、1年に1度だけ馬券を買うという国民の半ばにとって、有馬記念がその機会となっているはずだ。そのお膳立てとなっているのが、出走馬をファンが選ぶというファン投票のシステムで、3月にはオーストラリアのメルボルンで、有馬記念に範をとって出走馬をファン投票で決める「ジ・オールスターマイル(芝1600m)」が創設される。1年に1回馬券を買う人たちは、ファン投票には参加しないであろうから、この部分においては、普段から競馬を見ている熱いファン層がレースを盛り上げる役割を担う。すなわち、競馬ファンも、そうでない人たちも、一体になって楽しめるのが有馬記念であると言えそうだ。

 英国の競馬日刊紙レーシングポストの1月17日付けの紙面に、2018年に英国で馬券が売れたレースのトップ40という、興味深い統計が掲載された。

 当たり前のことかもしれないが、英国も日本と同様、普段は競馬を観ないという人でもテレビの前にかじりつく、あのレースが第1位となっている。英国の競馬ファンは、民間会社のブックメーカーを通じて馬券を購買するのが日常で、日本のように統轄団体から売り上げの数字がサクッと発表されるわけではない。今回レーシングポストに掲載されたのは、大手ブックメーカーのラドブロークスとコーラルが提供した数字を合算して作成した統計だった。売り上げ金額を出すと差し障りがあるのか、各レースの個別の売り上げ高の公表はなく、掲載されたのはランキングだけだ。

 手元に、レヴィーボードが発表した2014年と2015年の売り上げトップ10のリストがあるが、こちらも公表されているのは順位だけで、それぞれのレースの売り上げ高は記載されていない。

 2018年に英国で最も馬券が売れたのは、4月14日にエイントリー競馬場で行われたG3グランドナショナル(芝34F74y)だった。英国内だけで総人口の6人に1人にあたる1000万人がテレビ観戦するという、国民的行事がグランドナショナルで、「年イチ」の競馬ファンもここぞとばかり馬券を買うレースであるゆえ、当然の首位と言えよう。

 2位以下を記すと、3月16日にチェルトナムで行われたスティープルチェイス3マイル路線の最高峰G1チェルトナムゴールドC(芝26F70y)が第2位で、6月2日にエプソムで行われたG1ダービー(芝12F6y)が第3位。4月21日にエアで行われたG3スコティッシュグランドナショナル(芝31F176y)が第4位。そして、ボクシングデイの12月26日にケンプトンで行われたG1キングジョージ6世チェイス(芝24F)が第5位で、トップ5は前年(2017年)と全く変わらぬ顔触れとなった。

 2015年の統計を見ても、この5レースは顔触れも順番も同じで、2014年だと、グランドナショナル、チェルトナムゴールドC、ダービーのトップ3までは変わらぬ顔触れだった。

 ちなみに2014年は第4位に、チェルトナムフェスティヴァルを舞台としたハードル3マイル路線の最高峰G1ワールドハードル(芝23F213y、現在の名称はステイヤーズハードル)が入っていた。馬券売り上げは、その年のメンバー構成によっても変わるし、当日の天候にも左右されるものだろうが、グランドナショナル、チェルトナムゴールドC、ダービーの3競走に関しては、売れ筋として不動の地位を築いていると言ってよさそうである。

 2018年の数字を改めて検証すると、まず目につくのが、障害戦の強さだ。英国ダービーが第3位に入って面目を保っているものの、トップ10圏内に入った平地のレースはその英国ダービー1レースのみ。残り9レースは障害戦が占めている。平地では、第11位に仏国のG1凱旋門賞(芝2400m)、第12位にニューマーケットを舞台とした牡馬3冠初戦のG1二千ギニー(芝8F)、第18位にドンカスターを舞台とした3冠最終戦のG1セントレジャー(芝14F115y)が入っている。すなわち、トップ20のうち16競走が障害戦なのだ。

 そして、障害戦の中でもことさらに人気が高いのは、3月にチェルトナム競馬場を舞台に行われるフェスティヴァル開催に組まれるレースだ。前述した第2位のチェルトナムゴールドCしかり、第6位から第10位までの5競走は全て、3月13日から16日まで開催されたチェルトナムフェスティヴァルで施行されたレースが並んでいるのである。更に、第13位から第17位に並ぶ5競走もまた、チェルトナムフェスティヴァルのレースで、すなわち、トップ20の半数以上にあたる11競走が、チェルトナムフェスティヴァルに組まれたレースとなっている。

 筆者はこれまでも、色々なところで言ったり書いたりしてきたが、英国では平地よりも障害の方が、一般ファンの人気は高いのである。障害競馬のシーズンは、まさに今が真っ盛りで、そのハイライトとなるチェルトナムフェスティヴァル(3月12日から15日)まで、既に2か月を切るところまで来ている。今週末の1月26日にはお膝元のチェルトナムで「フェスティヴァル・トライアルズ・デイ」が行われるし、来週末の2月2日と3日に愛国のレパーズタウンで組まれているのが、「ダブリン・レーシング・フェスティヴァル」だ。そして、入障以来17連勝中というスティープルチェイス2マイル路線の絶対王者アルティオール(セン9、父ハイチャパラル)や、12月28日のG1愛クリスマスハードル(芝24F)で牡馬相手に26馬身差の圧勝を演じ9度目のG1制覇を果たしたアップルズジェイド(牝7、父サドラーメイカー)など、パフォーマンスを絶対に見逃せないスターホースたちの存在もある。

 フェスティヴァル開催までの動向に、日本の競馬ファンの皆さまもぜひご注目いただきたい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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