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【無料】連勝を重ねる日高生産馬インティの活躍

  • 2019年01月30日(水) 18時00分
生産地便り

東海ステークス後、武田ステーブルで休養中のインティ(2017年11月17日撮影)


小規模牧場から誕生したヒーロー


 去る1月20日、中京競馬場。この日のメインは「第36回東海ステークス(GII)」であった。ダート1800m。このレースを圧巻の強さで制したのはインティである。武豊騎手が騎乗し、レースレコードを0.6秒更新する1分48秒8での勝利であった。

 父ケイムホーム、母キティ。母の父はNorthern Afleet。牡5歳栗毛。栗東・野中厩舎の管理馬で、馬主は武田茂男氏。生産は浦河・山下恭茂牧場。デビュー戦こそ敗退したものの、2戦目から破竹の6連勝でついに重賞勝ち馬になり、獲得賞金も1億円を突破した。

 先日、ここ浦河町内のレストランを会場に、ささやかにインティの東海ステークス優勝祝賀会が行なわれた。馬主の武田茂男氏は、BTCを拠点に育成牧場を営んでおり、20数年前よりここ浦河に拠点を構えている。かつてメジロ牧場の場長を務め多くの名馬を手がけた経験をもとに、ここでもアドマイヤコジーンやファインモーションなど、幾多のオープン馬を育成してきた。現在、育成牧場は、メジロ牧場時代からのコンビである延島多恵志場長と、子息の浩典氏が専務として現場を固める。

 ノーザンファーム生産馬がGIレースの多くを制する今の競馬界は、相対的に日高産馬が苦戦を強いられており、まして中小牧場生産馬が頭角をあらわすチャンスは以前と比較するとかなり限られてきている。そんな中、年間の生産頭数が数頭規模の家族経営牧場から、連勝を続ける逸材が生まれる確率は相当低くなる。しかし、だからといって必ずしも可能性がゼロではないところに競馬の持つ意外性がある。こうした思いがけないところから、突然激走する馬が出現する例は、過去にも何度となく繰り返されてきたことだ。

 インティの生産は、浦河町野深の山下恭茂牧場。インティの母キティもここで誕生しており、武田茂男氏の所有で、野中厩舎に預けられ、4勝を挙げて準オープンまで出世した。

「走った牝馬は生産牧場に帰って繁殖牝馬として繋養されるのが一番大切にされる」という武田オーナーの意向から、キティが故郷に帰ってきたのは現役を引退した年のこと。

 インティはそんな母から生まれた初仔である。本来であれば、こうした原稿の順序として、生産者の談話をもらいインティの幼駒時代のことなど紹介するのが筋だが、実は生産者本人は今、入院加療中にあり、直接取材のできない環境にある。したがって、東海ステークス当日も、彼は病院のテレビを見て応援していたのであった。

 その後も、彼は病床にあり、先日の祝賀会にも姿を見せられなかった。私事ながら、生産者・山下恭茂氏は高校時代の同級生で、付き合いは古い。単に古いだけではなく、この業界では最も親しい仲でもあっただけに、連勝を続けるインティの活躍が、彼にとってどれほどの喜びであるかがよく分かる。おそらくこの馬が生産者としての「最高傑作」になるであろうと思われるだけに、自ら出かけて競馬場で応援できない現状を非常にもどかしく思っているであろうことは間違いない。

 そんな事情から、彼の牧場は繁殖牝馬を減らし、生産規模を縮小して当分の間、療養することを優先せざるを得なくなった。ただ今後は、これまでとは比較にならないほど注目度が増してくることだけは間違いなく、小規模牧場から誕生したヒーローとして、生産者もまた取材対象になってくるだろう。

 家族経営とはいっても、実態は夫婦2人で営んでいたり、どうかしたら独身の後継者が実質1人で営む生産牧場が日高には結構目につく。山下家もまた夫婦2人の牧場である。東海ステークス直後には留守を預かる夫人が「できることならなるべくそっとしておいて欲しい」と漏らしていたのは偽らざる本音であろう。

 インティの次走はフェブラリーステークスになりそうだが、私も可能な限り夫人に「静かに騒がずに」その日を迎えさせてあげたいと思っている。

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岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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